01535_企業において「妙な外来語」が飛び交うとき、その企業は危険な兆候に陥っている_3_余剰資金運用話

このほか、企業において妙な外来語が飛び交う状況と言えば、その会社が、妙な余剰資金運用をしようとしているときも考えられます。

「デリバティブ」
「クーポンスワップ」
「ヘッジ取引」
「モーゲージ債」
「ハイイールドボンド」
「サブプライムローン」
「SPC」
などといった耳慣れないコトバを社長や財務担当者が口にするようになったとき、会社が多額な損失を被りそうになっているか、あるいはすでに被っているときです。

金融機関は、非常に優秀な方が多く、いろいろな金融商品を開発し、提供してくれます。

無論、中には、緻密な理論を構築して、安全で高収益を生むような商品もありますが、全ての商品がまともであるという保証はありません。

デリバティブ、ヘッジ取引、ホニャララ債、ホニャララ投資スキームなどなど、言葉はいろいろありますが、いずれも元本が保証されず、値動きの仕組みがなかなか理解できず、しかも投機性が高い商品であり、あえていうなら、過激なバクチです。

バクチというのは、客が必ず損し、胴元が必ず儲かるようになっています。

これらの投機的商品も、投資家がよほど値動きを注視し、勝ち逃げするタイミングを見ていない限り、ケツの毛まで抜かれる仕組みになっています。

そして、参加者がどんなにつらい目に遭っても、商品を紹介したり、商品を設計したり、商品を運用しているような人間(バクチでいうと、「胴元」や「合力」)は必ず儲かるようになっているのも特徴です。

リーマンショックのちょっと前から、大学が資産運用に色気を見せ始めるようになりました。

ただその結果と言えば惨憺たるもので、一時、K澤大学は億円の損失、K応大学は億円の損失、I知大学、じゃなかった、もとい、A知大学、N山大学、J智大学も軒並み億円程度の損失を出していたそうです(いずれも2009年3月期。週刊ダイヤモンド2009年月日号「大学総力ワイド特集」参照)。

他にも数十億円の単位で損失を出している大学が多数あったそうですが、その中でも、K歯科大学では、損失問題から刑事事件にまで発展しました。

同校では、人事権を掌握する理事が、その権力を背景に、実体のない投資先に巨額の投資をし、業務上横領などで逮捕されています。

経営陣が逮捕されるという異常事態から、年間億円の補助金も打ち切られかねないという状況に陥った、との報道もありました。

そこら辺の社長よりはるかに頭のいい人が集まっている大学ですらこの状態ですから、一般の社長さんがやってうまく行くはずがありません。

実際、日本経済新聞(2011年3月5日朝刊)では、
「全国銀行協会為替デリバティブ(金融派生商品)で多額の損失を抱えた中小企業を救済するため、同協会が運営する紛争解決機関の処理能力を大幅に拡充する。『デリバティブ専門小委員会』を立ち上げ、月間で60件取り扱える体制を整備する。金融庁の調査では、2万社近い中小企業がデリバティブ取引で損失を抱えている」
などと報道されました。

また、少し前の話になりますが、東証一部に株券を上場している世界的大企業である某乳酸菌飲料大手企業(仮に、Y社といいます)においても、財務担当副社長がP債なる実体の希薄な投機的な投資商品に手を出し、1998年3月期には1000億円以上の損失を出しました(その後、株主が当時の経営陣にY社に対して533億円の賠償を求める株主代表訴訟を提起する事件に発展し、当時の元副社長に67億円の支払いを命じる判決が確定)。

「経営者が稼いだ金でバクチにのめり込むと会社が傾く」
というのは昔からよくある話です。

時代が変わり、使われる言葉が
「博徒用語」
から
「難解な外来語や専門用語」
になり、賭場に誘い込む人間の素性も
「見るからにヤクザ者」
という風体の者から、
「高いスーツに高いネクタイをした品のよさそうな金融機関のエリートバンカー」
になりました。

しかし、
「『実業を前提とせず、ラクに金儲けをしたい』という人間の心理を利用し、参加者を地獄に陥れる」
という本質に関していえば、両者に大きな差異は見いだせません。

いずれにせよ、健全な会社は、資金が余ったら、ひたすら事業に対する投資を行うべきです。

儲かったからといって、金にあかせてバクチにうつつを抜かす企業は早々に傾くことになるのはある意味必定といえます。

運営管理コード:YVKSF185TO192

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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