01035_企業法務ケーススタディ(No.0355):契約書とかなくても問題ないわい!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十七の巻(第127回)「契約書とかなくても問題ないわい!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社グループ 脇甘興業 所属歌手 グレゴリー半田(はんだ)

契約書とかなくても問題ないわい!?:
グループ内で芸能・エンタテインメント事業の所属タレントが、闇営業を行い、加えて、その相手が反社会的勢力で、写真週刊誌に情報がリークされました。
そこで、マネジメント契約を解除しようとしたところ、相手は弁護士をつけ、
「解除には理由がないので、契約解除には応じられない。
解除後5年間の芸能活動禁止条項を適用せず、解決金をいくらか払ってくれるのであれば、合意解除に応じてやっていい」
といってきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約書なくとも契約は成立するが、喧嘩になれば完敗する
わが国民法においては意思主義が採用されており、口約束であっても意思表示が合致さえしていれば、文書や契約書がなくても、契約は、法律上有効に存在する扱いになっていますが、民事紛争の場面においては、完敗が確定で勝敗が決定します。
「契約があっても契約“書”がない」
というストーリーや、
「記憶があっても記録がない」
というストーリーについては、裁判所においては、
「寝言」
「妄想」(もしくは、より端的にいえば「ウソ」)
として片付けられる、というのが民事紛争の現実です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:理由がなければ解除ができない
一般的に、芸能マネジメント契約は、専属マネジメント契約となっており、事務所側が解除した場合、専属的な取扱いから、数年間(3年あるいは5年)、元の事務所に断りなく芸能活動ができない(あるいは活動が制限される)という扱いになっています。
相手は、たしかに問題ある行動で契約相手に甚大な迷惑や損害を被らせていますが、債務不履行解除とすると、当方が、
「特定の義務を履行しなかった」
という事実を特定して理由として掲げて相手に覚知させ(主張責任)、かつ、相手が争った場合、当該事実の痕跡を提示する(立証責任)必要が出てきます。
しかしながら、肝心の契約書がないわけですから、立証はおろか、主張することすら困難です。
仮に解除(一方的な契約関係の解消)ができたとしても、契約書がない以上、解除の効果として
「数年間(3年あるいは5年)、元の事務所に断りなく芸能活動ができない(あるいは活動が制限される)という扱い」
を要求することは、絶望的に期待困難です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判所に「反社排除」の風潮への同調を期待できるか
最高裁まで争われた、反社絡みの刑事事件では、某県内のゴルフ場で、利用細則、約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたクラブハウス入り口に
「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」
などと記載された立て看板を設置していたという状況において、被告人が、暴力団関係者と共謀してプレーした事実およびゴルフ倶楽部の会員と共謀してプレーした事実の2つの事実で起訴されましたが、最高裁は無罪を言い渡しました。

助言のポイント
1.今どき契約書なしで契約関係を管理するのは無謀。下請法や独禁法の抵触、さらには、関係がおかしくなったとき、手も足も出なくなる事態に陥るリスクが出てくる。
2.契約書がなければ、相手方の特定の義務違反の主張立証すら困難な事態に陥る。債務不履行が主張・立証できなれば、解除も損害賠償も不可能。
3.反社や反社関係者だから、どんな過酷な法的主張も可能だ、とは早計に過ぎる。裁判所は、風潮や世情に流されず、ドライに、クールに、是々非々で議論し、結果、反社を救済・擁護する結論を出すこともあり得る。
4.揉めた場合は、無駄にアツくならず、冷静に目的・ゴールを確認し、スマートに解決し、関係清算すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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