01049_弁護士が「ゴールデザイン」を呈示しただけで、「このゴールなら、弁護士の力を借りずとも、相手を説得して、自力で到達できる」と浅はかにも考えてしまうクライアントへの“説教”メール_助言メールサンプル

===========================
XX様

(前略)

小職がXX様が抱えておられる課題を正しく捉え、
「この課題を改善・克服するためにあるべき規律の姿」

「創出」
した上、
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
する営みを経て、貴我間における目標としての約定(戦争を行う上でゴールとすべき、国境線の策定や領土の返還を含む和平条約ないし安全保障条約)を呈示して差し上げました。
そして、この「正解」が非常にロジカルで、法的合理性を含むことも理解いただきました。


このとき、
「なるほど! 正解はこれか。ゴールはこれだ。わかった!あとは、俺ができる!」
とXX様は思われました(この点が、愚かというか早とちりなのですが)。


XX様の脳内に立ち入ると、
「自分はチョメチョメ大卒のインテリだ」
「しかもN年以上もきちんと人生を生きてきた」
「だから、世間のことを知っているし、世事に長けている」
「だいたいのことは、自分の感覚や哲学や価値観や正義感や常識(という偏見のコレクション)で処理できる」
という自負がみなぎっていました。


ところが、現実に向き合うと、うまくいきそうな気配がしない(当たり前です。素人風情にかんたんにできればプロの弁護士など要りません)。


(※)
正解やゴールはわかったが、方策と道筋がわからない(世の中、こんな課題山程あります。北方領土やパレスチナ紛争など。
「俯瞰的かつ冷静かつ客観的に観察すればこのあたりであろう」
というゴールや落とし所はわかっていても、そこに至るために、100年、1000年単位の時間と労力と殺戮の応酬が必要になります)


「ロジカルには正しいことなのに、相手が理解し、説得され、納得してくれる状況が実感できない(これが一番むずかしい)」
「なぜなんだ? どうしてなんだ?」
あれこれ疑問がわいてきます

「手とり足取り教えてもらわなければならない?そんなバカな。俺はそんな間抜けではない。」

なんとなれば、
「自分はチョメチョメ大卒のインテリだ」
「しかもN年以上もきちんと人生を生きてきた」
「だから、世間のことを知っているし、世事に長けている」
「だいたいのことは、自分の感覚や哲学や価値観や正義感や常識(という偏見のコレクション)で処理できる」
はずなんだから


でも、 正解はわかったが、方策と道筋がわからない


ここで、(※)に戻り、 ループモードが始まる

私がみるところ、XX様は、こんな混乱類型の病理的思考に罹患されているのではないかと推察します。

この病理現象の根源的原因ですが、
「自分はチョメチョメ大卒のインテリだ」
「しかもN年以上もきちんと人生を生きてきた」
「だから、世間のことを知っているし、世事に長けている」
「だいたいのことは、自分の感覚や哲学や価値観や正義感や常識(という偏見のコレクション)で処理できる」
という前提が根底から間違えているのだと考えられます。

誤解を恐れずに言いますと、おそらく、XX様は、
・インテリではない
・何もわかっていない
・N年生きてきたといっても屁の突っ張りにもならない。単に、思考や知性の本質についてストレステストを受けずに来れただけ。喧嘩したことない人間が、「俺は喧嘩に負けたことがない。俺は無敵だ」と夜郎自大になり悦に入っているのと変わりない
・世間のことも、世事にも疎く、ビジネスや法律については、まるで無知
・自分の感覚や哲学や価値観や正義感や常識自体、偏見であり、狂っている
というのが実体ではないかと思われます。

だから、一度、
「自分はチョメチョメ大卒のインテリだ」
「しかもN年以上もきちんと人生を生きてきた」
「だから、世間のことを知っているし、世事に長けている」
「だいたいのことは、自分の感覚や哲学や価値観や正義感や常識(という偏見のコレクション)で処理できる」
という前提から脱却して、最初から、
・リテラシーと状況観察と実体認識、
・立場交換シミュレーション(観察基準点を変えたメタ認知〔俯瞰的認知〕)、
・学校で学んだことがないし、親から聞いたこともない(というか、教師も親も知らない)ゲームロジック、ゲームルール及びプレースタイル
をすべて一から学んでいただく必要があるかと思います。

前記のような前提認識をもつ中途半端なインテリが、
「エセ知性」
が原因で、混乱し、何をやってもうまくいかない、という現象ですが、小職も、弁護士稼業を営む中で、しばしば遭遇します。

ですので、
「また、この症状のクライアントがやってきたか」
という程度に、既視感のある、陳腐でおなじみの状況でしかありません。

ただ、XX様が特異なのは、思い込みが激しいというか、天動説的・唯我独尊的単一思考軸が強烈に過ぎ、経験の開放性が絶無で、啓蒙を拒絶する点です。

老害を通り越して、あるいみ、精神的な欠陥を含む、
「病害」
ともいえる状況かと推察されます。

「『ウォールストリートで働く成功したユダヤ人の金融マン』が、資本主義的競争システムと自由でオープンな金融システムの素晴らしさを、どんなに、わかりやすく、明確に説明しても、聞く耳を持たず、一切の理解を拒絶する、『(中略)』」
といった印象を受けます。

ちなみに、私としては、
  「(中略)」
という人物を、あまり評価できません。

なぜなら、私の理解(といっても、一応東大卒の理解ですので、それなりに普遍性がある見解だと勝手に思っています)では、
「知性とは、外向性、情緒の安定性、思考の柔軟性、経験の開放性ないし新規探索性、自己評価の下方柔軟性あるいは外罰傾向の欠如(=伸びしろそのもの)」
だからです。

同様の理由で、
「自分はチョメチョメ大卒のインテリだ」
「しかもN年以上もきちんと人生を生きてきた」
「だから、世間のことを知っているし、世事に長けている」
「だいたいのことは、自分の感覚や哲学や価値観や正義感や常識(という偏見のコレクション)で処理できる」  
というXX様をあまり評価できません。

「知性とは、外向性、情緒の安定性、思考の柔軟性、経験の開放性ないし新規探索性、自己評価の下方柔軟性あるいは外罰傾向の欠如(=伸びしろそのもの)」
という意味での知性を感じない、というか、致命的に欠落している印象しか持たないからです。

以上につきましては、
「短時間で、劇的かつ効率的に、啓蒙や矯正を成し遂げる」
を目的を所与として、
「この目的との関係上、『思ったこと』や『本当のこと』はストレートに伝えることが、課題ないし事態の認識共有(ないし相手方の認識到達)に至る近道である」、
という前提で、お話しています。

もちろん、もう少し、奥歯の間に大量の物を挟み、オブラートに包んだ表現に徹する配慮を行ったり、ジェントルでエレガントな言い方もできますが、その際は、
「短時間で、効率的な、啓蒙や矯正」
を致命的なレベルで犠牲にする必要があります。

このようなトレードオフ関係に立ちますことをご理解いただいた上で、どちらかをお好みかを選んでいただければ、現在採用している
「短時間で、劇的かつ効率的に、啓蒙や矯正を成し遂げる」
スタイルを、より穏やかなものに変更することは可能です。

畑中鐵丸拝
===========================

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです