01558_ウソをついて何が悪い(8)_ホリエモンとムラカミさんその1_ホリエモンはどんな罪を犯したのか?

前稿において、裁判の世界では、
「ウソつき放題・言いたい放題で、レフェリーもウソつき行為を見て見ぬふりをし、万一ウソがバレても特段シビアなペナルティーが課されるわけではなく、逆にウソがうまく通ればトクをする」
というのが現在の日本の裁判の現状である、述べました。

とはいえ、
「ウソに寛容な日本社会においても、このウソだけはNG」
というものがあります。

そこで、以下、
「ホリエモンとムラカミさん」
と題し、
「ホリエモン事件」

「村上ファンド事件」
という
「21世紀に入り、日本の産業界を揺るがせた大きな事件の歴史的経緯」
にも触れつつ、この点について、触れて参りたいと思います。

まずは、
「ホリエモン事件」
です。

平成18(2006)年、当時、時代の寵児だったホリエモンこと堀江貴文氏が逮捕され、その後、有罪・実刑判決を受けるに至りました。

「人間はお金を見ると豹変します。豹変する瞬間が面白いのです」
「経済的に貧しくなると人間は狂気に走ります」
「ズルい手でも法律に触れなければ勝ち」
「お金が最も公平な価値基準です」
「人間を動かすのはお金です」
「世の中、金だ。愛情だって金で買える」
「世の中にカネで買えないものなんて、あるわけないじゃないですか」
「年寄りは合法的なやり方で社会的に抹殺するしかない」
「“大衆”の7割はバカで無能」
「女は25歳超えたら無価値で有害なだけの産業廃棄物」
など過激な物言いで話題になったホリエモンですが、彼は一体、どういう理由で、有罪・実刑判決を受け、現在刑務所暮らしをする羽目になったのでしょうか?

例えば、
「ホリエモンが犯した罪を説明してください」
と“大衆”に問いかけてみると、どういう答えが返ってくるでしょうか?

私はホリエモンのように口が悪くないので
「7割はバカで無能」
とまでは言いませんが、“大衆”の99%以上は、この質問に答えられないと思います。

実際、
「ホリエモンが犯した罪を説明してください」
という街頭インタビューをしてみたら、どうなるでしょうか?

「生意気だから有罪になった」
「女性を侮辱した罪で有罪判決を受けた」
「お金儲けをしたから刑務所行きになった」
など、かなりいい加減というか、トンチンカンな答えしか返ってこないであろうことは容易に予測されるところです。

ちなみに、同様の質問を、若手の弁護士や司法修習生にしたことがあるのですが、正確に答えられた者はほぼ皆無で、中には上記のような知能水準が疑われるような回答をした者も少なからずいました。

いすれにせよ、ホリエモン事件は、あれだけ報道された有名な事件でありながら、
「どういう咎でお縄になったのか、誰も知らない。」
という、ある意味、非常に特異な事件であったことは確かです。

答えをいってしまいますと、ホリエモンが犯した犯罪というのは、
「いわゆる粉飾決算を行い、ライブドアという上場企業の決算内容についてウソをついた」
というものです。

詳細な議論は割愛しますが、
「元手が増やしただけの取引を、あたかも営業を行なって利益を上げたかのように見せ、決算内容に関し、投資家に対してウソをついた」
という行為が、ホリエモンを有罪扱いにした根拠とされています。

すなわち、
「企業のサイフにおカネが入った」
という単純な現象を前提とすると、会計のルール上、
「元手が増えた場合はこっちのポケットに入れ、営業活動の成果としてアガリが入った場合は反対のポケットに入れる」
ということになっていました。

そうしたところ、
「ホリエモンは、元手が増えただけなのに、増えたおカネを“アガリを入れる専用のポケット”に入れ、いかにも営業活動順調のようにみせかけ、投資家をダマくらかした」
という趣旨の事実が認定され、これにより、ホリエモンは犯罪者とされたのです。

「ホリエモンに『7割はバカで無能』呼ばわりされた『大衆』(註:私も大衆の一人としての自覚はあります)」
の感覚からすると、
「こっちのポケットだとか、あっちのポケットだとか、そんなのどうでもいいじゃん。カネがいっぱい入ってるなら、やっぱ、ホリエモンの会社、金持ちなんじゃん!」
ということになるかもしれません。

しかしながら、こういう言い方をすれば、
「ホリエモンに『7割はバカで無能』呼ばわりされた『大衆』(註:私も大衆の一人としての自覚はあります)」
でも何となく理解できるのではないでしょうか。

ここに、2つのタイプのお金持ちがいます。

両者とも、金持ちです。

相当な金持ちです。

「ホリエモンに『7割はバカで無能』呼ばわりされた『大衆』(註:私も大衆の一人としての自覚はあります)」
からみると、仰ぎみるばかりの、シビれるくらい金持っている、金持ちです。

一人は、引きこもりのオタクで、無職無収入で、趣味もフィギュア集めで、顔もスタイルもイマイチですが、ただ、莫大な遺産をもらって、 持っているカネだけはハンパないというタイプの金持ち(以下、「無職無収入だが親の遺産を承継した金持ち」といいます)。

もう一人は、東大卒のスポーツマンで、戦略系コンサルタント、ハーバードMBAを経て、独立起業して、資産総額は上記の引きこもりの足元にも及ばないものの、相当な高収入で、高身長のイケメンで、ワインとヨットと海外旅行が趣味、というタイプの金持ち(以下、「資産はそれほど多くないが、超高収入の金持ち」)。

両者を同じ金持ちとしてひとくくりにして、
「同種・同類の人種」
とみることはできるでしょうか。

女性が結婚するなら、娘を嫁に出すなら、どっちの金持ちがいいでしょうか。

このような比較対照例を持ち出すと、
「金持ち」
といっても、
「無職無収入だが親の遺産を承継した金持ち」
と、
「資産はそれほど多くないが、超高収入の金持ち」
では、意味合いが違ってくる。

このくらいは、
「ホリエモンに『7割はバカで無能』呼ばわりされた『大衆』(註:私も大衆の一人としての自覚はあります)」
でもなんとなく理解できると思います。

このように、ひとくくりに
「金持ち」
といっても、
「どのような経緯・方法・態様によって金持ちになったのか」
ということを辿ると、意味合いや受け取り方が違っているのです。

要するに、
「収入はないが、元手だけはある」
というタイプの会社と、
「元手は少ないが、収入は非常に多い」
というタイプの会社では、
同じ
「そこそこカネを持っている会社」
といっても、投資家の判断材料としては、意味がまったく違ってきます。

こう考えると、
「元手が増えた場合はこっちのポケットに入れ、営業活動の成果としてアガリが入った場合は反対のポケットに入れる」
というルールは、非常に重要になってきます。

すなわち、ホリエモンは、このルールをうまいことごまかすことによって、
本当は、元手が増えただけ、すなわち、
「無職無収入だが親の遺産を承継した金持ち」
のような趣きの
「金持ち会社(資産リッチ・元手リッチ)」
であったのを、あたかも、営業が順調で収入がどんどん入ってきている、
「資産はそれほど多くないが、超高収入の金持ち」
のような趣きの
「金持ち会社(営業好調・収入リッチ)」
のようにみせかけて素性を偽った、というのと同様のことをやらかしたわけです。

お見合いで、
「無職無収入だが親の遺産を承継した金持ち」
が、自らを、
「資産はそれほど多くないが、超高収入の金持ち」
かのように偽ったら、結婚詐欺ないし結婚詐欺未遂呼ばわりされるでしょう(どっちも「金持ちだからOK。おカネに色はないし」という、些事にこだわらない、おおらかな女性もいるかもしれませんが)。

このように、ホリエモンは、投資家が株券上場企業が正しい情報を開示することを前提に
「将来性ある企業」

「美人投票」
よろしく投資を行う株式市場において、前記のような
「ウソ」
をついたことで、お縄を頂戴し、牢屋に入れられました。

以上が、
「ホリエモンに『7割はバカで無能』呼ばわりされた『大衆』(註:私も大衆の一人としての自覚はあります)」
でもわかるように、咀嚼に咀嚼を重ねて解説した、
「ホリエモンの罪」
です。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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