00991_企業法務ケーススタディ(No.0311):従業員の電子メールを監視せよ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十三の巻(第83回)「従業員の電子メールを監視せよ!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 従業員

従業員の電子メールを監視せよ!?
社内綱紀が乱れている様子から、当社では電子メールの監視に乗り出すことになりました。
メール監視については会社のシステムのみを対象にしており、基本的にプライバシーの問題があるとは考えていません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:一体、どのような法的問題が潜んでいるのか?
電子メールシステムは会社の費用負担で整備されていますから、その利用態様を把握しておくということは会社として当然とも思われる一方で、プライバシー性を帯びることも否定できません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:プライバシー権とは?
他者のプライバシーに配慮するということは、人権問題として法律問題に格上げされるようになりました。
根拠は、憲法13条の幸福追求権にあるとみるのが一般的であり、判例においては、
「個人の私生活の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(略)を撮影されない自由を有する」(最高裁昭和44年12月24日判決)
と具体化されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:どんなときに、「プライバシー権が侵害された」ってことになる?
プライバシー侵害の程度はケースごとに異なり、明確な要件をあらかじめ定めておけないため、合法かどうかを判断する道具として
「比較衡量」
が用いられ、都度、施策・規制等の必要性や合理性とプライバシーの程度や態様を天秤にかけ、
「どの価値観をどれほど重要視するのか」
を各裁判官に委ねられることになります。
経済産業省は、従業員のモニタリングに関して、
「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」(平成16年10月経済産業省)を定めています。
最も端的で完全な解決策は、
「プライバシー権を持つ当の本人から、当該権利を自主的に放棄させてしまう」
ことで、従業員から、
「会社にいる時間は私的なコミュニケーションをする理由がありませんし、会社のメアドその他ICT環境を業務以外に使うこともありません。
したがって、会社が、私のメール等の使用状況を調査することはごもっともで、プライバシーなど働く余地もありませんので、同意なく、いつでも調べまくってもらっても差し支えありません」
という文書をあらかじめ取得しておけば、後々、プライバシー権侵害云々の主張がされることを、ほぼ完全に防止することが可能と考えられます。

助言のポイント
1.プライバシーは、マナーでもエチケットでもなく純然たる法律問題。軽く考えて無茶苦茶やると、不法行為扱いされ、損害賠償の問題になる。
2.会社のメールモニタリングは、プライバシー侵害ということで従業員から訴えられた例もある。実に微妙で場当たり的なファクター分析で判断されており、結論がどっちに転ぶかははっきりいって想定できない。
3.最も端的で有効な方法は、「プライバシーなど要りません」と放棄させること。監視同意書をあらかじめ徴求して運用すること。ただ、強要や脅迫して徴求するのはマズイ。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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