01555_ウソをついて何が悪い(5)_「ウソつき」人口密度がもっとも高い裁判所

裁判とは、
「お互い言い分が違う人間が、第三者に言い分と証拠を判断してもらって紛争を解決するシステム」
のことをいいますが、より簡潔にいうと
「どちらかがウソをついている場合に、『ウソをついているのはどちらか』をはっきりさせるための制度」
ということになります。

わが国において、裁判という国家作用(司法権の行使)を独占的に実施する国家機関である裁判所は、全国各地の一等地に、超一流の公務員(裁判官や書記官、事務官)を配置し、多額の税金を投入して運営されています。

憲法上、裁判は公開が原則とされており(憲法82条)、制度上、誰でも裁判の様子を見ることが可能とされています。

以上を前提とすると、日本で裁判を行うということは、
「公的機関がレフェリーとなって、“衆人環視”が制度上保障された環境で、リングに上がり、互いをウソつき呼ばわりしながら、言い分と証拠をぶつけ合うゲームを行う」
ということを意味します。

上記のような下劣で野蛮な特徴を有する裁判は、
「正直は美徳」
「ウソつきは泥棒のはじまり」
「清く正しく美しく生きる」
という道徳教育を受けてきた日本人の
「温和で善良でウソを嫌う清廉な気質」
とはおよそ相容れないシステムと思われます。

日本においては、
「衆人環視の下、公的機関の公的手続きの場で平然とウソをつく人間など滅多にいるものではない」
という推測が働くことから、
「裁判」等
という下品なシステムを使うユーザーは圧倒的に少ないのではないか、とも思われる方も多いのではないでしょうか。

では、ここで、日本全体で年間どのくらい裁判が発生しているのか調べてみましょう。

最高裁が作成・公表する司法統計によると、古い統計にはなりますが、平成22年度1年間で431万7901件の裁判が新たに発生しております。

その内訳をみてみますと、民事行政事件が217万9351件、刑事事件が115万8440件、家事事件で81万5052件、少年事件が16万5058件となっています。

無論、裁判の中には、
「ある事実についてどちらかがウソをついていて、どちらの言い分が正しいかをはっきりさせる」
という典型的な訴訟事件のほか、
「事実については争わないが、解釈が異なるので、裁判所ではっきり決めてほしい」
「犯罪を犯したことは認めるので、どういう刑罰を受けるのか決めてほしい」
といったものもあります。

地裁に提起される通常の民事訴訟事件について言えば、平成22年に提起された事件の数は約22万件(222,594件)。当時の裁判官(簡裁判事を除く)の数が約2800人ですから、合議体事件等があるにせよ、裁判官一人あたり年間80件弱(一月あたり6,7件程度)の事件を新たに受け持つ、ということになるようですが、これは感覚値としてだいたい理解可能です。

22万件のうち、後者のタイプの事件、すなわち事実に争いのない事件の数が感覚値で3割とすると、残りの約15万件強の事件については、
「当事者どちらかがウソをついており、事実について争いが生じている事件」
ということができます。

なんと、日本では、1年間で15万人も“ウソつき”が発生しているようです。

平成18年から5年間の司法統計を見ると、裁判所で新規に受理する全事件数はおおむね同じ数で推移していますから年間裁判件数に大きな変化はないと考えられます。

「裁判はどちらか一方がウソをつくことによって成り立つ(どちらかがウソをついているからこそ、揉めて、裁判となり、お上に判断を仰ぐ)」
ということを前提としますと日本においては、1年間で約15万人、10年間で約1500万人、30年間で約4500万人のウソつきが発生し、このウソつきが裁判所に訪れては、
自分に関しては「オレ言い分は正しい。ウソはついていない」というウソを平然と言い放ち、
相手方(本当のことを言っている被害者)に対しては「こいつは正真正銘のウソつき」というはた迷惑なウソを言い放っている、
という状況がうかがえます。

しかも、この1年間に15万人強発生する“ウソつき”は、
「衆人環視の下、国家機関において平然とウソをつける」
という、ある意味、
“黒帯級のウソつき”
です。

15万件強 の訴訟事件の背後に
「裁判に至らない言い争い」
が膨大な暗数を構成しているという点も考えると、我が国には相当な数のウソつきが跳梁跋扈しているものと推測されます。

いずれにせよ、年間22万件の事件が発生し、原被両当事者だけで年間44万人が訪れる裁判所ですが、そこに来ている人間を分類すると、
・約3割が「ウソをついていないが、法解釈や法運用に決着を求めている人種」、
・残り(約7割)の半分すなわち約3割強が「衆人環視の下、国家機関において平然とウソをつける“筋金入りのウソつき”」、
・さらに残り(約7割の半分)が「ウソつきから“ウソつき”よばわりされている被害者」
と整理されます。

こう考えると、裁判所というところは、日本の他のどの場所より
「ウソつき人口の密度が高い、“ウソつきホットスポット(密集地帯)”」
ということができます。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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