01303_独禁法実務>法人向営業に関する個別法務課題>独禁法実務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>行政調査手続その1

1 審査の開始

独占禁止法違反があった場合、被害企業や一般消費者などからの被害申告やカルテル・談合参加企業の課徴金減免を目的とした自主申告により、行政違反被疑事実が公正取引委員会に認識され、そこから審査が開始されます。

なお、ここで
「審査」
とは、刑事訴訟法における
「捜査」
と似た手続と考えればイメージがわきやすいと思います。

2 審査の開始と企業側の初期対応

審査の開始は、事情聴取から行われる場合もあれば、いきなり立ち入り調査が開始される場合もあります。

ちなみに、立ち入り調査等の審査の着手があっても、警告・注意(行政指導)や審査打ち切りで終了する場合もあり、全て排除措置命令や課徴金納付命令等の最終処分まで至るというわけではありません。

しかし、警告・注意等の行政指導でも、報道機関の報道によって企業信用が失われたり、官公庁から入札停止処分を受けて経済的損害を被る場合もあるので、軽く考えるべきではありません。

審査が開始された場合、審査の開始に慌てふためき、ただ呆然と事態の推移を眺めるだけの企業もありますが、顧問弁護士(契約法律事務所)や外部の専門弁護士を代理人として選任し、積極的に防御すべきです。

無論、証拠隠滅や虚偽の報告をする(あるいは従業員に虚偽の供述をさせる)ことは許されません。

公正取引委員会もプロ集団であり、審査するにもある程度被疑事実に関する関係証拠を固めてから臨んでいるはずですので、いい加減なウソは即座に見抜かれ、心証を害し、適正な弁解も信用されなくなる危険を招来します。

とはいえ、ひたすら頭を垂れて
「御説ごもっとも。今回ばかりは平にご容赦を」
という態度を取るのではなく、企業として行っている活動の実態と被害申告者や公正取引委員会が考えるシナリオが食い違う場合には(違反事実は存在するが、違反の質や量の点で食い違う場合が多々あります)、きちんと非を糺すべきです。

3 争点の特定・内部の自主調査

公正取引委員会の審査が開始されたら(立ち入り調査や事情聴取の開始)、違反被疑事実(審査官がどの条項違反に関わる事実を問題にして審査を進めようとしているのか)に関する主要争点の特定をいそぐべきです。

この点、公正取引委員会の審査に関する規則20条により被疑事実等の告知が書面でなされるようになりましたので、被疑事実の要旨はある程度把握できる取扱いとなっていますが、具体的な事実の争いや問題となる証拠等についてはこれだけでは全くわかりません。

被疑事実に関する主要争点が判明したら、社内の関係者を呼んで徹底した内部調査を行うことになります。

これらは迅速に行うべきですが、法務部や内部調査室の担当者や委嘱を受けた弁護士も含めた部門外のチームが遂行する場合、営業現場からある程度の抵抗が予想されますので、調査開始にあたっては事前にトップの“お墨付き(Authorization)”を得ておくべきです。

なお、内部調査は、争点となるべき事実に即応した5W1Hの形で質疑応答を重ねることにより進めていくことになりますが、証拠の評価等も含めて高度な法的判断が必要な場合が生じます。

したがって、調査対象者に極度のプレッシャーを与える等の事情がないのであれば、訴訟事案処理に長けた弁護士を同伴する形で行った方が迅速な調査のためにはメリットが大きいと思われます。

事実関係を正確に把握したら、これを弁護士に依頼して法律的に整理した文書を作成し、企業側の主張をまとめることになります。

審査の段階であっても、企業の主張は早期かつ強くアピールすることが必要です。

無論、排除措置命令や課徴金納付命令の事前手続において意見申述や証拠提出の機会は与えられます。

しかし、審査官の誤解等については早期に是正しておけば、これら事前手続に行く前に警告・注意で事案を終了させることも期待できますし、法律上、反論や弁解の時期や方法に制限はありませんので、主張や証拠が固まれば積極的にアピールに打って出るべきです。

なお、主張にあたっては、
「全ての違反事実を正直にいえばいい」
というものではありません。

法律や指定の書きぶりやガイドラインの定め方自体があいまいで解釈の仕方によっては適法とみなされる余地のあるケースの場合のほか、違反事実の中にはすでに時効になっていたり、カルテルの場合には関与の度合いが消極的なものもあります。

また、過去の処分実例との均衡上、注意・警告等で十分と思われるケースもありますので、たとえ違反事実が濃厚であっても、法律上適正な範囲において、積極的な弁解を行うことが重要です。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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