01637_法律相談の技法3_初回法律相談実施までの具体的手順(1)_法律相談申込の受付(あるいは拒否)

法律相談の申込を受けた場合、この申込を受付けるか、拒否する(門前払いする)か、という課題が生じます。

医師の場合、応召義務(あるいは応招義務)、すなわち、
「医師・歯科医師の職にある者が診療行為を求められたときに、正当な理由が無い限りこれを拒んではならない」
とする医師法及び歯科医師法で定められた義務がありますが、弁護士においては、このような義務を負担しておりません。

弁護士は、依頼者との間の高度な信頼関係に支えられて職務を遂行する立場にありますが、依頼者の中には、言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できないといった方も少なからずいらっしゃいます。

例えば、筋の通った話はされるものの証拠が全くない(記憶はあっても記録がない)という事件の場合、弁護士としては、
「裁判所は、物事を証拠と法律を通じてしか判断できない役所なので、証拠もなく、法律的にも分が悪い事案で、過大な期待をしても難しいですよ」
と至極当然の説明をします。

しかし、依頼者の中には、
「 自分がトラブル回避措置を怠ったこと(よく読まずに契約書に押印したとか、付き合いの浅い人間に契約書もなくお金や財産を預けてしまったとか)」
を棚にあげ、
「証拠がなくて、法律的に不利なトラブルでも、裁判所に行ったら、ナントカなる。いや、裁判官様がナントカしてくれるはずだ!」
などと身勝手な妄想から離れず、まともなコミュニケーションが取れない、といった状況です。

こういうタイプの依頼者と曖昧な関係構築が出来てしまうと、受任をお断りしたはずが、依頼放置だ、不利なる時期の辞任だ、と騒ぎ出し、面倒なトラブルに巻き込まれることもあり得ます。

「君子危うきに近寄らず」
という私としても個人的に大好きな格言がありますが、こういう
「言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できない」
というタイプの方とは、極力接点を持たない方が賢明です。

顧問契約を締結している企業または個人については、上記のような
「困った」タイプ
の依頼者はまずいないので(そもそも、「言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できない」というタイプの企業や個人とは顧問契約を締結しないことが多いので)、顧問先からの相談であれば、このような事前スクリーニングなくスムーズに相談実現にたどり着けます。

加えて、顧問契約を締結している企業または個人については、展開している事業等を日常的に情報共有しているので、相談の前提として理解すべき事業内容やビジネスモデルやこれらの課題をよく理解できており、その意味でも、相談プロセスはかなりスピードアップします。

他方で、依頼者や顧問先からの紹介で相談申込されてきた方や、紹介もなく飛び込みで相談申込されてきた方については、
・相談者のプロフィール
・大まかな相談事項
・相談者として抱いているゴールイメージ(期待値)
・動員資源(弁護士費用や事務的課題に対する遂行能力や遂行体制)の有無・程度
・思考の柔軟性、経験の開放性、新奇探索性、謙虚な自己評価、外向性、安定した情緒、健全な一般常識の有無・程度
を事前問診の段階でヒヤリングしながら、慎重に、信頼関係が構築可能な程度に
「言葉が通じ、話が通じ、心が通じる(感受性が共有できる)か」
を見定める必要があります。

その上で、もし、相談を申し込んできた方が、
「言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できない」
というタイプの方である蓋然性が高い、と判断されれば、丁重にお断りをして接点を持たないようにするか、あるいは、相談は実施するもさらに依頼を受けるかどうか、顧問契約を締結するかどうか、は慎重な構えを崩さず、対応することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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