01033_企業法務ケーススタディ(No.0353):著作権侵害と警告されたが、その前に、それって著作物なの!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十五の巻(第125回)「著作権侵害と警告されたが、その前に、それって著作物なの!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
当社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
グループ会社 株式会社脇甘パシフィック・クリエイト(「パクリ社」)
株式会社中貫(ナカヌキ)技研(「ナカヌキ社」)

相手方:
株式会社五味(ゴミ)ソフト開発(「ゴミソフト社」)

著作権侵害と警告されたが、その前に、それって著作物なの!?:
グループ傘下のソフト開発企業が、孫請けのシステム会社から
「著作権を返せ! 勝手に使うな! 使いたければカネ払え」
という通知を受け取りました。
通知書をみると、著作権に詳しそうな著名法律事務所が代理人に就いています。
当社の顧問弁護士は降参モードで、社長もいわれるがまま莫大な著作権買取代金を支払おうとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:著作権という権利が発生するための要件
著作権とは、著作権法に基づき認められた著作物を保護するための権利で、著作者に発生する権利です。
「著作物」
は、
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
をいいます(著作権法2条1項1号)。
コンピュータ・プログラムも著作物となり得ることが法律上定められていますが、作成者の個性が示された、創作的なものである必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:コンピュータ・プログラム著作権の創作性
著作権法が保護するのは、アイデアや発明やコンセプトや技術ではなく、
「創作的表現」(クリエイティブな表現)
です。
ソフト開発工程においては、
「誰が作っても一定程度は同じになる」
といったルーティン部分については、そこに著作物性が看取できるかどうか、ということを検討しなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:額の汗の法理
著作権法はあくまでも
「創作的な表現」
を保護するものであり、人の
「努力や汗や投入労力や手間や時間」
に着目して、その成果を保護するというものではありません。
「額に汗の法理」
が諸外国では唱えられることがあり、EU諸国では比較的認められることもあるといわれていますが、日本や米国では、著作権法の趣旨に合わないことから採用されていません。
裁判例をみてみますと、ある言語で書かれたプログラムの著作物性が争われた事件に関して判断された知財高裁平成18(2006)年12月26日判決においては、サブルーティンの数、ステップの数、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、組合せ、順序、サブルーティン化など多様な記載が可能で、作成者の創意工夫が発揮されている部分は、創作性あり、として著作物性を認めました。
他方で、簡単なプログラムで、プログラムの記載に選択の余地がない、陳腐でありふれた部分については著作物性を認めませんでした。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:本設例について
「プログラムに著作物性があるといえるため」
の要件である、
「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラム全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものである」
か否かを当てはめると、相手は単に額に汗したものの
「陳腐でつまんないし創作的でもクールでもない」
ものの作成に関与していただけで、彼らの成果物に著作物性はない、という帰結も十分考えられます。
加えて、警告というか、安っぽい脅し部分は、不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗にも該当するという裁判例もありますし、脅しに屈せず、この点も争うことができます。

助言のポイント
1.「著作権侵害だ」と、ちょっと警告されたくらいで、慌てて、ビビって、和解しようとしない。眉毛に唾をべったりつけて疑ってかかろう。
2.著作権をはじめとした知的財産権は、権利発生要件が抽象的で曖昧であり、そこにいくらでも争う余地がある。
3.著作物には、「カッケー! ヤベエ! チョーイケてる!」というレベルの創作性が必要。
4.創作性のない、陳腐でつまんないものは、どんなに時間や労力がかかっても著作物ではなく、著作権も生じない。いきなり侵害警告されても、基礎となっている権利そのものに疑いを持ち、徹底して争うことを考えること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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