01689_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(32・終)_総括

1 「仕事や人生や社会生活において本当に大切なこと」は本に書いていないし、学校でも教えてくれない

世の中、
「身過ぎ世過ぎ」
のために本当に大切なことほど本や新聞に書いていないし、テレビでも放送しない。

学校の先生や親も教えてくれない。

というか、
「『身過ぎ世過ぎ』のために本当に大切なこと」
を学校の先生やサラリーマンや専業主婦をやっている親は知らない。

そういうことを知っているなら、教師やサラリーマンや専業主婦などではなく、もっと別の人生を歩んでいるはず。

「世の中で、本当に大事なこと」
がほんの少し、手がかりのようなことが、たまに本に書いてあることもあるかもしれないが、腹が立つくらいわかりにくくしか書いていない。

2 「人生や仕事の『切所(せっしょ)』」で役に立つのは、「キレイゴト」ではなく「リアリティ」

「仕事や人生の大事な局面」
で、
「常識や、学校の先生や親に教えられたことや、テレビや新聞で言っていること」
にしたがうと、たいてい失敗する。

「常識や、学校の先生や親に教えられたことや、テレビや新聞で言っていること」
は理想であり、キレイゴトであり、耳障りはいいが、役に立たない。

「仕事や人生の大事な局面」
は、
「キレイゴトではどうにもならない、圧倒的な現実」
が大きく立ちはだかり、これに対して、
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
を繰り出す
「ルール軽視の何でもあり」
で死にものぐるいで生き残るような場面。

法務の仕事のほぼすべては、
「会社や仕事の大事な局面」
か、これに密接に関わるものばかり。

だから、法務の仕事は、
「陳腐な常識」

「リアリティの乏しいキレイゴト」
が通用しないし、常識やキレイゴトにしたがった処理をしたら、たいてい無残に失敗し、ピンチに陥る。

常識とは、物心つくまでに身につけた偏見のコレクションであって、戦理とは真逆の有害な誤謬であることが多く、窮地に陥るのも、当然といえば当然。

3 「ピンチはチャンスに」なんて絶対ならない

失敗したら、ピンチになったら、ピンチは決してチャンスになどならない。

「ピンチ」

「大ピンチ」になり、
「大ピンチ」

「破滅」になるだけ。

ピンチになったら、敗北は必至・所与とし、とっととダメージコントロール(損害軽減措置)の検討を始め、素早く果断に実行するのが優れた実務家。

4 バカほど「一発逆転」を信じる

現実の社会においては、
「一発逆転」
というのはない。

ほぼ無い、というか、まったく無い。

特に、法務有事における危機管理や危機対処において、
「一発逆転」
は、絶対無い。

たまに、
「大事が小事に、小事が無事になり、無事になって元に戻る」
という僥倖に恵まれることがあるだけ。

そして、
「大事を小事に、小事を無事にし、無事になってデフォルトの状態に回帰させる」
程度の成果を挙げるために、途方も無い時間とコストとエネルギーを費やし、かつ、辟易するくらい真面目に取り組まないといけない。

「会社のお金を使い込んでしまい、損失を回復しようとして、先物に手を出す」
という
「一発逆転策」
や、
「粉飾を誤魔化すために、さらに、大掛かりな架空取引をでっち上げる」
という
「一発逆転策」
など、
「危機打開のために、考え出された、創造性豊かな一発逆転策」
なるものは、そのほとんどが、単なる法令違反や犯罪行為(しかも、よりスケールアップした別途の法令違反や犯罪行為)であったりする。

5 社長も役員も経営のプロかもしれないが、法律については素人である。経営者は、皆、法律など「消えて無くっちまえ」と思っており、隙きあらば、軽視し、無視しようとする

社長も役員も、金儲けには詳しいが、法律は全く知らない。

むしろ、法律など
「金儲けの邪魔」
「消えて無くっちまえばいいのに」
と考えて蛇蝎の如く嫌っており、露見さえしなければ、露見してもお咎めがなければ、お咎めがあっても大したことなければ、法律など無視あるいは軽視して、より大きく、より効率的に、より素早く、金儲けがしたい、と考えている。

彼ら・彼女たちの目の奥底をみればわかるが、経営者のほぼすべては、(当人の自覚のあるなしは別として)金儲けや経済合理性や効率性の中毒者、それもジャンキー(治癒困難な強度の中毒者)であり、また、そうでなければ、資本主義社会における過酷な市場でプレーできない。

法務担当者・社内弁護士をはじめとしたサラリーマンは、リスクを極度に恐れる羊であって、強欲な経済ジャンキーの脳の奥底を知らないし、想像もできないし、理解すら困難。

だから、社長や役員は、法務担当者や社内弁護士のことを
「使えない」
「わかっていない」
「寝言ほざいてるわ」
と敬遠し、煙たがり、避けたがり、見下げたり、無視したりする。

法務担当者や社内弁護士が社長や役員に
「コンプラ的に問題です」
などと陳腐な説教でもしようものなら、小学生がシャブ中のヤクザに対して
「覚醒剤やめますか、人間やめますか」
と真顔で説教するのと同様の悲喜劇が発生する。

法務もコンプラも結構だが、
「人を見て法を説け」
という格言を念頭に置くこと。

6 弁護士は「下世話な事件の裁判沙汰」について(ほんの)少し(だけ)詳しいが、ビジネスや企業法務は、まったく習っていない。しかし、知ったかぶるし、いっちょ前の口をきく。

弁護士は、確かに、法律のプロで、裁判の知見を相応に持っているかもしれない。

憲法や刑法や親族・相続など企業法務と無関係な知識も多く、他方で、民事や商事や会社法といっても、裁判沙汰にまでなったような異常かつ病理的な事件のことしか知らない。

労働法や金商法や知的財産権法や独禁法や消費者保護関連法や税法や会計といった企業活動に関連する法律や会計の知識は、属人的に偏在しており、すべて知っているわけではない。

M&Aや国際ビジネスを知らない弁護士も多いし、ビジネスや企業経営など、やったことも、携わったこともないし、という弁護士がほとんどで、実はよくわかっていない。

だけど、
「知らない」
「わからない」
とは決して言わないのも弁護士という生き物の偏向的習性。

弁護士を
「圧倒的知識と力をもつ、唯一絶対の神」
のように崇め奉り、帰依し、すべてを依存するのではなく、限定された機能や効用に着目して、ハサミと同じように、使い方を工夫することが極めて重要。

弁護士を崇め奉って丸投げするような真似をせず、
「偏向的習性」

「知性と機能の限界」
を把握して、ハサミのように自由に使いこなすのが、法務担当者(社内弁護士)の重要な役割と責任。

7 「字を読めること」と、「紙背まで読み取ること」とは別

弁護士その他の専門家は、
「字を読む」プロ
かもしれませんが、
「字を読めること」
と、
「紙背まで読み取ること」
とは別。

字を読めても、紙背が読めない、といった手合もいる。

憲法14条は、法の下の平等を保障している。

紙背を読めば、
「法の下の平等は保障するが、逆に言えば、経済的不平等を容認している」
ということ。

これは、単なる言葉遊びやレトリックではない。

紙背にこそ、絶対的本質が書かれている。

「経済的平等」

「結果の平等」
を徹底して志向した、かつてのソビエト連邦は、国家規模で破綻した。

我が国や西側先進諸国は、
「経済的不平等」
を、断固として、徹底的に、容認し、保障し、死守してきたし、今後もそうする。

憲法14条が体制として保障する国家の姿は、紙背にこそ、その本質が描かれている。

これが、紙背を読む、という意味。

そして、こんなことは、法学部で習わないし、司法試験でも聞かれないし、司法研修所でも習わないし、一般の法律家もよく判っていない。

知っているのは、最高裁判事その他、一部のエスタブリッシュメントだけ。

8 「知性・知恵」と、「情報・データ」は別もの

「正確無比なデータ」

「詳細な情報」
よりも
「リテラシー」
が、
「瑣末な議論」
より
「大局」
「本質」
が、重要。

「記憶力」
すなわち
「データや情報の蓄積と効率的な検索という機能を実装して、誰が解いても正解が1つの自然科学上の命題・課題を間違いを犯すことなく、忘却せず、正確に、即座に解答する能力」
は今や無価値。

Googleやコンピューターといった記憶装置・演算処理装置は、確かに、便利。

原始人や未開の部族はさておき、スマホを持っていてGoogleで検索できるだけの人間を、ただ、スマホを持っていて検索できるから、といって
「記憶力のある物知り」
として尊敬したりしない。

クイズ東大王も、テレビで観ていて暇つぶしにはなるが、人生や仕事の大事、会社の生き死にに関わる大事を相談しようとも思わない。

ハサミは便利だが、ハサミを尊敬するバカはいない。

「問題を見出し、問題を設定し、課題を創出できた上で、Googleの特性を理解し、Googleを活用して、問題解決手法を生み出したり、それを金儲けに利用したりする人間」
は知性があり、価値がある。

大事なもの・重要なもの・価値あるものは、
「記憶力に長けた試験秀才や物知り」
ではなく、
「メタ認知が出来、問題を発見・特定し、問題を解決して、価値を創造できる」
ような本質的知性や根源的スキルを実装した人間。

「覚えること、記憶すること」

「正解がある問題で、正解を正確に答えること」
は、人生やビジネスや企業の問題解決能力としては、ほぼ無意味で無価値。

分厚い法律書をみても、個別具体的な企業活動や取引において法的課題を抽出する方法は、そこに書いていない。

当然ながら、分厚い法律書を正確に記憶した法律バカに、目の前の課題対処を聞いても、何も答えられない。

株主から提訴要求通知が内容証明郵便で突如送られてきてパニックに陥った企業が、
「会社法で『優』を取った法学部の学生」
に、
「こんなの来たんだけど、任せるから何とかして」
と言って対処をお願いした場合、どうなるだろうか?

この
「試験秀才の21歳の学生」
は、戦略的・効果的に対処して、企業を救うことが出来るだろうか?
それとも、歯が立たず呆然とするだけだろうか?

9 知性とは懐疑能力・創造的であり、実務知性とは結果を出せるまで合理的試行錯誤やゲームチェンジを継続する執着心と同義

知性とは、懐疑する知的能力や想像する知的能力のことであり、問題を予知し、問題を発見し、問題を特定・具体化し、展開予測をし、ストレステストを実施する能力を指す。

また、実務的知性とは、
「あの手・この手・奥の手・禁じ手・寝技・小技・反則技」
を捻り出し、ゲームチェンジを含めた合理的試行錯誤を構築・遂行し続け、
「何とかする」
「結果を出す」
まで往生際悪く執着するために働かせる知的能力や精神作用である。

10 リスク管理の肝は、リスクの発見・特定

企業法務とはリスク管理。

リスク管理で一番重要なことはリスクの発見と特定。

ほとんどの企業はリスクの特定はおろか、発見すらできていないし、楽観バイアスや正常性バイアスに罹患し、気付いてすらいない。

日本企業のほとんどは、課題抽出が圧倒的に出来ていないので、課題対処のはるか以前の段階で、躓いているのが現状。

11 「生兵法“務”」は大怪我のもと

「生兵法“務”」は大怪我のもと。

迷ったら聞く。

迷ったら聞ける環境を作っておく。

但し、聞く相手と聞く内容と聞き方を間違えないこと。

法務の失敗は、自分が出来ると思って自分の常識で処理して失敗するか、知識も経験も能力もない人間に頼って失敗するか、のいずれかがほとんど。

12 企業法務有事課題は、「正解も定石もない、正解があるかすらもわからない問題」

企業法務有事課題は、ほぼすべて、
「正解も定石もない、正解があるかすらもわからない問題」。

そんな
「正解も定石もない問題」
について、自信たっぷりに正解や定石を語る人間は、
「素数について1以外の約数を知っている」
などとほざくようなもので、どんなに立派な肩書があっても、その人間は、 バカか詐欺師。

企業法務界隈には、その手合がわりとはびこっている(判決までもつれ込んだ訴訟においては、
「絶対勝てます」
と自信満々に言い放った挙げ句敗訴する手合が、単純計算で50%近く存在する〔弁護士として空気を読んで和解を勧めたが、依頼者が暴走して敗訴した、という例外状況ももちろんあり得るが〕)。

13 他人も、自分も、信じない

人間関係であれ、組織間の関係であれ、国家間の外交関係であれ、
「正しい関係」
「ありうべき関係」
構築に最も重要なことは、
「相手をとことん信用しないこと」。

上司であれ、社長であれ、弁護士であれ、裁判官であれ、学者であれ、親であれ、友達であれ、身内であれ、他人はすべて信じない。

自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、睨み返されても予測や想定を披瀝し、これに対する備えを提案し、後で行う喧嘩を先にやっておく。

「目先の波風」
を立てておかないと、後から津波に襲われる。

さらにいえば、最も優れた人間は、自分自身ですら信じない

14 「創造的な仕事」をするためには、「陳腐な形式や退屈なモラル」は邪魔、すごく邪魔、非常に邪魔、迷惑なほど邪魔

大きなビジネスや新規のプロジェクトは、フツーのことをフツーにやっていては成功などしない。

トラブルや想定外の連続の事柄が次々生じる。

例外事象の対処には、常識や良識やモラルや過去の成功体験は一切通用しない。

学校で習ったり、親から教えられた、キレイゴトや理想論も通用しない。

というか、圧倒的な現実に立ち向かうには、キレイゴトや理想論に従うと、却って死期を早めるだけ。

「世間で評価される仕事というのは、あらゆる形式やモラルを排して遂行されているもの」
である。

15 さらにさらに

さらに、興味があれば、畑中鐵丸が執筆したシリーズコンテンツ
苛酷な社会を生き抜くための「正しい非常識」
が参考になる(かもしれないし、ならないかもしれない)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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