01646_法律相談の技法12_初回法律相談(6)_各課題達成手段を遂行した場合の動員資源の見積もり

相談者との間で現実的で達成可能なゴールデザインが共有でき、
「スタート(現状、as is)とゴール(目標、to be)との間に立ちはだかる課題」
を発見・設定・定義し、
当該課題が複数にわたる場合は優劣・先後等について相互の関係や関連性を整理でき、
そして、
当該課題達成手段の創出・整理を終えたら、
次に行うべきは、各課題達成手段遂行のための動員資源の見積もりです。

「相談者の相手方が義務や責任を認めず、こちらが求める金を払わない状況」
に直面した相談者が当該状況を改善するためには、自己制御課題として達成・解決し得る課題、具体的には
「(何らかの)強制の契機を働かせ翻意させる」
という課題に再定義し、この課題達成を通じて
「義務や責任を認め、相談者が求める金銭を支払う」
という目標達成を企図し、そこで、課題達成手段として、

3 弁護士名の内容証明郵便による通知書を送付する
4 仮差押えを申し立てる
5 調停を申し立てる
6 訴訟を提起する
7 仲裁申し立ての仲裁合意を提案する
11 詐欺だと警察に告訴する(ナンバリングは、01645のものを踏襲しています)

というものを創出して整理したとしましょう。

ここで、各選択手段における動員資源、すなわち、各手段を履践した場合、どのくらいの費用、どのくらいの時間、どのくらいの労力がかかるか、を見積もっていきます。

弁護士によっては、着手金・報酬金方式もあるでしょうし、イベントチャージ方式、タイムチャージ方式、それらの混合形態もあるでしょうし、詳細な見積もりには相応の時間と負荷がかかりますが、初回相談段階では、相談者としての大まかなコストイメージがつかめればよいわけですから、ざっくりとした感じでよいかと思います。

ただ、弁護士として重要なことは、迷ったら、高めの予算を設定することです。

法律上の事件や事案は、すんなり想定通りにいくことはまずありえず、想定外や不測の事態が多数発生します。

そういうときに、追加費用や追加予算をクライアントにお願いしても、プロジェクトを決定した際のコストパーフォマンス計算が完全に狂うことになるので、信頼関係が負の方向で変質する危険も出てきます。

したがって、保守的な想定をしつつ、高めのコストイメージを伝えておき、想定外に軽く、簡単に解決できれば、喜ばれる、という前提で、コストイメージデザインをした方がベターといえます。

なお、動員資源の見積もりには、コスト以外にも、時間と労力の見積もりも含まれます。

時間については、裁判沙汰は、ビジネスの世界では狂っているとしか考えられないくらい長期の時間を費消します。

第一審だけで1年超はザラで、高裁も含めると2年程度は想定しておかないと、相談者の常識にまかせていると、そこで大きな認識ギャップが生じ、後々信頼関係に影響しかねません。

その場合、類似事件の裁判例等を示し、事件番号や事実経緯から推察される提訴日と、判決日までの期間を算定して、示すことで、相談者にリアルに訴訟事件における時間イメージが伝わりやすくなります。

また、相談者には労力資源の費消も要求されます。

すなわち、事実経緯のミエル化・カタチ化・言語化・文書化や、相手方の主張内容の認否等のファクトチェック等、クライアントサイドの事務負荷はかなり大きくなります。

企業紛争等では、そのために、専任者一人がかかりきりになりますが、当該専任担当者の年収が800万円とすると、
「みえないコスト」
として、訴訟事件継続年で
「800万円」相当のコスト
が発生します。

たまに、ズボラな依頼者から
「思い出したりするの面倒なんで、先生、その辺のところ、適当に書いといて」
と懇請され、懇請に負けて、弁護士が適当な話を作って裁判所に提出してしまうような事例もたまにあるように聞きます。

しかし、こんないい加減なことをやったところで、結局、裁判の進行の過程で、相手方や裁判所からの厳しいツッコミを誘発し、ストーリーが矛盾したり破綻したりしていることが明確な痕跡(証拠)をもって指摘され、サンドバッグ状態になり、裁判続行が不能に陥りかねません(「証人尋問すらされることなく、主張整理段階で、結審して、敗訴」というお粗末な結論に至る裁判はたいていそのような背景がある、と推察されます)。

弁護士は、
「記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、ある程度文書化された依頼者の、事件にまつわる全体験事実」(ファクトレポート)
から、依頼者が求める権利や法的立場を基礎づけるストーリー(メインの事実)ないしエピソード(副次的・背景的事情)を抽出し、こちらの手元にある痕跡(証拠)や相手方が手元に有すると推測される痕跡(証拠)を想定しながら、破綻のない形で、裁判所に提出し、より有利なリングを設営して、試合を有利に運べるお膳立てをすることが主たる役割として担います。

いずれにせよ、真剣かつ誠実に裁判を遂行しようとすると、
「弁護士費用や裁判所利用料としての印紙代という外部化客観化されたコスト」
以外に、気の遠くなるような資源を動員して、クライアントサイドにおいて、
「事実経緯を、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、文書化する」
という作業を貫徹することが要求されます。

このあたりの
「相談者・クライアント側に発生するであろう、隠れた動員資源」
を明確かつ具体的に伝えておくことも、相談者の態度決定をゴールとする初回相談においては、重要なこととなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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