01564_ウソをついて何が悪い(14)_「ウソついたら、「ウソついたら、ハリセンボン級のペナルティ(重罪犯か罰金100億円)」のアメリカその2

アメリカで独禁法違反を疑われた場合、まず、遭遇する特徴的な捜査手法として、
「ディスカバリー(discovery)」
が挙げられます。

一言でいうと、強制的な証拠開示手続です。

日本法においても証拠開示手続がありますが、米国のそれは、日本とは比べものにならないくらい、強力な制裁によって担保され、いい加減なことをすると現実にキッツイお仕置きが課される、強制の契機を内包した、厄介で大変なものです。

ディスカバリーは、合衆国法典第28編1782条に規定されています。

その内容は、連邦地方裁判所は、利害関係人の申立等によって、裁判で用いることになる資料の提出を求める(文書提出命令を発する)ことができるというものです。

提出を求める資料はかなり広範に及び、ボリュームも相当なものになり、企業の担当部署の仕事がしばらくストップするくらい、負荷のある要求事項が課せられます。

まあ、東京地検特捜部の強制捜査や、脱税事件の犯則調査(査察)が始まると、大量のダンボールが持ち出され、引越しのような光景となりますが、
「そのような書類のデリバリを自分たちで任意にやれ。ただし、漏れ抜けなどがあったら、タダじゃおかんぞ」
という感じのものです。

具体的には、会社概要に始まり、カルテルを疑われている関連部署の組織図、カルテルが疑われる取引に関与した者や、その上司まで含めた氏名・役職等の情報開示、そして、取引に関する文書やメールのやり取りといった電子データ、社内でのチャットや電話の通話記録などもすべて提出することが求められます。

契約書、協定書や覚書といった、カルテルの合意が示されている文書だけでなく、そこに至るまでの会議の議事録、果ては、メモやノートなどにまで及びます。

また、純然たる文書だけではなく、図、表、グラフ、写真、マイクロフィルムなども提出対象に含まれます。メールのやり取りだけでなく、ICレコーダーの録音等、音声までもが提出対象になります。

さらに、これらの提出にあたっては、所有、管理、専有といった保有形態は問題にならないとされています。

ですから、例えば
「電子メールは、外部のシステム管理委託先のサーバ保管となっておりますので、提出いたしかねます」
といった対応は、通用しないのです。

考えてみれば当たり前の話で、今どき、カルテルを書面で合意するようなドン臭い企業はありません。

その意味では、価格や数量の合意の存在を基礎づける直接の証拠はなく、捜査機関は合意が疑われる時点から相当範囲のコミュニケーションをつぶさに調べ、間接事実を積み上げないと捜査が前に進みません。

そんなこともあり、途方もない量のコミュニケーションの痕跡の提出を要求されるのです。

複数年にわたる膨大な資料をごく短期間で提出することが求められるため、社内の陣容だけで対応していては、お手上げ状態になります。

弁護士と協議しつつ対応するのはもちろんですが、該当資料を発掘するために専門業者を雇う必要も発生する場合があります。

「サピーナによる文書提出命令」
への不協力、例えば、文書の改ざん、破棄、電子データの削除は、それだけで司法妨害として刑事罰、しかも重罪(フェロニー:felony)に問われます。

「ちょっとくらいなら、ズルやウソもいいんじゃね?」
という
「ウソ天国ニッポン」
のノリで、たまに、全社を挙げて改ざん・隠ぺいするような企業もあるようですが、そんなことをするのは、火にガソリンを注ぎ、ナパーム弾を放り込むくらい、危険でイケナイ行いです。

また、
「聞かれているのは独禁法で、隠ぺいしたのは、明らかに関係性の薄い事項だから、セーフだろ」
という弁解も通りません。

米捜査当局としては、本来のゴールである独禁法違反行為の立証が難しければ、司法妨害という形式的で明快な犯罪を追及し、そこを突破口にして、問題企業をイテコマシてもいいわけです。

すなわち、
「証拠が少なく、立証も面倒な独禁法違反行為」
は、司法取引の際に、
「司法妨害という新たな罪、逃れようもなくバッチリ証明される形で犯してしまった」こと
をネタに揺さぶって、交渉で認めさせてもいいわけですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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