00986_企業法務ケーススタディ(No.0306):行政の仁義なき裏切り

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十八の巻(第78回)「行政の仁義なき裏切り」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
杷木打目(はきだめ)村 新村長

行政の仁義なき裏切り
前村長たっての願いもあって当社が整備を始めていた廃棄物処理施設の建設事業が、 頓挫しました。
村長選挙で、廃棄物処理施設の推進廃止を公約する新村長が誕生したからです。
そこで、当社としては、
「約束違反だ。当然、村の債務不履行になる」
と、訴訟提起をすることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約の拘束力
あらゆる契約は、基本的には
「合意」
によってのみ成立するわけであり、常に契約書が契約の成立に必要、というわけではありません。
しかし、結局のところは、その
「合意」
の存在をさまざまな形ある証拠(覚書、メールやり取り等「書面」)によって立証することが必要で、何の証拠もないということになると、端的に
「契約は存在していない」
結論が導かれることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:契約交渉段階における先行投資等への補償はあり得ないのか
そうはいっても、実際に契約書が締結されずとも、
「契約が締結されるであろうこと」
を見越して、先行投資を行うことがあり、それは、ある種の信頼関係が基礎にあります。
「契約は確かに成立していない。
でも、そこに至る交渉のなかで信頼関係が構築され、これを信じて投資したのに裏切られた」
というものは、性質としては不法行為に類似します。
このような私人間の契約締結段階の責任の所在についての法的構成である
「契約締結上の過失」
「契約準備段階の過失」
に基づけば、損害賠償等一応の責任追及ができる可能性があります。
ただし、相手方が行政(自治体)であれば、さらに特別の検討が必要になってきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:行政による突然の方針変更への対応
自治体の活動は、住民の意思に基づいて行うべきとされています(住民自治の原則)。
たとえ、一定の施策を継続すべきという決定がいったんなされたとしても、社会情勢等の変化次第では住民の意思によって変更されることもあり得るわけで、
「地方公共団体が前首長の決定に未来永劫拘束される」
わけではありません。
「自治体は、いったん決定した施策に基づいて私企業等に対して負担を求めたとしても、選挙等に表れた住民の意思の変化に伴い、いつでも私企業の信頼を裏切り放題かどうか」
について最高裁は、いったん定めた自治体の施策が、契約を締結していなくても、企業側の信頼には法的保護が与えられなければならず、施策の変更で損害を被る場合には原則として不法行為が成立するものと判示し、住民自治や民主主義を根拠に企業との約束を無視することはできない、と判断しました(宣野座村工場誘致事件)。
なお、損害賠償といっても、損害の範囲は、信頼利益、すなわち
「契約締結のための調査費用や履行のための準備費用など、有効でない契約を有効と信じたことによって受ける損害」
に限定され、契約が履行された場合に得られるであろう履行利益は含まれません。

助言のポイント
1.行政だったらいったことは必ず守ってくれる? いやいや、一般の企業よりも大っきなちゃぶ台返しがあり得る。
2.行政は銀行と同じく、自分に有利な文書しか自発的には出さない。交渉経過を客観的に保全していくためにも、仲睦まじいときから積極的な文書徴求が必須。
3.契約なしで損害賠償、などというのはあくまで例外中の例外であることを認識し、いついかなるときも契約書を尊重しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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