00996_企業法務ケーススタディ(No.0316):債権が焦げついた!?  債務者を相手に裁判!?  やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十八の巻(第88回)「債権が焦げついた!? 債務者を相手に裁判!? やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
社長の知人 某

債権が焦げついた!? 債務者を相手に裁判!? やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!
知人を信じて貸し付けた債権が焦げついたうえ、相手はもう文なし状態です。
契約書はありますし、相手は弁護士すらつけられない様子ですが、社長は、
「絶対許さない、カネを返さないでタダで済むと思うなよ!」
と、怒り心頭です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:どんなに優秀な弁護士でも、コワモテの債権者でも、「カネのないところからはとれない」
資本主義社会において、破綻状態に陥り、債務を支払えなくなったとしても、債務者としては、 特段、生活に支障はありません。
債権者は、訴訟を提起し判決を取得して強制執行することもできますが、強制執行をするにしても、
「預貯金なし、目立った財産なし」
状態の債務者を相手に強制執行したところで、差押換価に値する財産がなければ、
「執行不能」
として空振りに終わります。
債権者が恐喝や暴力や拉致監禁するような回収行為をしたら、債権者の方が犯罪者となり、債務者側が、逆に、刑事告訴できますし、債権者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることもできます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:大金を貸すときは、決して情にほだされず、銀行ばりに相手の返済能力を確認しなくちゃ駄目ですョ~。結局、カネのない債務者相手にどんなに回収の努力をしても無駄
債権者として差し押さえようにも、不動産は銀行ローンの抵当権がついていたりする蓋然性が高く、車も同様です。
家財道具については押禁止財産の範囲が広く、29インチ以下のテレビやエアコンは差押不可ですし、仮に32インチのテレビを差し押さえたとしても経済的にはゴミとしか評価されません。
さらに、給与債権差押えについては全額できるわけではありません。
破産させようにも、破産申立費用に加え、債権者側において破産管財人の費用まで立て替える必要があり、しかも、もともとカネがなくて破産したのだから、配当されるカネはビタ一文ありません。
結局、債権回収の世界において、
「カネのない債務者」
は最強・最悪の強みを持ったプレーヤーであり、債権者は、契約書があろうが、判決文を持っていようが、強制執行をしようが、これらをきっちり遂行できるスゴ腕の弁護士を何人そろえようが、歯が立ちません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:カネのない債務者相手の債権回収は、相手の任意の弁済にすがるほかない
債権回収実務においては、債務者側に
「債務は争わないが、払うカネはないし、ない袖は振れない」(「手元不如意の抗弁」)
が提出されると、 債権者としてはどうすることもできません。
カネのない債務者に対する債権の価値はゼロで、
「泣き寝入り」
が正しい場合もあり得ます。
もっといえば、返済能力に疑問のある人間に金を貸さなければいいのです。

助言のポイント
1.カネのない債務者相手に裁判をやっても、強制執行をやっても、強制破産を申し立てても、すべて無駄で、意味はない。債権回収実務においては、「カネのない債務者」が「手元不如意の抗弁」を持ち出した瞬間、どんなに有能で強力な債権回収戦略も無力化される。
2.そもそも、返済能力に疑問のある債務者にカネを貸すなら、担保をとるとか、「回収不能になっても諦められる」範囲でしか貸さないとか、注意と警戒をもって対応すべき。
3.「カネのない債務者」が、近親者や縁故の協力を得て、少しでも返してくれるなら、迷わず、話を前に進めること。結局、任意に返済に協力してもらう以外、債権を回収する方法は皆無と心得よう。
4.債務者が一切返済に協力してくれなければ、とっとと回収を諦めること。時間や労力やコストをつぎ込めばつぎ込むほど、損がかさむ。なお、無税償却を考えるなら、税務の専門家ときちんと相談して実施すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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