01496_民事再生や破産やその手前段階における「ルール違反行為」としての、詐欺再生罪や詐欺破産罪や強制執行妨害罪とは

「財産の隠蔽や依怙贔屓(えこひいき)弁済やヤケになって放埒な散財をする等」
といった、債権者(銀行)を怒らせてしまうアンフェアな行為をしておきながら、破産や民事再生の申立をして、借金を一部カットしたり
「チャラ」
にしてもらおう、というのは、不当かつ許しがたい行為とされます。

このようなナメた行為をすると、再生計画認可や破産免責は受けられず、最悪の場合は詐欺再生罪、詐欺破産罪という犯罪で訴えられるリスクも生じます。

詐欺破産罪の例を挙げると、栃木県にあるホテルが破産手続きを開始しましたが、破産手続き中に財産を別の会社へ移転したことで、詐欺破産と競売妨害を理由に関係者が逮捕されたケースなどがあります。

また、破産や民事再生をしなくても、別の犯罪が成立する危険もあります。

そもそも債権者としては債務者所有の資産に対して、強制執行(差押さえして、換金して、弁済に充てる)をすることが可能です。

強制執行を行うにあたり、財産を銀行に預けていたり、自宅の目につくところに金塊や宝飾品を陳列しておれば強制執行は容易です。

ところが財産があっても、誰にも分からないところに埋めて隠したりすると、強制執行をしようにも資産がどこにあるか分からない……という状況になり、強制執行ができなくなります。

そんなことを許していたら誰もお金を貸さなくなるのは当然ですし、強制執行という債権者の回収手段として、国家の整備したシステムが機能不全に陥ります。

こういうことから、資産を隠して強制執行を逃れようとすることについては、強制執行妨害目的財産損壊等罪という犯罪(かつては強制執行妨害罪と称していた)によって処罰されることになっています。

強制執行妨害罪と耳にすると、なんだか凶悪で大それた犯罪に思えますが、誰でも簡単にできてしまう側面があります。

例えば、債権者から強制執行を避けるため、自分の手元に残していた現金を友人に頼んで貸したことにする。

これも立派な強制執行妨害目的財産損壊等罪です。

ところで、この強制執行妨害目的財産損壊等罪ですが、以前に強制執行妨害罪と呼ばれていた時代は、刑法の条文上は存在するものの、処罰例が極めて少なく、たとえ犯罪行為があったとしてもまず処罰されない、空文ないし死文(形骸化された条文)と考えられてきました。

その潮目が変わったのが1996年のことです。

オウム真理教の麻原彰晃の主任国選弁護人だったA弁護士が、強制執行妨害罪で逮捕・起訴され、有罪が確定したのです。

これは任意整理中で休眠会社に資金を不当に送金したという内容が、強制執行妨害目的財産損壊等罪に該当したためです。

A弁護士が麻原彰晃の弁護人として、手練の刑事弁護人として徹底した弁護活動を精力的に活動していたことや、強制執行妨害罪が事実上空文ないし、死文化していた実務慣行もあり、
「国策捜査」「政治目的」「不当逮捕」「不当起訴」「当裁判」
との声が高まり、A弁護士を支援する弁護人が数多く集まりました。

そして大弁護団が結成され、A弁護士無罪獲得に向けて、徹底的な弁護活動が展開されました。

しかしながら、最終的には有罪が確定される結果に終わったのです。

これは
「A事件」
と呼ばれて法曹界では有名ですが、この事件により
「強制執行妨害目的財産損壊等罪は、空文、死文の類ではなく、現実に処罰発動される、実効性のある条文だ」
という事実を、多くの弁護士が再認識させられた意味でも有名な事件となりました。

こうした話を聞くと
「第二会社設立」
というスキームを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、これも状況によっては民事上の詐害行為として、後から債権者から訴えられて取り消される場合もあります。

この
「第二会社設立」
というのは、財政状況が悪化して債務の支払いが不能になった企業から、収益性の高い優良な事業だけを別会社(第二会社)へ分離する事業再生手法です。

要は不採算部門を切り捨てて優良事業だけを残します。

一部の書籍やインターネットの情報では
「第二会社設立」
を勧めていますが、民法上は債権者を害する違法事例として、スキームの適法性が争われる可能性もあるので注意が必要です。

繰り返しになりますが、
「危機時期に陥ったのに無理して資産を持ち続けよう」
とすれば何らかの法的問題が生じ、思わぬペナルティーを課せられるリスクが生じます。

個人の民事再生の場合、隠れてコソコソ資産隠しをしてリスクを背負うより、住宅ローンで住宅資金特別条項等、明確に整備されたシステムを正々堂々と使う場合は、家を残せる可能性があります。

いずれにせよ、弁護士等のしかるべき専門家が、きっちりとした根拠をもってフェアに進めるのが一番です。

バックグラウンドが不明な方が提案する、
「アンフェアな方法を姑息に行い、うまいこと手元に資産を残す」
という身勝手なスキームを安易に進めると、取り返しのつかないことになる危険があるので、十分注意すべきです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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