01607_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(10)_中堅中小企業が海外進出を成功させるには、オーナー経営者自らが直接乗り込むほかない

「目的があいまいで、考えも甘い中小企業が、アジア等の海外進出をおっ始めても、相当な確率で失敗して悲惨な状況に陥り、撤退もままならない状態に陥る」
という典型的な事例について、悲惨な状況に至るまでの詳細なメカニズムは、すでに冷静かつ合理的な観点で分析させていただきました。

逆に、海外進出成功、というか
「海外進出をまともなビジネス・プロジェクトとしてキックオフ」するには、
「圧倒的な士気と、この士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」を前提に
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルにかつ明確に理解し、当該目的を実現するタスクを具体的に把握し、かつ当該タスクを完遂しうる知見と覇気とスキルを有するリーダー(責任者)」
が、文字通り、
「進出国に骨を埋めるつもり」で、
「ゼロというか、ハンデキャップ満載の“マイナスから”スタートする覚悟」で、
「実質創業」する、
という前提環境が必要条件となります。

とはいっても、そこらへんの中小企業において、社内を隅々まで見渡してみたところで、
「犀利な有能さと、エゲツないくらい、カネや成果に執着するリーダー」
となる資質を有する人材が、掃いて捨てるくらいゴロゴロ存在する、ということではなかろう、と推定されます。

そもそも、
「『犀利な有能さがあり、エゲツないくらい、カネや成果に執着するリーダー』となれるような気概と能力を持った人間」
なら、とっくに、中途半端な規模の会社に見切りを付けてを辞めて、自分で商売立ち上げているか、外資系企業で、信じられないくらいの高給をもらって活躍しているはずです。

要するに、前述のような
「『海外進出を任せるに足るリーダー』としてのプロファイルに該当する、『資本主義的競争社会の権化』のような人材」
あるいは
「東京でたまにみかける、日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部」
というキャラは、当該企業のオーナー経営者、すなわち、
「創業経営者」

「(覇気を喪失した2代目・3代目等ではなく)創業精神を持つオーナー経営者」
その人自身くらいしかいない、ということなのです。

すなわち、中小企業においては
「功成り名を遂げた創業経営者が、老体に鞭打って、現地に乗り込み、環境・言語・文化・商売慣行といった数多くのハンデをすべて呑み込み、文字通り“死ぬ気”で、もう1回、『創業というミラクル』を成し遂げる」
ということくらいしか、海外進出に成功することは想定できないのです。

これらのことは、別に、私が思いつきで適当に言っているわけではありません。

歴史上も、
「海外進出というか、アウェー戦を闘い抜いて、勝利を収め、領土や国富を増大させるような国家ないし組織」
は、すべからく、前記のようなリーダーシップ戦略を採用しています。

膨張政策を採る国家においては、
「領土拡張紛争の最前線」

「占領によって新たに獲得した地域の近くに本拠地(軍事拠点等、トップが指揮命令をする中枢)」
を移転し、トップ自身もそれまで安穏として暮らしてきた土地を離れ生活の本拠すら移してしまう、という事例が、歴史上多数確認されています。

足利尊氏は、関東出身の豪族でありながら、鎌倉幕府を承継せず、わざわざ
「魑魅魍魎の政敵がウヨウヨいる、アウェーの占領地である京都」
に室町幕府を開きました。

尊氏は、生まれ育った故郷である関東の地(生誕は京都丹後という説もありますが、育った場所が栃木県の足利荘であることは間違いありません)を捨て、敵地ともいえる京都に室町幕府を開いて、死ぬまで睨みを効かせ続けました。

尊氏は、
「54歳」
という当時の平均寿命に近い晩年に、故郷から遠く離れた京都二条万里小路第で、戦いの怪我が原因で亡くなりました。

まあ、今風にいってみれば、尊氏さんは、自ら海外進出し、過酷な仕事が原因で体調を崩し、志半ばで亡くなった
「モーレツ社長」
ということになろうと思います。

膨張する軍事国家を率いる織田信長も、本拠地を尾張に留めず、占領目標である京都に近い安土に政治・軍事の中心(安土城)を作りました。

一説には、今後の西国進出を考えていた信長は、京都など目もくれずに素通りし、大阪石山本願寺跡に巨大な軍事要塞の建築を考えていた、とのことです(この軍事要塞構想は、豊臣秀吉に引き継がれ、「大阪城」が誕生しました)。

まぁ、信長も、本拠地を捨てて、海外進出拠点に引っ越し、さらに隣国まで事業を広げようとしたところ、常務なり専務なりの裏切りにあって、異国の地で死に果てた、といったところでしょうか。

最終的には失敗したものの、豊臣秀吉は、朝鮮出兵にあたって、肥前名護屋に一大軍事都市を作り、大阪城ではなく、当該地に実質的な本拠地移転をし、そこから直接指揮命令を行ないました。

以上のとおり、
「海外進出という、もともと勝ち目の少ないアウェー戦を戦い抜くには、ラスボス(ラストボスの略。ゲームの最後に登場する、最強のボスキャラクター)が、当初から陣頭に立って、真剣に取り組む姿勢が絶対必要であり、そのことは歴史上証明された事実でもある」
ということがいえるのです。

他方、以上とは逆に、
「大将が、ラクをして最前線や現場に出ることを忌避した挙句、悲惨な負け方をした例」
も数多く存在します。

著者:弁護士 畑中鐵丸
著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

初出:『筆鋒鋭利』No.102、「ポリスマガジン」誌、2016年2月号(2016年2月20日発売)

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