00936_企業法務ケーススタディ(No.0256):従業員持株会制度を導入せよ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十八の巻(第28回)「従業員持株会制度を導入せよ!」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 尾振 犬男(おふり いぬお)

相手方:
金融庁

従業員持株会制度を導入せよ!
当社は、従業員持株会制度を導入することにしました。
従業員の帰属意識を強められるし、従業員との対立を緩めらるし、事業承継の際には税負担を軽減できるし、安定的に自社株買取資金をプールできるため、買収防衛の際には有力なホワイトナイトにもなってくれるでしょう。
そのうえ、社長に対して不滅の忠誠を誓った社員を従業員持株会の理事長に任命すれば、会社の都合のいいときにいいように自社株を買わせることができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員持株会制度
従業員持株会制度は、自社の株式を従業員に取得させる制度で、
1.従業員が直接株式を取得して株主となる
2.従業員が組織をつくり、その組織が株式を取得して、従業員は持分を取得する
方法があり、一般的には2が採用されています。
具体的には、従業員持株会という民法上の組合をつくり、その会員である従業員が一定期間ごとに拠出金を積み立てて資金をプールし、従業員持株会がその資金で株式を購入し、各従業員の拠出金額に応じて分配します。
一定期間ごとに確実に資金がプールされていくため、会社は、第三者割当増資をする際に従業員持株会を割当先とすることが期待できます。
また、従業員個人が会社を退職するとき、会社に利益分配可能額がない場合、従業員持株会が退職従業員から株式の持分を買い戻すことが可能ですし、株式が会社の希望しない第三者に譲渡されてしまうことを阻止できます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:金商法による包括的規制
金融商品取引法(以下「金商法」)は、
「組合契約や匿名組合契約に基づく権利や社団法人の社員権などのうち、その権利を有する者が出資した金銭を充てて行う事業から、収益の配当を受ける権利」
については、法令が特に除外したものでない限り、有価証券とみなします 。
組合方式の従業員持株会制度は、金商法の規制対象となり、有価証券報告書等で適正な情報開示を実施しなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:従業員持株会制度の金商法適用除外要件
他方で、金商法は除外規定を設けています(金商法2条2項5号、金商法施行令1条の3の3第5号、金商法第2条に規定する定義に関する内閣府令6条2項)。
次の要件を満たす従業員持株会であれば、金商法の規制の対象となりません。
1.株券の買付けを一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかずに継続的に行うこと
2.1人あたり、1回あたりの拠出金額が100万円に満たないこと

助言のポイント
1.従業員持株会も、規模が大きくなれば、「集団投資スキーム」に該当して、金商法の規制を検討する必要が出てくる。
2.金商法は「集団投資スキーム」を包括的に規制対象としている。組合型の従業員持株会制度も、同法の適用除外要件を満たさない限り規制対象となる。適用除外要件の適否を慎重に検討せよ。
3.金商法は、法令に加えて、規制当局たる金融庁から各種ガイドラインが出されているが、これらも法令以上に重要。
4.金商法の日本語と思えない規定ぶりに加え、同法施行令、定義に関する内閣府令、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令など、関連法規も複雑怪奇。規制の適否解釈にあたっては、この種の面倒な作業を厭わない緻密な専門家を活用しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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