01012_企業法務ケーススタディ(No.0332):証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百四の巻(第104回)「証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
株式会社ビッグマウス 社長・創業株主 大口 洞雄(おおぐち ほらお)

証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?
上場を目指すベンチャー企業に投資したところ、そのベンチャー企業社長は自分の株式を身売り先に引き取ってもらいカネを手にした一方で、当社が投資した株は二束三文となりました。
そこで当社は訴訟を提起しましたが、なかなか厳しい情勢です。
裁判官からは、尋問直前に具体的な条件を含めた和解の打診がありましたが、証人尋問での大逆転劇を狙う当社は蹴り飛ばしたのでした。
社長は、隠し玉の証拠である相手の前妻と前前妻とそのまた前の妻からの陳述書、愛人を三人囲う証拠写真、違法カジノに出入りしている様子、立ちション写真を提出すれば、裁判官も当社の正義に気づくはず、と息巻きます。 

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民事裁判における裁判官の仕事のやり方
裁判官はたくさんの事件を抱え、過酷なノルマが課され、成績管理がされています。
裁判官は、膨大な記録を速読して瞬時に事件の見通し(「事件の筋」)を立て、その見通しに従って事件を処理し、当事者の言い分や証拠を調べながら、高裁や最高裁でひっくり返されないように理屈を固めていきます。
いったん立てた事件の筋を変えてしまうと、思考経済上マイナスですし、仕事が停滞するもとになるため、民事裁判においては、
「事件の筋」
は事件の初動段階で確立され、その後、変更されることはまずありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:証人尋問はただのセレモニー
民事訴訟においては、事件の筋は証人尋問開始前にほぼ決まっており、実際のところ、ほとんどの場合、尋問はセレモニーにすぎないといえます。
弁護士会主宰のセミナーでの民事裁判官のアンケートで
「証人尋問の後で心証が変更することはありますか?」
との問いに7~8割近くの裁判官が
「尋問が終わっても心証の変更をすることはない」
と回答した状況が報告されたことから考えるに、
1 民事裁判官は証人尋問前に心証を決定している、すなわち、
「どちらを勝たせるか」
を決めた上で尋問に臨んでいる、ということ
2 大抵の事件において、証人尋問は、裁判官に何か新しい事実を発見させる場ではなく、すでにわかっている事実を確認する場である、ということ
3 裁判においては
「尋問前に提出している文書の証拠が乏しければ、どんなに尋問でがんばっても無駄」
ということなのです。

助言のポイント
1.大量の事件を抱え、時間がなく、ノルマに追われる裁判官は、文書だけでほぼ事件の勝敗の方向性を決めていることが多い。また、裁判の初期に描いた事件のイメージや勝敗の想定帰結は、ほぼ変更されない。
2.書証が整っている事件では、証人尋問はただのセレモニーか、敗訴当事者へのガス抜き程度にしか扱われていない可能性がある。書証が揃っている事件で、尋問で不利を挽回する逆転劇は、ほぼ皆無、と心得よう。
3.ただ、書証が出来上がった経緯のデタラメさや、書証の文言と実際発生した現実との齟齬や矛盾点や解釈運用上の難点を丁寧に突き、書証の信用性や効能を減殺することは可能。裁判官の心証をぐらつかせて、有利な和解条件を勝ち取ろう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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