00998_企業法務ケーススタディ(No.0318):株主からのキッツイ質問を、うまいことやりすごせ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十の巻(第90回)「株主からのキッツイ質問を、うまいことやりすごせ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘商事株式会社 上場子会社 脇甘交通

相手方:
イケイケ・ファンド 異毛田 逝男(イケダ イケオ)

株主からのキッツイ質問を、うまいことやりすごせ!
投資家ファンドが上場子会社の株式をひそかに市場で買い集め、すでに保有割合は5%を超え大量保有報告が出されている状況です。
きたる株主総会にて、そのファンドが経営陣に厳しい質問攻めをする計画があるようですが、社長は、
「同じ日本人、話せばわかる」
と、のんびり構えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会
株主総会とは、株式会社における最高意思決定機関です。
定時株主総会は、3月を決算期とする多くの上場企業で、年に1回、6月末ごろ株主に集まってもらい、株式会社の基本的な方針や重要な事項を決定するために開催されます。
定時株主総会の議題は、決算承認、配当の決定、取締役人事などが基本的なものとして上程されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主総会の実際
「株主は会社のオーナー」
とはいえ、株式は株式市場でいつでも売買でき、カネさえ払えば誰でもすずに株主になれ、イヤになったらすぐに辞められることもあり、株主総会にくる株主は、本来の株主数に比して非常に少ないです。
実際の株主総会は、実にドライで個性がないものです。
1票の動向によって方針が大きく変わるようなドラマチックな場面もなく、平穏に、退屈に、
「シャンシャン」
と進んでいきます(このように、波乱要素のない、小学校の朝礼のような、つまんない、眠くなる、面白みのない株主総会が、「シャンシャン総会」と言われ、企業側がもっとも希う模範的総会の姿とされます)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株主総会対策のトレンドの変化
現在では、株主総会対策上のメインターゲットは、経営者の経営責任を追及すべく財務諸表を読み込み、理論武装を徹底したプロの投資会社や買収者といったプレーヤーです。
総会対策においては、役員の退職金や役員個人の動向、さ細な不祥事追及を想定した運営準備だけでなく、余剰資産の活用、特定取引の経済合理性、各事業の採算性・妥当性、買収防衛策の内容と是非等、MBOや上場廃止発表後の総会における買取価格の妥当性等、経営合理性に関する相当突っ込んだ質問に対する適正な説明の準備が必要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:配当増額など「株主利益の最大化」を主張する株主への対策
株主主張への対抗論理をつくり上げる際のポイントは、
「株主利益最大化を求める投資家」
の質問の趣旨である
「会社は、シェアホルダー(株主)の短期的利益追求の要請に応えるべきだ」
に企業経営陣が乗らず、別の理念・哲学を基礎にした説明をすることです。
具体的には、
「会社は、シェアホルダー(株主)の短期的利益追求の要請のみに応えるものではなく、株主を含む多数のステークホルダー(利害関係者)のために存在するものであり、短期的利益追求もさることながら、ゴーイングコンサーン(継続的存続)を最大の存在目的とする。
したがって、短期的利益追求のみを指向した貴ご質問は、前提において当社の目指すべき方向性と異なるものと考えます」
等といった説明となります。

助言のポイント
1.株主総会対策のメインターゲットは、今や、総会屋ではなく、「経営者の経営責任を追及すべく財務諸表を読み込み、理論武装を徹底したプロの投資会社や買収者といったプレーヤー」。
2.株主総会において、会社側は、法的根拠に基づく合理的な株主からの質問をシカトできない。説明義務をおろそかにすると、株主総会決議取消騒動になり、大事になる。
3.うかつに相手の土俵に乗らず、「短期的利益追求」と「ゴーイングコンサーン(継続的存続)の追求」という根源的な価値対立の議論に「論争の場」をシフトし、最後は、「見解の相違」「価値観の相違」「企業経営に関する哲学の違い」という形で整理し、議論を終わらせ、決議に持ち込もう。
4.うるさい株主にカネや利益を供与する、など言語道断。最悪、逮捕、勾留、起訴され、前科持ちになる危険が出来する。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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