本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十八の巻(第128回)「残業代未払事件では、企業は必敗する!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社 社員 銭田 欲太郎(ぜにだ よくたろう)
裁判官 大政 守(たいせい まもる)
残業代未払事件では、企業は必敗する!?:
当社は、元従業員から
「未払いの残業代がある」
と訴訟を提起されました。
担当する裁判官は、被告・当社側に厳しい訴訟指揮を行います。
社長は、
「正社員は、一生面倒みてもらう御恩を滅私奉公でお返しするものだ。
和解などするもんか」
と、強気です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:保守的で体制寄り・企業寄りの傾向が強い裁判官
裁判官は、多数の事件を抱え殺人的に忙しい日々を送っており、実際、労働時間や残業などといった概念すら吹き飛ぶほどの仕事漬けの毎日です。
またその友人も、行政官庁や一流企業に勤めたりしているような人間が多く、月数百時間にも上る残業があり、サービス残業など当たり前のカルチャーで過ごしており、このようなことから、裁判官一般は、割と企業寄りのブラックな考え方に馴染みやすく、割と保守的で権威や体制にシンパシーある行動をとる方が多い、とみて差し支えないでしょう。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:未払残業代事件における裁判所の対処哲学
ところが、裁判所は労使問題において、
「常に、当然企業側に立つ」
とは言い難い、独特の哲学と価値観と思想を有しているような節があります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「未払残業代事件での企業受難時代」の背景
例えば、企業が無料で際限なく働かせることができる人的資源を用いて経営するとしましょう。
そうすると、企業は、無限で無償の労働力に安易に依拠するようになり、その結果、生産効率は改善されず、設備更新もされずに、進化に取り残されてしまいます(ガラパゴス化)。
この例えを国レベルの話に置き換えてみると、無限で無償の労働力に安易に依拠する国は、人的資源の高コストに悩まされながら、これを克服した国との間に技術格差が広がっていき、進化から取り残され(ガラパゴス化)、やがて、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった圧倒的な新技術に、駆逐されてしまいます。
人的資源は有限で有償の資源であり、しかも、今後枯渇するので、ますます依存不能となります。
昨今の
「未払残業代問題についての徹底した労働者寄りの裁判所の対処哲学」
は、労働者の人権が大切という以上に、日本の産業界の未来を憂いた、エスタブリッシュメントとしての確固たる信念に支えられ、その現れとして、立法府や行政府としては
「働き方改革」、
司法府としては
「違法残業の駆逐」、
という体制方針として具体化されています。
そう考えると、現在の労働課題のトレンドがよくみえてきます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:裁判所からしょっぱい対応を受けた「未払残業代事件」
未払残業代事件については裁判所全体として企業側に相当厳しい対応をしてくる、という認識を明確に持つべきです。
助言のポイント
1.「裁判官は保守的なエスタブリッシュメント。日本の産業界や企業に強いシンパシーを持っている。だから、労働事件については当然企業側の言い分をしっかり聞いてくれるはず」というのは誤った思い込み。
2.最近、未払残業代請求事件は企業側が惨敗するケースが多く、ほとんどのケースで企業側の弁解は採用されず、払ってこなかった残業代を耳をそろえ、利息をつけ、さらには付加金というおまけまでつけて払わされることもある。
3.「無料でいくらでも働かせる人的資源があり、企業がこれに依拠した経営を行う」ことが許されなくなっている時代の流れを鋭敏に捉えること。
4.紛議のプロセスで無駄な抵抗をしたり、事件の妨害をしたり、と悪質な態度で望めば、付加金という「倍づけペナルティー」も払わせ、ヤキを入れられることもある。注意しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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