01600_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(3)_「海外進出プロジェクト」の合理性を検証するための基準としての「SMART基準(法則)」

ビジネスの目的設定は、
1 カネを増やす
2 出て行くカネを減らす
3 時間を節約する
4 手間・労力を節約する

のいずれかに収斂させ、かつ合理的な目的設計を行うべきであり、そうでないと時間と労力とコストを散々浪費した挙句、無残に失敗し、結果、企業そのものを危険な状況に陥ります。

では、ビジネスの目的自体が、前記のないしのいずれかにあてはまるとして、具体的にどのような形で目的設定することが合理的といえるのでしょうか?

この点、
「ビジネスの目的が客観性と合理性を維持しているかどうかを検証するテストのための検証基準ないし指標」
として、
「SMART基準(法則)」
が指標ないしモノサシとして使われることがあります。

「SMART」とは、
“S”pecific(目的が具体的で客観的で明確であること)
“M”easurable(目的が、定量化・数値化されるなど計測可能となっていること)
“A”greed upon(達成を同意しうること。無理難題ではなく、達成可能であること)
“R”ealistic(現実的で、経済合理的な結果を志向したものであること)
“T”imely(期限が明確になっていること)
の頭文字を取ったものです。

ビジネスを真剣に考えないトップがいいかげんなプロジェクトをぶち上げ、その際に適当に設定される
「事業目的」なるもの
は、SMART基準を充足しない場合が多いです。

愛人に本業と無関係のブティックや飲食店事業を経営させたりするようなケースにおいて、
「トップによって公式上説明される建前上の事業目的」なるもの
を冷静に分析検証しますと、大抵、
「具体的でも客観的でも明確でもなく、定量化・数値化もされず、達成が計測可能となっておらず、達成可能でもなく、現実的で、経済合理的な結果を志向したものとはいえず、達成期限すら明確になっていない」という代物であること
がみてとれます。

要するに、このような
「SMART基準を充足しない経済的に無意味な目的」の事業は、
「動物の剥製、著名人とのスナップ写真、有名絵画、高級酒、さらには、銅像や日本刀や兜」と同様、
「(経済的には意味がなくとも)イイカッコをする、世間体や体面を保つ、すごいですねと言われてプライドや自尊心を充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する」
というのが当該経営判断の実体であろう、との推定が働くのです。

そもそも事業は、常に失敗のリスクや目的の下方修正や保守的変更の可能性を孕んでいます。

事業目的を1つ達成するのも大変な苦労を伴います。

複数の事業目的に明確な優劣をつけないまま、多義的で抽象的な目的を設定したまま、あるいは己の分際をわきまえず、欲張って目的を複数同時達成すべく追求しても、最終的に目的相互間に重篤な矛盾を来たしてしまい、結果、すべての目的が達成できず、時間とカネとエネルギーだけを費消するだけで終わります。

初出:『筆鋒鋭利』No.99-1、「ポリスマガジン」誌、2015年11月号(2015年11月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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