01493_「裁判所の『威』を借りる狐作戦」で債務問題解決を志向する「特定調停」とは

任意整理は法律には載っていないので、場所はホテルのロビーでも銀行でも弁護士会の会議室でも構いません。

話の折り合いがつけば、電話でも大丈夫です。

ただ、やはり交渉ごとなので、お互い立場を譲らず、話をぶつけうだけでうまくまとまらない場合もありえます。

そんなときは、仲介役がいたり、それなりの舞台装置があったりしたほうがうまく運ぶかもしれません。

そんなときに役に立つのが
「特定調停」
です。

任意整理と特定調停の違いは、簡単にいうと
「仲介役と場所」
です。

特定調停は簡易裁判所で、裁判官と調停委員という
「民間のお節介役(落語に出てくるご隠居さんのような感じの世話焼きの人)」
もまじえて(実際は、裁判官は滅多に調停の場に出てきませんが)行います。

特定調停は、いわば、任意整理のアップグレード版、すなわち、
「裁判所の『威』を借りる狐作戦」
のような形で、裁判所を味方につけて、無理なお願いを通して窮地を脱する方法です。

以前、任意整理から特定調停に発展したケースがありました。

はじめは銀行を相手の任意整理ではじまり、銀行側も強硬な姿勢で、無理な提案ばかりしてきて暗礁に乗り上げました。

強硬な対応に債務者側は困ってしまい、簡易裁判所に
「特定調停」
を持ち込みました。

すると、銀行員の態度は一変しました。

また、特定調停中であっても、債権者は取り立てや差し押さえが可能です。

もしそれを避けたいのなら、特定調停の中で
「執行停止の申し立て」
をしなければなりません(ただこれには担保が必要なので、あまり使われることがありません)。

とはいえ、仮にも裁判所を仲介役として真摯に話し合いをしているところで、差押といった強硬な手段を行うと、裁判所から睨まれかねないので、執行停止の申立をしなくても、差押リスクは事実上とはいえ低減されることが期待されます。

ここで、任意整理リスケの違いについてもおさらいします。

まず、リスケは、あくまで、経済的に健全な債務者による、正常な取引プロセス、すなわちビジネスマターにおけるネゴ、と考えられます。

ここでは、取引自由の原則、すなわち、誰と、どのような条件で、どのような取引をするも、当事者間の自由、と考えられますので、
「あれやっちゃいけない」
「これやっちゃいけない」
といった法の介入を考える必要は少ないといえます。

結果、借入金融機関や債権者が複数以上いるような債務者がリスケを行う場合、金融機関ごとや債権者ごとに返済条件が変わって不平等感が出る可能性があります。

とはいえ、
「経済的に健全な債務者による、正常な取引プロセス」
であり、最終的に、すべて債務が返済できる、という期待が働きますので、不平等感があったとしても、
「約束どおり返済されたのだから文句ないでしょ」
という形で、法的に問題は生じにくいのです。

ところが、債務の減免を伴う任意整理段階に至ると、これは、もはや、
「経済的に健全な債務者による、正常な取引プロセス、すなわちビジネスマターにおけるネゴ」
ではなく、
「約束どおり行動していては経済的に破綻しかねない、破綻者ないし破綻者予備軍の、約束を捻じ曲げての例外処理」
となり、リーガルマターと判断されます。

リーガルマターとなった場合、破綻処理ないし破綻者予備軍のための解決において、絶対的なルールとして、頭をもたげてくる原則があります。

これは、債権者平等の原則、といわれるものであり、債権者の誰かしらに迷惑を欠ける以上、
「依怙贔屓」
や、
「早いもの勝ち」
「強いもの勝ち」
など、同じ立場の債権者の間において不平等の扱いはご法度、というルールです。

ここで、
「同じ立場の債権者」
というのは、
「一定の含みのある言い方」
で、例えば、
「銀行は不動産に抵当権をくっつけているが、最後に貸し込んだ取引先や知人やノンバンクにはそういう抵当権設定はしていない」
という場合、銀行は、債権者平等の原則にかかわらず、他の債権者を押しのけて、悠々と、不動産を競売にかけて、競売代金を独占して自己の債権に充足して弁済できます。

このような債権者平等の原則があるため、債務者が勝手に、依怙贔屓をして、
「取引先や知人の借金は優先して全額返すが、後の債権者は5割カット」
といった悪さをしないよう、窓口を一本化して条件を平等にする必要があり、このため、任意整理については、弁護士が窓口を管理して、全体を制御することが必要となるのです。

この点でいえば、特定調停では、最終的な話し合いの決着について守るべき絶対的ルールが明確に存在するわけではありませんが、特定調停を使ったリスケであれば格別、債権者に減免をお願いするような任意整理の趣旨を含めた処理の場合、債権者平等の原則を守るため、弁護士や法律のプロが介入し、偏頗弁済(ある特定の債権者にだけ返済する行為)にならないよう注意をしながら進める必要があります。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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