00962_企業法務ケーススタディ(No.0282):従業員の著作権はすべてわが社のもの!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年9月号(8月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十四の巻(第54回)「従業員の著作権はすべてわが社のもの!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
顧問弁理士 白瑠(ぱくる)

相手方:
脇甘商事株式会社グループ 脇甘出版 エンジニアリング部門 元アルバイト 茶狩(ちゃっかり)

従業員の著作権はすべてわが社のもの!:
このたび刊行するIT技術書は、アルバイトとして在籍していたエンジニアが勉強会にて配布したレジュメもとにつくりました。
当時、勉強会を当社主催ということで許可してやり、所属を当社の技術スタッフ、残業代まで払ってやったにもかかわらず、相手は、パクったら訴える、といってきました。
弁理士に相談すると、
「特許は厳しいが、著作は、指揮命令関係だけあれば従業員の成果はパクり放題」といいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:職務発明と職務著作(法人著作)
企業の従業員が業務に関する発明をした場合、当該職務発明にかかる特許権は原則従業員のものとなります。
これに対し、企業の従業員が著作物を作成した場合には、その著作物の著作権は企業のものとなります。
違いが生じるのは、特許法と著作権法の規定に違いがあるからです。
企業が従業員の特許権を企業に帰属させようとするのであれば、企業が従業員に対し相当な対価を支払う必要があります。
これに対し、企業の従業員によって職務上作成された著作物については、その作成者が特定されない場合も多く、特定できたとしても、それを公表した責任は企業が取るものだからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:アルバイトでも職務著作?
従業員の作成した著作物については企業が著作者となります(著作権法15条1項)が、これには著作物を作成した者が
「法人等の業務に従事する者」
であることが必要です。
非正規雇用者であったとしても、会社の指揮監督下において勤務し、勤務内容を基に作成し、発表に際し会社の会議室を利用し、残業代を得ていたのであれば、
「法人等の業務に従事する者」
といえそうです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:法人名義で公表
「法人等の業務に従事する者」
が作成した著作物の著作権が、無条件にすべて法人に帰属するというワケではありません。
従業員が職務上作成した著作物の著作権が企業に帰属するためには、
「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」
でなければならないのです。
したがって、設例では、元アルバイト従業員が作成したレジュメの表紙の記載が
「講師 茶狩(所属:脇甘商事エンジニア部門)」
となっているのであれば、その著作権は、当社のものではなく、元アルバイト従業員のもの、という裁判所の判断になりそうですね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:差止めの場合と損害賠償の場合
著作者が著作権侵害で訴訟を提起した場合、侵害者に請求するものは
「著作権侵害行為の差止め」
および
「著作権侵害行為による損害の賠償」
と考えられます。
損害賠償請求は、民法709条に基づくものであり、著作権を侵害することにつき故意過失の場合に、初めて認められるものですが、著作権法112条1項に基づく差止請求は、著作権を侵害していることにつき、故意過失が要求されません。
たとえ損害賠償請求までは認められないとしても、差止請求は認められてしまう可能性が高いとなると、当該書籍を発行することはできず、印刷するために要したコストは補填されることなく、大きな損が出てしまうというわけです。

助言のポイント
1.特許権と異なり、企業の従業員が職務上作成した著作物の著作権は企業のものとなる。「オレのものはオレのもの、オマエのものもオレのもの」。世間は厳しい。
2.正社員も派遣社員もアルバイトもお手伝いも関係ない。会社の指揮の下に動く奴はみ~んな 「法人等の業務に従事する者」。やっぱり、会社は強い。
3.しかし、うっかり著作権をナメていると突然落とし穴があるぞ。法人の著作名義で公表するのがミソ。
4.著作権侵害に基づく差止請求と損害賠償請求は違う。差止めは「侵害している」と知っていても知らなくても関係ない。

著者:弁護士 畑中鐵丸
著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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