01546_取締役の悲劇(2)_取締役は、現実の知的水準に関係なく、会社法上、すべからく「経営のプロ」とみなされて、会社運営に関する大きな権限を与えられてしまう

前稿に引き続き、「取締役」という肩書を持つ人種の気質・行動について、いつもながら偏見に満ちた雑感を述べていきたいと思います。

前稿みてきたとおり、日本社会である程度のステータスを有しているとされる人種のうち、医者や弁護士や公務員や教員に関しては、少なくとも過去の一時点において当該キャリア保持に必要とされる知識を資格試験という形で確認・検証されていることから、能力水準の下限にも、おのずと限度というものが存在します。

しかしながら、
「取締役」
というステータスに関しては、
「無試験・無資格・性別・人種一切無関係、破産者であろうが認知症の疑いのある方もウェルカム」
という形で広く門戸を開放しすぎてしまったため、能力水準の下限は
「底無し」
といった状況であり、想像を絶するとんでもないことをやらかしてくれる方々が相当多く混在することになるのです。

「取締役」
とは、もともと、その名のとおり、
「会社法その他関係法令に基づいて、会社という組織の運営を『取り締まる』役目を担うプロフェッショナル」
ということが想定されておりました。

会社法の専門書をみると、
「取締役とは株主から経営を付託された経営専門家である」
等と書いてありますが、これは、
「社会現実を知らず、机の上で理屈をコネ繰り回している学者」
だからこそいえる虚構です。

現実の取締役、とくに多くの中小零細企業の取締役については、会社法や簿記・会計はおろか、国語や算数の試験すらなく誰でもなれることから、法律が想定している役割・立場と、実際の能力との間に重篤なギャップが生じてしまっています。

しかも、このようなギャップを是正する制度的担保がなく、知的能力が破綻したまま放置される一方で、法律上、取締役である限り
「経営のプロ」
とみなされて会社運営に関する大きな権限を与えられてしまうが故、
「取締役」
と呼ばれる人種の周りには、会社をめぐるさまざまなトラブルに巻き込まれる高度の危険が常に存在するのです。

加えて、そんな危なっかしい状況にある
「取締役」
の皆さんですが、自らの職責や権限や責任に関する知識を補充する意欲が全くないといった方が多いため、被害を拡大し、自身も会社も不幸に追い込んでしまいがちです。

無論、
「取締役」
と呼ばれる方々も、自らが無知であることを知り、無知なら無知なりに、専門家の助言を求め、常に謙虚かつ慎重に行動していれば、トラブルを回避したり、脱出したりすることも期待できるでしょう。

しかしながら、
「取締役」
と呼ばれる方々の多くは、当該キャリアを保持するに必要な知識を確認するための試験を受けたこともないくせに、
「自信」

「思い込み」
だけは人一倍で、専門家の意見を謙虚に聞く方や勉強して自分の職や立場に関する知識を得ようというような殊勝な心がけの方はあまり見受けません。

むしろ、
「知ったかぶりでどんどん状況を悪化させ、しかも本人はそのことにまったく気がつかず、気がついたら、三途の川を渡河し、地獄の底に到達していた」等
という悲劇とも喜劇ともつかない話がビジネス社会には実に多く存在することになるのです。

一例として、手形に関し、
「取締役」
がやらかした大失敗があります。

商業手形、法律上は約束手形と呼ばれるものですが、これについては、
「手形は怖い」
「手形は難しい」
「手形の取り扱いには注意しろ」
「手形の扱いを間違うと企業の命取りになるぞ」
等という話を聞かれたことがある方も多いと思われます。

実際、手形法と呼ばれる法分野は、かつての司法試験においても論文科目とされていましたが、技術的に難解なため、受験生泣かせの学習分野として有名でした。

国内最難関と呼ばれた旧司法試験の受験生すら苦しめた難解な法分野である手形法について、無試験・無資格でなれる
「取締役」
がご存じなわけはありません。

そんな
「手形のことなんてほとんど知らない『取締役』」
の方が、知ったかぶりで手形の扱いを間違ったばかりに、会社と当該取締役が地獄に突き落とされる事件が起きたのでした。

この悲劇の詳細については、次稿にて、お話したいと思います。

(つづく)

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初出:『筆鋒鋭利』No.034、「ポリスマガジン」誌、2010年6月号(2010年6月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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