00968_企業法務ケーススタディ(No.0288):不都合な事実は隠してしまえ!!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十の巻(第60回)「不都合な事実は隠してしまえ!!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
グループ会社 ベスト・クオリティ電器株式会社(BQ電器)

不都合な事実は隠してしまえ!!:
当社が3年前に買収した家電メーカーから売り出した当時の新製品である温風器の購入者からクレームが続出ました。
そこで、故障を専門に請負う保守・修理センターを立ち上げ、対応していましたが、実は、非常に繊細な作りで修理が難しいため安全装置が入らなくても温風機が作動するように改造して顧客に納めていたことが、再クレームの嵐により発覚しました。
この対応策として、修理履歴を調べ、修理をした製品の無料サービス訪問点検を行い、安全装置がきちんと作動するようこっそりと再修理することを、社長は思いつきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)
刑法においては、過失致死傷罪(209条、210条)のほか、同法211条1項で、
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする」
と規定しており、通常の過失致死傷罪よりも厳しく罰せられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:修理ミスはこっそり直しておけば大丈夫?
保守・修理センターの修理報告に漏れがあれば、手抜き修理がされたまま改修されない当該製品が残存し、今後も人体に悪影響を及ぼす危険があります。
人体に直接影響する深刻な被害を発生させる手抜き修理を施された製品の存在を認識した以上、できる手段はすべて実行し、迅速かつ徹底的に、手抜き修理品を排除する義務があるといえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:パロマ工業ガス湯沸器事件
平成16年にパロマ工業株式会社製のガス湯沸器が原因で発生した死傷事故の刑事裁判において、業務上過失致傷罪(刑法211条1項)に問われた同社元代表取締役は禁固1年6ヶ月執行猶予3年の有罪判決を言いわたされました(平成22年5月11日東京地裁判決)。
この事件は、同社製ガス湯沸器の点火不良への応急措置として安全装置を作動させずに点火する改造が横行した結果、一酸化中毒による死傷者が各地で相次いで発生したものです。
裁判長は、ガス器具のような人の生命への危険を伴う製品を扱う企業の責任者にはより重い安全配慮義務があることを示し、同社元代表取締役はマスメディアに公表するなどの注意喚起の徹底、すべてのガス湯沸器に対する点検・回収の措置を講じなかったことをもって業務上の過失があったと認定しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:本件において脇甘社長がすべきこと
裁判例を見る限り、人の身体に悪影響を与えていることをすぐに公表して、把握できる限りすべての製品を点検・改修して、事故の再発を防がなければならない、といえます。
もし、これらの措置を取らずに、再度改造された『潔癖完全くん』によるやけど等の怪我人が発生しすれば、社長が業務上過失致傷罪に問われる可能性は非常に高いといえます。

助言のポイント
1.自社商品に、人の生命・身体に関わる欠陥があることがわかったら、即マスメディアに公表して商品を点検・回収すること。
2.取締役は、人の生命・身体に関わる欠陥商品による事故が発生しているのであれば、物理的に可能な限り事故の再発を防止する義務がある。
3.人の生命・身体の安全に関わる商品の欠陥を隠ぺいすると、バレたときの企業イメージはガタ落、下手をすれば企業は潰れてしまう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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