企業組織運営法務における有事としては、株主代表訴訟がまず挙げられます。
よく知られているように、1993年の商法改正により株主代表訴訟については、どれだけ多くの金額を請求しようと、訴額は一律95万円とみなされ、8,200円の印紙代を払えば提訴可能となりました。
この改正以降、株主代表訴訟提起の事実上のハードルがなくなり、その後訴訟が急増するようになりました。
その意味では、企業組織運営に関して企業が法令違反に起因する不祥事を起こした場合等においては、企業経営陣に対して99%この株主代表訴訟の洗礼が待ち構えることになるといっても過言ではありません。
企業経営陣としては、このことをよく理解し、危機管理上、適切な対応を取っておく必要が出てきます。
2001年2月に最高裁判所が、
「株主代表訴訟で被告となる取締役側を勝訴させるため会社側が訴訟に加わる補助参加が認められる」
との判断を示し、2001年12月商法改正においてもこの取り扱いが踏襲されました。
そして、2005年会社法改正では、
「補助参加の利益」
等、民事訴訟法42条以下が規定する補助参加するための条件が外され、監査役全員の同意のみを条件に会社が代表訴訟に補助参加できるようになりました(会社法849条2項)。
株主代表訴訟においては、会社と個々の経営陣(取締役・監査役)とが利害対立するという基本構造があることはよく理解しておく必要があります。
すなわち、株主代表訴訟とは、その名のとおり、
「株主が会社を代表し、取締役の非違行為に対する責任追及を行う」
という構図が厳然と存在します。
株主が疎外されている日本企業においては実感されにくいかもしれませんが、企業の持主はあくまで株主であり、代表取締役をはじめ取締役は、株主より拠出された資本を運用し、企業価値を高めるべく株主に雇われているに過ぎない存在です。
したがって、元来会社と経営陣は常に利害が緊張する関係に立っているのであり、株主代表訴訟はそれが顕在化した事態ということもできます。

著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
株主代表訴訟においては、
「会社vs.被告経営陣」
という構図を念頭に置くのであれば、たとえ会社が補助参加するような場合であっても、会社の顧問弁護士(契約法律事務所)に経営陣側を代理させると、事態が錯綜してくる可能性が出てくるので、経営陣ごとに別の代理人弁護士を雇うことが推奨されます。
また、複数の取締役が
「共犯者」
のような形で訴えられている場合は、取締役相互間でも利害対立が出てくる可能性さえあります(この点は刑事訴訟において共犯者のひっぱりこみ等の形でよく議論される事態です)。
会社も個々の被告取締役もみんな一緒に原告株主と戦う、という単純な構図ではうまく機能しないばかりか、事態を複雑化する可能性もあります。
したがって、弁護士への委任の方法や、個々の取締役レベルでの情報管理や訴訟戦略の個別対応の可能性等を考え、適切な対応すべきです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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