01492_「ちょいマケてよ」と値切って債務問題の解決を志向する任意整理とは

任意整理は
「債務の減免」
を狙う場合や担保不動産処理を行う際に取られる手段です。

任意整理には、元本が減る、利息が減るなどさまざまなメニューがあります。

リスケとの違いは、時間をいじる(返済額は変わらないが、返済期間だけ先延ばしする)だけでなく、額や担保等をいじらないとどうしょうもない場合、任意整理が検討されます。

平たくいいますと、
リスケが
「ちょいタンマ(Time out=待って)」
という時間猶予を求めるリクエスト
であるのに対して、
任意整理は
「ちょいマケてよ」
という、値切りを言い出すリクエスト
である。

そんなイメージです。

リスケはビジネスマターになりますが、任意整理はリーガルマターになります(ただし、必ず弁護士が介在する、というわけではありません)。

普通、最初に契約したとおりの約定金利を払えなくなると、遅延損害金という非常に高額な利息が発生し、これがものすごい勢いで増えていくことになります。

しかし、任意整理の場合、そこをなんとか落ち着けるという方向での回収プランを練ります。

稀なケースではありますが、スポンサーが借金の一部を支払うから、残債免除ということもあります。

つまり、
「返済できなくなったのなら仕方がない」
という現実的な前提をもとに、今できる範囲で最良の着地点を見出すことを任意整理というのです。

「任意整理法」
という法律があるわけではなく
「和解」
すなわち、妥協と互譲による話し合いのひとつです。

法律上の和解とは、お互い条件を譲歩して合意をするということです。

任意整理は、債務者側の弁護士から金融機関への打診になります。

「民事再生や破産などになってしまうと、銀行の取り分がなくなりますので、お互い痛み分けでいかがでしょうか」
というイメージです。

銀行から提案してくることは、まずありません。

銀行からすると、任意整理は自分たちが持っている債権を放棄することになるので、それを口にするということは
「会社の大事な商品を、自己判断で、廃棄する」
と同じになってしまうからです。

ただ、銀行はなかなか任意整理に応じてくれません。

なぜかというと、例えば
「お金がないから」
といわれても、本当にお金がないのか確認できないからです。

極端な話、庭に穴を掘って金塊を隠しているかもしれません。

債務者にいわれるがまま任意整理していたら、モラルハザードになってしまいます。

ですから、特定調停や再生、破産などの手続きによらずに強引に応じるだけの複雑な事情がなければ、易々と任意整理をしてくれません。

ただし、サービサー(委託ではなく買い取ったもの)の場合は例外的です。

例えば、会社と個人連帯保証人付きのバブル期の不良債権(10億円)あったとします。

それを中小企業の経営者が返せなくなりました。

ただ、銀行のバランスシートに乗っていると、いつまでたっても自己資本比率が改善しないので、銀行経営の足を引っ張ることになってしまいます。

そのとき10億円の債権をサービサーが買うのです。

銀行からすると、すでに引き当てが済んでいるので、10億円の債権は経済実態では安く売り払っても問題ない、という立て付けとなります。

そこで、名実ともに債権の本来の所有先もサービサーに変えるということです。

このとき債権を買い取る金額が、元本が数億円単位の債権が、50万円、100万円とかいう投げ売り価格で取引される世界なのです。

これを称して、業界では
「ポンカス債権(ポンコツで、カスの債権)」
などと呼んだりします。

もともと値段がつかないので1円でもいいわけですし、銀行としては放置しておくと毎期資産勘定になってしまい、会計士の手間とコストがかかるので早く持っていってほしいわけです。

そういう意味では、銀行内部に貯めておくと管理の手間がかかるような、お荷物なわけですから、50万円、100万円でも高いといえるでしょう。

サービサーからのアプローチは最初、サービサーが債権譲渡通知を送付し、また、
「今後は、銀行ではなく、当社(サービサー)が債権者なので、当社に返済してください」
という督促状を出してきます。

ちなみに、お金がないので、督促されても払えないので、そのままにしておき、とうとう5年超経った、という例がありましたが、これは、事業用の債権ということもあり、5年の時効が完成し、チャラになる、とう結末となったそうです。

サービサーに
「こんな額、払えない。絶対無理です」
と、相変わらず
手元不如意の抗弁
で対抗すると、今度は、サービサーから
「いくらなら払えますか?」
という返しが出てくることもあります。

そのとき、
「10億円のうち1000万円なら」
などといわれたら、サービサーとしては900万円の儲けになります。

ですので、そういうときは
「10億円ということで、あんまり失礼なこといってもあれですから、でも1万円とか無理ですよね。本当にお金がないんですよ。いくらなら、いいんですか。ほんとカツカツです」
などといいながら、相手から条件を出させる方向で打診してみるのがポイントです。

明確な着地点が決まっていない交渉では、先に条件を言ったほうが損ですから

任意整理では、
「全額支払うのは難しい。でも、お金持ちの取引先にスポンサーになってもらってちょっと援助してもらえる」
などというと、銀行はとても喜びます。

スポンサーは、無理して正常弁済をするために登場してもらうのではなく、手元不如意の後、トラブって、任意整理になって、銀行がギブアップしはじめた、というタイミングで登場してもらうのがベストです。

運営管理コード:YSJGK155TO159

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです