01673_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(16)_文書管理

1 法的手続きにおいては、文書が決定的に重要

(司法・行政の別を問わず)およそ公的手続といわれる場においては、文書こそがモノをいいますし、特に裁判の場においては、文書の有無・内容は、訴訟の勝敗を決定づけるほど重要です。

有事の状況において、企業の正当性を立証し得る証拠が発見できず、長時間のドキュメントマイニング(資料発掘)の結果、ようやく重要な証拠書類が見つかり、手続の終盤に突如提出すると、当然、 裁判官や審判官は不信感をもちます。

「どうして今頃提出してくるのだ? 紛争になってから作ったのではないか? FAKEではないか?」
と。

取引や重要な事実・状況を、適切な文書によって記録した場合、記録を懈怠した場合とでは、決定的な違いが出てきます。

記録を残した場合、
1)有事の際に力を発揮する
ということはもちろんですが、この他にも、ビジネスや事業や企業活動の管理という点では、
2)記録を適正に残すことにより、活動の自己検証機能が働き、不当な企業活動やいい加減な行動が激減
3)所属従業員の働きぶりや成果の確認もしやすくなるため、経営管理にも役立つ
という効果も期待できます。

2 日本人も日本企業も文書管理は非常に苦手

文書管理(ドキュメンテーション・マネジメント)は、一般の日本企業、平均的日本人のもっとも苦手な分野です。

一般の日本企業において、有事の際、自己の立場の正当性を証明するための文書をリクエストすると、出てくるもののほとんどが、
・目的不明、趣旨不明、意味不明、論理不明、構造不明
内容デタラメ、体裁いい加減、主要要素である5W2H欠如、肝心な要素が欠落した、あるいは要素明確性・具体性が乏しい、「日本昔話」型法務文書(「昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいた」というような、何時のことか、何処のことか、氏名は何か、といった重要な要素がすべて欠落した、無価値で証明力のない文書)
・保存期間適当といい加減な廃棄ルール
・文書相互間に一貫性・合理的関連性欠如
・そもそも文書の中身は誰も気にしておらず、曖昧な記憶だけが頼りで事業や取引や組織を管理運用
・文書管理に、きちんとした資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウ)を動員せず、また、文書を専門的に管理にするプロを雇う余裕がないため、我流で適当に処理している

そもそも、文書と、データとは違います。

データは、文字や符号や数値の集合に過ぎません。

データが記述・表現できるのは、単純で中立で無機質で無意味で無味乾燥なな事実ないし状況だけです。

また、文書と、情報とも違います。

情報とは、認知された単純な事実ないし状況(データとして記述・表現されます)に、情報発信者が意味や評価や解釈を与えたものですが、そこに構造や全体や方向性までは看取できません。

文書とは、目的性と方向性を有した思考を、明確化・ミエル化・カタチ化・言語化・論理化・構造化・共有可能化・記録化(痕跡化ないし証拠援用可能化や改ざん不能化)したものであり、データや情報の断片を組み合わせて(つまみ食いや再構築して)作成されるものです。

もちろん、一般的な文書が、思考だけでなく、思想や感情を表す場合もありますが、ビジネスにおける文書とは、思想や感情はむしろ有害なものであり、ビジネス文書で表されるべき内容は、作成者の思考です。

問題が起こる企業や破綻する企業は、作成される文書の水準が致命的に低く、かつ、作成された文書の管理も致命的にできていません。

ちなみに、株式公開前の企業、いってみれば、普通の中堅中小企業ですが、こういうところも、営業優先・管理軽視(後回し)で突き進んでいるところも多く、上場準備において、突貫工事で辻褄をあわせたり管理実体を適正化するため、議事録や文書を慌てて整備することもあり得るでしょう(改竄やバックデートは流石にないでしょうが)。

3 例外的に文書管理において優秀さを発揮する日本の組織とは

ちなみに、文書管理(ドキュメンテーション・マネジメント)において、最高のレベルを誇っているのは、
1位 中央官庁を筆頭とする役所
2位 銀行
3位 時価総額5000億円以上の東証一部上場企業
の順です。

多くの企業では、前記のような惨状が横行しています。

問題が起こる企業や破綻する企業は、文書作成の水準が致命的に低く、管理が壊滅的にできていません。

ちなみに、日本の組織や企業を含め、最高レベルの文書管理技術を誇っているのは、中央官庁役所であり、企業では銀行です。銀行と役所には裁判で勝てない、などと言われますが、中央官庁や銀行が裁判でほぼ無敗の強さを誇っているのは、文書管理の精度・練度とは無縁ではありません。

4 法務文書の体裁・要件

法務部が取り扱う企業が作成する法律的文書を、筆者独自のものですが
「法務文書」
と定義します。

「法務文書」
としては、契約書、議事録のほか、重要なメモや確認書等も含まれます。

法務文書とは、特定の具体的事実を立証する力を有することを根源的本質とします。
特定の
「事実」
であり、評価や解釈ではありません。

法務文書には、約束内容であれ確認事実であれ、報告事実であれ、具体的事実、すなわち、
5W2H
=When, Who(to whom, with whom), Where, What, Why, How, and How much (many)
を明瞭に記述し、
作成日付、作成法人名と住所、担当者と担当者の所属やタイトルや権限といった付加情報
を記した適切な文書を作成しておくべきです。

5 法務の観点からみた文書の種類区分

00693_文書管理の基本その1:原本(オリジナル)と写し(コピー)

00694_文書管理の基本その2:処分証書と報告証書

00695_文書管理の基本その3:処分証書(契約書)とともに、厳重な保管管理が必要な文書

6 文書の保存期間や保存方法

00696_文書管理の基本その4:文書の保存期間や保存方法

7 英文文書管理

00697_文書管理の基本その5:英文文書管理

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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