01024_企業法務ケーススタディ(No.0344):タックスヘブン(?)で脱税しまくり天国じゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十六の巻(第116回)「タックスヘブン(?)で脱税しまくり天国じゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
国際派税理士 摂津 贅太郎(せっつ ぜいたろう)

相手方:
国税庁

タックスヘブン(?)で脱税しまくり天国じゃ!:
社長は、税理士から聞きかじったタックス・ヘイブンという方法で、税金の安い香港に子会社を作り、税金を軽くしようとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:税金はどこまで追っかけてくるのでしょう
経済活動がグローバル化してきたことを背景に、多国籍企業が
「国家の課税権が原則として自国にとどまる」
という原則を利用して、租税回避行動を企図するようになりました。
これを受けて、さしたる産業もないひ弱な国家や地域が、税負担を少なくし、それら企業を受け入れる、といういびつな状況が出現しました。
こうした企業の租税回避行動を自国が見逃すはずはなく、何とか課税しようと試みます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ヘブン? 脱税天国?
タックス・ヘイブンは、税金という
「暴風雨」
から逃れたい者が停泊し、課税を回避する場所という意味から生まれた言葉で、
「経済活動の実体がない企業の設立を認め、無税ないし軽課税であって、秘密保護法制により租税や金融取引に関する情報が出てこない国ないし地域」
を指しています。
1998年、OECD租税委員会がまとめた
「有害な税の競争」
報告書の中でタックス・ヘイブンの判断基準が示されました。
1 まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみであること
2 情報交換を妨害する法制があること
3 透明性が欠如していること
4 企業の実質的活動が行われていることを要求しないこと
著名なものとして、バハマ、ケイマン諸島、シンガポール、香港などが挙げられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:税金逃れを見逃さない対策税制
税収の流出を防止するため、特に先進国において、タックス・ヘイブン対策税制
「外国子会社合算税制(CFC:Controlled Foreign Company)税制」
というものが登場します。
わが国における歴史は意外に古く、租税特別措置法において、1978年に導入されています。
基本的な考え方は、タックス・ヘイブンに所在する子会社に留保されている所得の一部を、本国の親会社の所得にカウントして課税するというもので、本国の親会社は子会社分を自国とほとんど同じ税負担として負うことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:対策税制の抜け道
外国子会社は、法律上は
「外国関係会社」
といい、外国法人のうち、発行済株式総数の50%超を日本の親会社が保有している会社をいいます。
こうした子会社であれば、ほぼ日本の親会社と同等に考えてよいという建付けで課税が行われます。
しかし、日本の親会社が50%超の株式を保有している場合であっても、現地のヒト、モノ、カネ、行政サービス、インフラなどを全面的に利用し、現地の会社として経済活動が完結している場合、実体は現地の会社といえるため、その現地に対して納税義務を負うべきといえます。
こうした場合、タックス・ヘイブン対策税制においても、例外措置が認められ、経済活動基準を満たせばタックス・ヘイブン対策税制の適用対象外となります。
具体的には、
1 事業
2 実体
3 管理支配
4 非関連者又は所在地国
に細分化されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:抜け道は抜け穴か?
特に争いになるのは、3の管理支配基準についてです。
最二小判平成4年7月17日(その第一審である東京地判平成2年9月19日)という裁判例では、管理支配基準を満たさないとしました。
子会社である以上、完全な独立はあり得ない一方、その事業の管理、支配及び運営を自ら行う必要がある、という相反する要件も満たさねばなりません。
結局のところ、適用除外を得るハードルはかなり高いといえましょう。

助言のポイント
1.課税権は、原則、国家内にとどまるものであるが、徴税したい国はどこまでも追いかけてくると心得よう。
2.タックス・ヘイブンに会社を設立しても、対策税制で課税されるリスクは残る。適用除外となる基準①事業、②実体、③管理支配、④非関連者または所在地国を熟知することで、租税回避できる可能性はある。
3.とはいえ、国も徴税に必死なので、基準に該当するかを争って課税処分、訴訟で争うという手に訴える可能性があり、争われた場合、これを突破するハードルは高いため十分注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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