00976_企業法務ケーススタディ(No.0296):海外取引での与信は慎重に!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十八の巻(第68回)「海外取引での与信は慎重に!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
X国 ヤスモノスキー

海外取引での与信は慎重に!:
海外から大きな商談が入ってきました。
相手は、すでに他の部品メーカーや組立業者とコンソーシアム契約を締結済みで、すぐにでも商品を航空便で送ってほしい、すぐに売ってくれるなら当社仕入値の5割増で、受領・検品後1週間以内に、代金を支払うといってきました。
社長は、スピード感をアピールする機会であることと、相手社長は信頼できるからと、契約交渉よりも先に商品を送るよう法務部長に指示しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:海外取引先の法的素性を確認しているのか
コンソーシアムとは、ある目的のために形成された、複数の企業や団体等の集合をいいます。
海外取引では、日本国内での国内取引と同じように、
「契約の締結主体は誰なのか」
「その者の法的素性はどのようなものなのか」
を、調べる必要があります。
団体が法人格を有するのであれば、日本の登記簿謄本に相当するものが相手国にあるはずですし、法人格がない場合でも、当該集合内部での規約等をメールに添付したPDF等で送ってもらい、法的素性を確認するべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「有限責任」は「無責任」
「有限責任」
法人は、
「出資者は出資だけして、あとは知らない。
会社債権者は、会社に残った財産だけから満足を得てくれ、出資者には一切、請求しないでくれ」
というような法的設計がなされており、いいかえれば、会社の経営が傾いて会社に残った財産が僅かとなってしまった場合には、
「無責任」
な制度なのです。
日本の合同会社と類似する
「LLC」“Limited Liability Company”(有限責任会社)
という法人の性質はまさに
「無責任」
会社となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:海外取引先からの回収は大変
国際社会における各国の法秩序に関しては、主権国家が、それぞれ
「法律」
というツールを使って、各国の領土を排他的に支配する状況が続いています。
したがって、例えば、日本の法律に従い、日本の裁判所で海外の取引先を相手に訴訟を提起して勝訴判決をもらっても、その判決を用いて海外の取引先の国で強制執行する、ということは、当然には認められません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:海外取引は現金前払い・引き換えが最も安全
海外の相手方からすれば、
「遠い日本にいて、自国の法律システムに疎く、自国の弁護士との言語上の意思疎通にハンデを抱え、争えば争うほどコストが大きくかかるため、自分に対する攻撃力が最も弱い」
日本企業は、
「裏切る」
対象として、優先順位は高くなる傾向が想定されます。
また、海外取引は、類型的に投資額が高くなる傾向や、
「社運をかけた」
傾向があるため、失敗した場合の損害が大きかったり、リカバリーが困難となりがちです。
したがって、海外取引では、
「現金前払いや、商品と現金を交換」
を大原則とすべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:貿易保険によるリスク転嫁
とはいえ、相手方との力関係によっては、
「現金前払いや、商品と現金を交換」
が難しい場合、貿易保険を利用する方法が考えられます。
なお、独立行政法人日本貿易保険では、2012年から、
「中小企業輸出代金保険」
を、資本金10億円未満の中堅企業にも利用できるようにしました。

助言のポイント
1.海外取引先の法的素性をまずは確認すること。
2.「有限責任」は「無責任」と心得よう。
3.「代表者が私財をなげうって弁済する」は日本だけの美学。
4.遠く離れた海外取引先に、自社がどのような強硬策をとれるのか考えてみよう。
5.海外にモノを売る際は、「現金前払い・現金引換え」が最も安全。
6.貿易保険の活用も検討すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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