01653_法律相談の技法19・完_継続法律相談(6)_相談者・依頼者と弁護士報酬契約(委任契約)を締結して、事件着手をする

継続法律相談の本来的・正常的なゴールは、弁護士報酬契約(委任契約)の締結と事件着手です。

もちろん、初回法律相談で、相談者として、積極的にアクションを起こして、自分を取り巻く不満・不完全な状況を改善する旨態度決定して、相談対応した弁護士にアクションを取ることを依頼することを決意したとしても、
・「詳細事実経緯のミエル化・カタチ化・言語化・文書化及び痕跡(資料や文書等)の収集・発見・整理」のプロセスでギブアップ(泣き寝入り)したり(あるいは、「事実だの証拠だの、そんな七面倒臭いことを必要とせず、うまく、早く、手軽に、相談者の望みを完全に実現するような解決が出来る、麒麟やユニコーンと同じく空想上ないし妄想上の、魔法を使え、奇跡を起こせるミラクル弁護士」を探し求める旅に出たりする方もいます)
・「弁護士費用の見積もり」を受け取った段階で、コストパフォーマンスの悪さを改めて実感し、ギブアップ(泣き寝入り)したり(あるいは、「楽観的な見通しと無責任なまでに廉価な費用提案をしてくれる弁護士」を探し求める旅に出たり)、
・「相談者・依頼者の決意にストレステストを加え、覚悟のほどを確認する」プロセスにおいて、長く、厳しく、辛く、精神的負荷のかかる営みをやり抜く覚悟が出来ていないことが露呈し、やはりギブアップしたり(あるいは、「そんな不景気で辛気臭い話をしない、未来と希望を感じるような、無責任なまでに楽観的でゴキゲンな見通しを語ってくれる弁護士」を探し求める旅に出たり)、
といった形で、継続法律相談の段階において、事件着手に至らずに、関係が解消するような相談者も出てきます。

無論、あまり悲観的で負荷のかかる話ばかりしていると、全ての事件が着手に至らずに相談段階で頓挫し、事業を営む弁護士としては、経営上やや問題かもしれません。

したがって、以上のようなプロセスをどの程度精緻に踏襲するか(あるいはスラック〔冗長性〕をもたせるか)は、経営との兼ね合いを含めた、程度問題であり、調整課題ではあります。

とはいえ、仕事や着手金欲しさに、
・安い費用で、かつ追加費用なしで受任します
・品質の高い仕事をします
・楽勝で勝てるし、勝ってみせます
・クライアントは、何もしなくて大丈夫。こちらで全部やります
・大船に乗った気でお任せください
などと、実現可能性のない、無責任な駄法螺を吹いて、勝敗が微妙な事件を請け負うと、後から大変な目に遭います。

勝てれば勝てたで、普通に努力して勝てようが、苦労に苦労して勝てようが、
「(『楽勝で勝てるし、勝ってみせます』といったくらいだから)もともと簡単な事件だったし、たいして苦労していないのに、そんな報酬を要求するのか」
と言い出して、報酬を渋りだします。

負けたり、不利な状況に陥ったら、さらに大変です。

裁判所の心証を芳しくすること能わず、不利で不愉快な和解を求められても、クライアントは、
「話が違う」
といって峻拒します。

結果、板挟みになって調整に苦労した挙げ句、最後は、裁判所の不興を買う形で和解勧試を蹴り飛ばす格好となり、
「裁判所がせっかく慈悲の心と親切心でお節介を焼いて和解をさせてあげようとに適正な和解を提案してあげているのに、救いの手を振り払って、非協力な態度を取った」
ことの報復として、手痛い敗訴判決を食らったりします。

最初に、威勢のいいことを言っていたことが仇になって、
「糠喜びさせられた挙げ句、地獄に突き落とされたクライアント」
から吊るし上げられます。

こうなると、
「無知」
「無能」
「未熟」
「愚劣」
「想像力貧困」
などと罵倒を浴び、最後には、
「こんなことだったら委任しなかったのに」
「カネを返せ」
「時間を返せ」
「機会を返せ」
「(ヒヤリングや証拠収集に要した)労力を返せ」
「糠喜びをさせた挙げ句、地獄に突き落としたことの精神的苦痛を慰謝せよ」
と言い出し、
「誰からもギャランティをもらえない、自身に降り掛かった火の粉を振り払う、意味も価値もない、後ろ向きの仕事」
に忙殺されます。

いずれにせよ、営業トークもいいですが、あまり調子のいいことを言っていると、対依頼者関係において、
「コーナーに追い詰められてサンドバッグ状態となった敗戦ボクサー」
のように、進退窮まる状態になりますので、
「根拠なき楽観は戒めつつも、絶望させない程度に釘を刺す」
という絶妙な関係構築をしていくことが推奨されます。

以上のとおり、継続法律相談段階で、相談者・依頼者がギブアップしたり関係破綻することもありえますが、各種プロセスすべてがクリアされましたら、
「弁護士報酬契約(委任契約)を締結して、事件着手をする」
という形で、法律相談プロセスがゴールインします(とはいえ、事件はまだ始まってもおらず、これからなのですが・・・)。

なお、
「弁護士報酬契約書にどのような内容を盛り込むか」
という点については、まさしく
「細工は流々」
であり、弁護士ないし法律事務所それぞれにやり方があろうかと思います。

一般論としてですが、
「契約書の記載内容において何を書くべきか」
という点について重要なことは、
「契約書というのは、関係がこじれたときを想定し、関係がこじれたときにこそ、役に立ち、モノをいう」
という契約書本来の機能と役割をしっかりと有しているか、
という点です。

そして、これは、弁護士報酬契約でもそのとおり当てはまります。

筆者(及び所属弁護士法人)においては、クライアントが
「話が違う」
「こんな結果になるとは聞いていない」
「費用対効果からしておかしい」
「こんなに長引くとは聞いていない」
「高い」
「払いたくない」
「1万円札を2万円で買うようなことになっているではないか、お前のせいだ、なんとかしろ」
「自分には正義があるし、自分は救済されるべき価値のある人間だ。そのことを理解して、費用面ではお前も協力しろ」
「相手がこんなにしぶとく粘るとは聞いていないし、想定もしていないし、お前のせいだ」
「裁判所がむちゃくちゃなことを言い出すのは、お前が悪い。カネ返せ」
といったことを言い出すような、
「弁護士と依頼者との間の関係がこじれたとき(といっても、当初にしっかりと説明し、納得してもらい、了解もした上でエンゲージしているのですが)」
を想定し、そのような想定において、
「役に立ち、モノを言う」という機能をもたせるような契約書
を整備・運用しています。

概要のみお示ししますと、

【以下、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所作成の弁護士報酬契約書(抄)】

弁護士報酬契約書(○種顧問先)

○○(顧問先種別:○種顧問先。以下、「クライアント」という)を委任者とし、
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所(以下、「弁護士法人」という)を受任者として、
クライアントと弁護士法人は、下記事件ないし事案について、以下の条件等及び合意事項に基づき、弁護士報酬契約を締結する。なお、以下の費用一切は税別表記とする。

<事件・事案の表示>
相手方、事件・事案、受任範囲、受任範囲を超えた場合、特約/確認事項

<算定前提たる基礎情報の表示>
顧問先減額割合、適用されるタイムチャージフィーテーブル

<費用・報酬条件の表示>
稼働手当(タイムチャージ方式):イニシャルデポジット、預入期限、最低預託水準額
稼働手当(キックオフフィー・リテーナーフィー方式):キックオフフィー(キックオフイベント〔○○○〕完了に至る稼働手当)、リテーナーフィー(キックオフイベント完了時の翌月以降の月次基本稼働手当)
中間報酬:マイルストンイベントの定義、中間報酬金計算式
成果報酬:サクセスイベントの定義、報酬割合(加算割合)、成果報酬金計算式

<クライアント指定担当者>

<合意事項>
第1条 委任関係及び費用ないし報酬の合意

第2条 担当制の確認

第3条 クライアントによる表明保証ないし誓約
1項 タイムチャージ方式の稼働手当精算方式採用の場合におけるクライアントによる表明保証ないし確認事項
2項 キックオフフィー・リテーナーフィー方式の稼働手当精算方式採用の場合におけるクライアントによる表明保証ないし確認事項
3項 中間報酬ないし成功報酬設定の場合におけるクライアントによる表明保証ないし確認事項
4項 費用対効果検証に関するクライアントの表明
5項 本契約に至る経緯についてのクライアントの表明

第4条 費用及び報酬の支払い方法

第5条 タイムチャージ方式による稼働手当精算方式が採用された場合における定め
1項 デポジット制
2項 担当起用や役割分担設計における弁護士法人の裁量
3項 稼働手当精算について異議がある場合の措置
4項 デポジット入金義務を懈怠した場合の措置
5項  最低預託水準額
6項  デポジット維持義務違反に基づく解除
7項 弁護士法人辞任に至った場合の措置及び効果

第6条 キックオフフィー・リテーナーフィー方式による稼働手当精算方式が採用された場合の合意事項
1項 キックオフフィー
2項 キックオフフィー支払い義務を懈怠した場合の措置
3項 リテーナーフィー
4項 追加リテーナーフィー

第7条 中間報酬

第8条 成果報酬

第9条 実費

第10条 連帯保証人の義務

第11条 弁護士法人の定める弁護士報酬規程

第12条 本契約の修正または変更

第13条 クライアントが弁護士法人に対して、異議ないし不満を申し立て、あるいは責任追及をする場合の手続き

第14条 仲裁条項

【以上、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所作成の弁護士報酬契約書(抄)】

というものとなります。

トラブルを想定した不愉快なことがつらつら書いてありますが、
「後でつかみ合いの大喧嘩するより、先に口喧嘩で済ます方が吉」
「先に立てるべき波風を立てておかないと、後から津波が来る」
という経験則に基づき、
「あらゆる厳しい局面を想定した上で、なお、揺るぎない信頼関係が構築され、継続していくための、状況耐性を獲得した相互の合意の証」
として、しっかりとしたものを作成するようにしています。

以上の、報酬契約(委任契約)が締結され、ようやく長きに渡る法律相談プロセスがゴールインし、ようやく事件着手となります。

弁護士の先生方の中には、もっと、イージーで、カジュアルで、ライトな感じで法律相談セッションを済ませ、迅速に着手をされる方もいるかと思います。

そのような先生方からすれば、筆者(及び所属弁護士法人)が日常行っている法律相談プロセスは、巧緻に失し、時機に後れるような、堅牢に過ぎるものと感じられるかもしれません。

ただ、本シリーズでお示ししたプロセスは、あくまでバックグラウンドで構築しているものであり、実際のプロセスは、要所は押さえるものの、全体としては、非常にスムーズでスピーディーに流れていきます。

弁護士の先生方もさることながら、何より、弁護士を使うべき立場にあるユーザーの皆さんにとって、
「法律相談」
という
「聞き慣れており、わかったつもりになっているが、今ひとつ、本質的、理論的に、何を目的に、どのような意図をもって、どのようなことを気にかけながら、やっているのか」
が今ひとつ理解されていない営みをしっかりと理解・把握しておくことで、より賢く弁護士サービスを使えるようになると思いますので、
「筆者なりの不十分な理解と拙い経験に基づく」
という留保がつきますが、一度、総括的に整理してみた次第です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです