00989_企業法務ケーススタディ(No.0309):お上に従っていれば大丈夫!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十一の巻(第81回)「お上に従っていれば大丈夫!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
警察庁

お上に従っていれば大丈夫!?
政治家を呼んでのセミナーを企画したところ、警察が
「政治家を守るために情報がほしい」
と、事前にセミナー参加者の情報を要求してきました。
当社としては、警察が当社の警備に協力してくれるのだから、断る理由などありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:政治家の警備に協力するのは国民の義務?
セミナー主催者として警備に万全を期すことは当然ですし、
「政治家の警備のために必要」
な情報を提供することは、当然警察に協力する義務があるかのように感じるかもしれません。
しかし、この日本という国家は、
「三権分立」
という枠組みで動いており、警察の考えが、裁判所でも同様に認められるとは限らないことに注意が必要です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:権力が一箇所に集まらない仕組みとしての「三権分立」
「三権分立」
という基本システムからすれば、行政権である
「警察」
と司法権である
「裁判所」
はまったく別モノです。
したがって、警察が
「政治家の警備のために情報を提供してください」
と要求したからといって、これが裁判所において
「正当である」
となるとは限りません。
セミナー参加者が
「警察に自分の情報を提供してほしくなかった」
と裁判所に訴え出た場合、裁判所はむしろ警察の暴走をチェックするという独自の観点から判断を行うことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:個人情報を警察へ開示することのリスク
セミナー参加者の中に、
「個人情報」
「プライバシー」
といったものに意識が高い人間が含まれている場合、セミナー参加者の情報を警察に提供したことに対して不満を持ち、
「個人情報を警察に知られない」
という
「利益」
を侵害されたとして、訴訟を起こしてくるというリスクがあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 本件の情報提供の違法性
早稲田大学が平成10年に、当時中華人民共和国トップの江沢民国家主席の講演会を開く際に、
「外国要人の警備に必要である」
とする警視庁の要請に応じて、講演に参加する学生の
「氏名、住所、学籍番号、面談内容」
等の情報を警視庁戸塚署に提供しました。
この情報提供に対し、学生がプライバシー侵害として訴えた裁判において最高裁は、早稲田大学には不法行為責任が成立すると判断しています(最判2小平成15年9月12日民集57巻8号973頁)。
企業として対処するには、アンケートを求める際に、
「政治家の警備に必要な範囲で情報を警察と共有する可能性があります」
などと一筆入れておくことが必要です。
注意事項が入っているにもかかわらずアンケートを書いた参加者は
「情報提供に同意」
しているとみなされ、主催者側が
「個人情報漏えい」
「プライバシー侵害」
を問われることはなくなります。

助言のポイント
1.警察と裁判所はまったく別モノ。むしろ、裁判所は警察の暴走をチェックするという観点を持っている。
2.個人情報、プライバシーは非常に強く保護されている。政治的意見の含まれた情報を警察に提供することは、提供した企業が不法行為責任を問われる。
3.どうしても警備の必要性のために情報提供する場合には、一筆「情報共有の可能性」があることを書いておくと、情報提供に同意したとされ、責任を免れることができる。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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