01734_企業が行うべき最新ネット風評対策_(4)ネットを通じた企業攻撃に対し、裁判手続きは「時代遅れで、役立たず」

ネットメディアは、瞬時に全世界中に情報が拡散してしまう特徴を有し、風評被害対策においてもスピードが求められますが、法制度や裁判制度はこのようなネットメディア環境のスピード感に対応しているとは言い難く、端的に言えば、
「時代遅れで、役立たず」の代物
なのです。

たとえば、
「XX銀行は、不良債権処理とかスゲーいい加減で、実際は債務超過状態で、やばいらしいよ。あそこの定期とかやたらと高い金利謳ってっけど、日本ホニャララ銀行がぶっつぶれたとき、ペイオフやられちゃったみたいに、マジ、ヤヴぇーよ」
などと匿名掲示板やSNSにおいて匿名アカウントによって書かれた場合を例にとって考えてみましょう。

このような書込みは、放っておくと大炎上し、それこそ取り付け騒ぎに発展しかねない火種であり、銀行としては何らかの対処をする必要があります。

そこで銀行法務部としては、この書込みは事実に反するとして、法的手続きにしたがって書き込みの削除請求や損害賠償請求を行うことを考えます。

しかしながら、銀行のこの法務戦略は、出だしから法制度の壁に突き当たるのです。

そもそも、日本国憲法は表現の自由を
「不磨の大典」
として徹底して保障し、検閲などというシステムは、独裁体制であった過去の日本を連想させる野蛮な制度として絶対的禁止としており、これらの考え方は国家公務員試験や司法試験の憲法科目の受験勉強を通して、法律を作るキャリア官僚、法律を適用する裁判官の頭脳の隅々に浸透しています。

違法不当なネット書込みへの対応を整備した法制度(プロバイダ責任制限法。「プロ責法」などと言われる)は、
「検閲に堕した」
と評されないための慎重な手続きが内包されている上、裁判官も
「自由な表現活動を公権的に抑圧した」
等と非難されないように、ネット上の書き込みに対する差止や損害賠償は、容易に認めない傾向にあります。

実際、下級審裁判例ですが、飲食店情報口コミサイトが、飲食店からの情報の削除要求にこたえなかったために受けた損害賠償請求において、口コミサイト側が表現の自由の主張を主張したところ、口コミサイトは損害賠償する必要はないと判断した裁判例が出されています(大阪地方裁判所平成27年2月23日判決)。

加えて、ネット掲示板の運営会社やサーバーが海外にある場合には、裁判手続きはさらに煩雑なものになり、解決期間も長引いてしまう。

さらに加えて、匿名で書き込みした者を特定することですら、法律や裁判は、慎重に対応する姿勢を貫徹しており、差し止めや損害賠償を申し立てようにも、
「相手の素性を明らかにする」
という前段階で頓挫することすら珍しくありません。

仮に、多数の法的障害を乗り越えて、見事、削除請求や損害賠償請求が認められたとしても、解決には相当長期間かかり、弁護士費用だけで多額の出費を要することになる。

多くの時間とコストとエネルギーを費やして、匿名の書き込み者を特定し、同人に対して裁判で勝訴したところで、それまでに別の火種が次々と炎上して
「イタチごっこ」「もぐらたたき」
が間に合わず、消しそびれた火種が大炎上して、企業自体が破綻してしまったら、全く意味をなさしません。

このように、法制度や裁判手続きは、
「匿名性を前提に、スピード・効率・広汎性という点で革命的な環境を装備するネットメディア」
には対応できておらず、企業攻撃にネットメディアが用いられた場合の風評被害対策としては、
「時代遅れで、役立たず」
の代物としか評しようがないのが現実です。

この点、発信者開示や削除請求等の法的手続きや、逆SEO等といった対処法の有用性を説くセールストークもネット等でみられますが、瞬時に効果が発揮できる効率的かつ終局的な対処法というより、
対処療法的・ 「イタチごっこ」「もぐらたたき」的
に色々動いているうちに、
「75日の経過で人の噂が自然消失した」
「別の面白いスキャンダルや耳目をひく事件・事故が発生した、相対的に世間に興味が失せた」
という他律的事象で、棚ぼた的に解決した、ということも少なからずあるものと推測されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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