本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十九の巻(第59回)「プロジェクト・マネジメント義務」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
同子会社 IT会社ツツヌケシステム
相手方:
ヤマト銀行
プロジェクト・マネジメント義務:
地方銀行の基幹システムを刷新するというプロジェクトに関わっていた子会社が、刷新されるはずだった全システムが中途半端だったと、訴えられました。
もともと当社社長同士で話が進み、大規模システム開発について合意はしており、そのなかで個別に受注した各ソフトウェアの納品は問題なく履行済みですが、プロジェクトの管理がイマイチだったからとして、これまで支払った金額にプラスして、仮に基幹システムの刷新がうまくできていたら削減できていたはずのコストを上乗し、 損害賠償額111億円を請求されました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ITシステムの開発とは
ソフトウェア開発委託取引は、ユーザーが使用するソフトウェアを、開発側(以下「ベンダー」)に委託して新規開発することを目的とした取引です。
ベンダー側としては、
「この顧客は具体的に何を成し遂げたいのか」
という要件を聞き取り、ソフトウェア開発の目標として策定する行為(要件定義行為)を行った上で、進捗管理をしながら、その要件を実現するソフトウェアを製作することになります。
これが大規模システムの開発ということになると、各要件を実現する個別のソフトウェアを開発した上で、これらが合理的に動作するように
「統合」
する必要があり、現代では、このようなシステム開発案件は、要件定義等の上流工程を大きなIT企業が一手に行い、かつ、個別の開発部分を外部委託しながら、その成果物を組み合わせて1つの整合性を持ったシステムを作り上げるといった複雑な製作工程が取られています。
システム開発を受託した企業がどのような法的義務を負担しているのかは明確にし難く、要件定義を行ったうえに有意な各ソフトウェアを開発納入することで義務が全て果たされるのか、それとも、ソフトウェアが結合した形で有意に動くシステムを開発する義務まで認められるべきと考えるのかが問題となります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:プロジェクト・マネジメント義務
ベンダーは、システム開発全体にわたって、すべての状況を具体的に把握しながら進捗を管理すべき具体的な義務があります。
裁判例では、大規模プロジェクトを管理する側には、個別のソフトウェアの納入といった目にみえやすい成果物を納入すべき義務があるだけでなく、プロジェクト全体をマネジメントすべき義務があるとされました(東京地裁平成16年3月10日判決)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判例の趨勢
別の裁判例では、プロジェクト・マネジメント義務がより具体化・広範化され、納入する個別のソフトウェア(パッケージ)がシステム構築との関係でどのような影響を与えるべきものなのかを子細に検討した上でユーザーに情報を提供しなければならないと示され、74億円の賠償命令がベンダー側に下されました(東京地裁平成24年3月29日判決)。
その後、平成25年9月26日には東京高裁において、認容額が一部減額(41億円に減額)されたものの、ユーザー側の言い分が主として認められ、ベンダー側は企画・提案段階でも想定リスクを具体的に説明すべき義務があるとするほか、
「契約に基づき、本件システム開発過程において、適宜得られた情報を集約・分析して、ベンダとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築を進め、ユーザーに必要な説明を行い、その了解を得ながら、適宜必要とされる修正、調整等を行いつつ、本件システム完成に向けた作業を行うこと(プロジェクト・マネジメント)を適切に行うべき義務を負う」
との判断がなされました。
助言のポイント
1.システムの完成なんて請け負っていない!? そんなの関係ない。いつの間にか「信義則上」、システムの完成に向けた合理的な努力を行うべき義務(プロジェクト・マネジメント義務)が認められることがある。
2.システム提案時から「どのような阻害要因があって、どのように乗り越えられるのか」、はたまた「どの程度の追加費用がかかりそうなのか」、について十分な分析を行い、都度、説明する必要がある。
3.要求をコロコロ変えるユーザーのせい? そんなもの議事録等で事後的にしっかり確認できなければ、何の意味もない。現場の人間の「大丈夫です!」みたいな勝手なコミュニケーションが後々致命傷になる。コミュニケーション管理を徹底しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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