01748_社長の談話やインタビュー等に応じる際、社長室から「著名人の言葉を引用したい」という話が浮上しておりますが、法的なリスクを回避する上で何か注意点はありますか?

まず、他者の発言一般が著作物となることはなく、表現が際立ってユニークで、それ自体著作物となるような、かなり特殊なものだけが問題になります。

ありふれたものや、短いフレーズ、当該発言を著作物として著作権を成立させることで、あまりに弊害が大きいような場合(表現行為に対する制約の度合いが激しく、思想表現等の営みにまつわる社会生活や経済活動を不当に萎縮させてしまう)も考え、裁判官によっては、著作物として認めないこともあるでしょう。

とはいえ、漫画家の松本零士氏が自らが創作した漫画
「銀河鉄道999」
における台詞
「時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない」
が、槇原敬之氏作詞作曲の
「約束の場所」

「夢は時間を裏切らない。時間も夢を決して裏切らない」
という一節によって著作権がされた、という紛争が裁判にまでもつれ込み、裁判所の前提判断として、このような短いフレーズでも著作物性がある、とされました。

なお、この事件、松本零士氏が著作権侵害だ、とあちこちで主張し、槇原敬之氏が
「著作権侵害などしていない、ディスられたことが名誉毀損だ」
などと主張してカウンターアタック訴訟提起しました。

地裁の結論は、被害者として被害を主張した松本零士氏に220万円の損害賠償を命じる(槇原氏のカウンターパンチがきれいに決まり、松本氏が地裁で負ける)など、かなり興味深い経過をたどり、最後は、高裁で痛み分け和解をした、というオチとなったようです。

この事件の教訓としては、
・短いフレーズであっても著作物となる可能性もある
・ただ、まんまパクリではなかったので、ここで地裁は救済した
・短いフレーズを真似されるかのような事例で騒ぎ過ぎると却って返り討ちに遭う
という話になるかと思います。

いずれにせよ、
「著作物」
となるかどうかは論点になり得ます。

そして、そもそも著作物とはならないようなものであれば、引用行為が問題になることはありません。

仮に、
「著作物としての発言」
があったとして、引用する場合であっても、引用が
「公正な慣行」
に合致するもので、批評等の引用の
「目的に従った正当な範囲内」
で行われれば適法とされます。

「公正な慣行」とは、
・引用側と引用される側が明瞭に区別されており
・引用側が主で引用される側が従という主従関係が看取され
・「出所が明示」され
・引用目的に添った必要最小限の引用
を指します。

著作性のある発言を紹介する際、出所を明示しない場合や、発言を適当に変えて発言の意図するところを変えてしまうような場合、著作権侵害(著作者人格権侵害)の可能性が出てきます。

とはいえ、実際には、有名人の発言を引用することが問題になることはまず考えられませんので、ナーバスになる必要はないのではないか、と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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