01004_企業法務ケーススタディ(No.0324):何がキャンセルだ! 全額返金なんてムシのいい話などあるか!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十六の巻(第96回)「何がキャンセルだ! 全額返金なんてムシのいい話などあるか!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同グループ会社(ブライダル事業) ニュー・ウェーブ・スプリング
同グループ会社(高級ホテル) ホテル・レベッカ

相手方:
下司田 文春(げすた ふみはる)

何がキャンセルだ! 全額返金なんてムシのいい話などあるか!
グループ内で展開するブライダル事業で、結婚の破談を理由に消費者が結婚式のキャンセルと申込金の返金を願い出てきましたが、社長は、
「約束を守るのは大人のモラル。
相手の破談は、当社には関係ない。
契約書には、違約金の条項もあったたのだから、 相手には違約金を払わせろ。
弁護士が出てくれば裁判だ」
と、申し出をはねつける勢いです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:B2C取引(コンシューマー・セールス)の特徴
企業対個人の取引、B2Cにおいては、
「取引の約束をした以上は、きっちり果たせ」
という企業側のメッセージは、ときに不公正で不正義を招きかねません。
企業側は、経済的にも情報面でも優位に立ち、マーケティングによって消費者のバイアスを昂じさせ、認識を操り、取引関係を支配できるような状況にあるといえるからです。
そんなわけで、B2Cの取引において、一定の条件が整えば、消費者側の取引キャンセルを容認する法的メカニズムが存在します。
具体的にいえば、消費者契約法における取消権や、特定の契約条項の無効措置、あるいは特定商取引法のクーリングオフ制度といったものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:B2C取引の各種消費者保護措置における企業にとってのインパクト
消費者保護措置は、消費者にとってまことにありがたい制度ですが、B2Cビジネスを展開する企業にとっては厄災以外の何物でもありません。
最近では、消費者問題に詳しい、企業を相手としたケンカのプロ集団である
「適格消費者団体」
が助太刀をして、紛議に介入することを可能とする消費者団体訴訟制度が導入されました。
加えて、消費者庁には、社名公表措置等、強力な行政上の措置が与えられていますし、司法の世界においても、今まで消費者側において諦めていたような各種取引が次々と裁判所に持ち込まれ、消費者契約法等の解釈を通じて企業側がイタイ敗訴を被る事例が登場しています。
問題は、当該企業にとって、まるで
「悪徳企業」
といったイメージが広がることで、ビジネスに有害な影響が出てしまうことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「法律で勝って、商売で負けても意味がない」のが、消費者向けビジネス
相手に弁護士がついて、裁判となろうが、最終的に勝訴判決を得られる可能性もゼロではないでしょうが、適格消費者団体の介入を招き、各種風評を拡散し、せっかくうまくいっている商売が台なしになっては元も子もありません。
総合的な戦略判断として、弁護士の介入に至る前に、相手の申し出を受け入れ、一部返金で解決してしまうのも十分検討に値すると思われます。
とはいえ、ナメられてしまっても困ります。
和解に際しては、本来は法的には契約書に書かれたとおりの金銭的請求権が異議なく明確に存在することを消費者サイドとして承諾するも、企業側の配慮による特別な措置として、企業側の好意を堅持した文書で表現すべきですね。
加えて、和解条項の守秘を厳密に約させ、その守秘を違約したら、高額の違約罰を支払わせる、といった、手厳しい措置も和解書に盛り込み、消費者側がネットやSNSやリアルな噂話で拡散しないよう、釘を刺しておき、企業側の防衛を完璧にしておくことが推奨されます。

助言のポイント
1.B2C取引は、消費契約法、特定商取引法といった消費者保護のための法的措置が整備されており、消費者に優しく、企業側にとって無茶苦茶厳しい形で、契約関係が修正されている。
2.仮に、争って最終的に企業側が勝訴したとしても、それ以前に、「エゲツないことをする悪徳企業」といった風評がネットやSNSを通じて情報拡散し、ビジネスが崩壊するリスクもあるから注意しよう。
3.「相手は一消費者」と思ってナメていると、足をすくわれる。適格消費者団体に、消費者庁、自治体、消費者問題エキスパートの弁護士といった、腕に覚えがあり、組織力・情報力を有する強力な敵対勢力ににらまれると、たちまち、事業そのものの存続が脅かされる。
4.「法律の理屈で勝っても、商売がボロ負けしては、意味がない」といった成熟した戦略判断で、風評リスクが表面化・巨大化しないよう、うまいことネゴし、ちゃっかり解決して、トラブルを押さえ込もう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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