00973_企業法務ケーススタディ(No.0293):他社商品の交換部品を作って大儲けじゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十五の巻(第65回)「他社商品の交換部品を作って大儲けじゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
某コーヒーメーカー

他社商品の交換部品を作って大儲けじゃ!:
社長は、リサクルビジネスを思いつきました。
他社で一度正規に販売されゴミとなったコーヒーカプセルを収集し、コーヒー豆を入れ直して販売する、というものです。
コーヒーカプセルは特許で守られていますが、当社が売るのは、すでに販売して所有権が移動したものだから特許権侵害は関係ない、むしろゴミを減らす社会貢献だと考えます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許法の保護の範囲
特許法は、発明、すなわち技術的思想を保護します。
形而上の概念領域に、特定の技術を発明した人間が
「私的関所」
を設けることを国家が許可する、というものです。
「私的関所」
を、他人が通行しようとすると、
「関所破り」
として通行を禁じられたり(特許権に基づく差止請求)、通行料(ロイヤルティや損害賠償)を要求されたりします。
「関所の領域」
は、特許請求の範囲(「クレーム」)
に限定されます。
クレームには、
「物」
「方法」
など、その発明の種類が記載されていますが、クレームに記載された具体的内容を実現して、
「使用」
「生産」
することは特許権者しか許されません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:消尽という考え方
特許法の世界では、権利者が適法に販売した特許製品に対しては、以降、特許権の効力が及ばない
「消尽」
という概念(「用尽」) がだされました。
この消尽論が認められる実体的根拠は、
1.特許製品が転々と流通する際に譲渡のたびごとに特許権者の承諾を得なければならないとすると特許製品の流通が著しく妨げられてしまうということと、
2.権利者は、特許製品を販売する際に特許発明の対価を排他的に取得する機会が与えられるのであり、それ以降まで利益を得る機会を与えるなどということになると二重に利得の機会を与えることになり、保護として過剰である
などと説明され、最高裁も、
「特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである」
と述べています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:修理? 再生産?
特許製品の購入者による修理等特定の加工行為は、
「修理」
ではなく、
「再生産」
にあたり、特許権者にしか許されていない
「実施」
が行われているのではないか、という問題が起こります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:キャノンインクカートリッジ事件
この事件では、特許権者ではない第三者が、使用済カートリッジを収集し、インクタンクに穴を開けて洗浄して新たにインクを注入することで、再びしっかり動作するインクカートリッジとして製品化した行為が、特許権侵害かどうかが争われ、第一審は
「修理」
の範囲内で許される、としましたが、知財高裁平成18年1月31日は、消尽しない場面を2つ掲げ、精密な分析を行った結果、特許権侵害である、としたのです。
最高裁平成9年7月1日は、知財高裁と同様の結論を採りましたが、
「新たな製造」
に該当するかどうかによって判断すべきものとし、その際には、さまざまな事情を加味すべきとしたうえで、特許権侵害の結論を導いています。

助言のポイント
1.特許権と所有権はそれぞれ異なる権利。買ったものは自分のものだし、自由にいじくれるが、やり方によっては、他人の特許権を踏んづける場合がある。
2.他人の発明にタダノリしようとしても、そうカンタンにいかない。安易な儲け話に乗るときには、「リスクがある」「裏がある」と疑ってかかろう。
3.特許権の範囲は、一義的に決まらず、アメーバのように、どこまでも広がる危険性がある。他人の特許権を侵すようなビジネスを行う際には、慎重に、保守的に、事前の法的検証を行うこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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