仲裁合意とは、契約から生じた紛争について、裁判ではなく、当事者が選択した第三者を仲裁人として、仲裁人の判断によって紛争を解決する合意をいいます。
仲裁は以下のような特徴があり、国際契約では仲裁を選択することが好まれます。
1 中立的な手続が望めること
仲裁人の国籍や、仲裁地、仲裁規則を自由に選択できるため、当事者が中立と考える第三国における仲裁を求めることが可能となります。
2 使用言語が選択できること
仲裁手続における使用言語を選択することが可能となります。
すなわち、通常、訴訟手続においては、当該国の公用語が使用言語として指定され(日本の民事訴訟法では、法廷や書面においては日本語を用いることが義務づけられます)、外国会社にとってはこのような言語環境は紛争解決における大きな障害となります。
しかしながら、仲裁手続であれば、たとえ、日本国で行う場合であっても、英語を解する仲裁人を選任して、双方英語で手続を進めることは可能です。
3 仲裁手続内容を秘密とできること
通常、先進国の裁判所においては、
「裁判の公開」
の原則により、審理内容が全て公開されます。
そのため、機密性を維持したいノウハウや取引経過などが争点となった紛争においては、裁判手続を紛争解決手段として利用するには間題が生じます。
この点、仲裁は、一般に手続を非公開とされており、事件プライバシーを保った状態で紛争解決を図ることが可能となります。
4 専門家を仲裁人とできること
当事者は仲裁人を合意によって自由に選択できるため、国際取引に詳しい弁護士を仲裁人として、紛争の合理的解決を目指すことが可能となります。
5 執行が比較的容易であること
裁判が行われた国(A国:裁判実施国)の裁判所の判決に基づく強制執行を、相手方の財産が存在する国(B国:強制執行実施国)にて実施するためには、その判決をB国:強制執行実施国において承認してもらう必要があります。
そもそも強制執行は、国の主権の行使に該当しますから、A国の裁判所が勝手に判断した判決を用いてB国で強制執行をするためには、B国の司法機関に逐一お伺いを立てなければなりません。
ところで、判決とは異なり、仲裁手続については、
「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(1958年、ニューヨーク条約)
が、2013年7月時点では、合計149か国で締結されています。
同条約に加盟する日本、米国、英国等の主要国は、同条約に加盟している国でなされた仲裁判断については、判決に比べて比較的簡易な手続(自国の仲裁判断の承認執行と同等の手続負担)で自国内にて強制執行しうるものとされています。
つまり、
(1)相手の財産の所在国、仲裁が実施された国の双方が同条約に加盟しており、
かつ
(2)同条約が要求する他の要件が満たされた場合、
には、相手の財産の所在国にて簡便に強制執行をすることが可能となります。
6 仲裁地の合意
上述のように、ニューヨーク条約加盟国における仲裁判断であれば、同条約加盟国における強制執行が容易となります。
そこで、契約交渉において仲裁地の決定について紛糾が生じ、仲裁を申立てられる側(被告側)の国を仲裁地とすることすらもできない場合には、対案として、
・同条約加盟国である第三国を仲裁地として合意するとの交渉をする
・「(いずれが申立てる場合であっても、常に)被申立人側の所在地を仲裁地とする」と規定する(被提訴地主義の採用)
といったものを提示し、交渉を収束させることも可能です。
なお、後者の被提訴地主義による仲裁地合意は紛争抑止効果も期待できます。
すなわち、被提訴地主義型仲裁地合意は、
「仲裁を申立てる場合には、申立てる側に常にコスト上の負荷が生じる」
ということを意味します。
このように、
「仲裁開始にまつわる初期コストを常に申立てる側が多く負担する」
という仲裁地条項を設計しておけば、
「コストのかかる仲裁を申立てるのは最後の手段にして、その前に、最大限、話合いにて解決する方向で交渉してみよう」
というインセンティブを当事者双方に働かせることを通じて、紛争発生が抑止される、というわけです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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