01753_ネットで誹謗中傷され、相手は判明しています。訴訟を進めていく上で、裁判所がどのような対応をするのか、今後行うゲームのロジックやルールや展開予測として知っておきたいと思います。「ネットでみられる勇ましい弁護士さんのセールストーク的なもの」とは違う、「客観性のある有益な資料」はありますか?

「ネットで誹謗中傷され、相手は判明しています」
ということですので、相手は正々堂々と素性を明らかにして名誉毀損しているか、発信者情報開示をめぐる面倒くさい
「索敵」プロセス
が終了し、ようやく決戦に挑める状況構築まで完了した、ということです。

その上で、
「訴訟を進めていく上で、裁判所がどのような対応をするのか、展開予測として、知っておきたい」
ということですが、これは非常に重要です。

ネット空間に漂う、ネット関係事件を生業とする弁護士の皆さんの営業文句を鵜呑みにすると、何だか、
「優秀で有能な弁護士に依頼したら、あっとういう間に訴訟に勝利し、訴訟に勝利したら、しびれるくらいの大金が転がり込んで、大金持ちになれる」
ような気分になれそうですが、これはまったく事実と異なります。

仕事を取るためとはいえ、事実と異なったり、事実にバイアスをかけたりするのは、どうですかねえ、とか思いますが(以下、諸般の事情に基づき、略します)。

まず、
「あっとういう間に解決」
「訴訟に勝利」
という部分ですが、結構時間がかかる場合があります。

こちらに何の落ち度もなく、加害者が一方的に悪く、事実や状況を全面的に認めている、という場合ならともかく、相手が、表現の自由を持ち出して違法性阻却を言い出したり、損害がないとか争ったりしたら、平気で年単位かかります。

そして、年単位かかった挙げ句、無残に敗北し、カネと労力に加え、メンツまで失う、なんて事例、ザラにあります。

例えば、こんな事例があります。

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成13年(ワ)第15800号
【判決日付】 平成16年1月26日
【判示事項】 インターネット上の公開のホームページ内に設置された,電子掲示板に「ワケわからん」「メチャメチャ」「妄想」「つきまとい」「ストーカー」「低脳」「頭がおかしい」などの中傷する表現を行ったことにより,名誉を毀損されたとする損害賠償請求を認めなかった事例
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

この事例が示唆するものは、
・「ワケわからん」「メチャメチャ」「妄想」「つきまとい」「ストーカー」「低脳」「頭がおかしい」などとネット上で誹謗中傷された
・賠償金400万円や謝罪文掲載を求めて、平成13年(2001)年に訴訟を提起した
・当然ながら、相応に弁護士費用がかかり、かつ少なくとも2年以上の時間と、弁護士が出す「宿題」を提出するなどの労力を要した
・挙げ句の果て、訴訟に負け、カネと労力に加え、メンツまで失った(「妄想」「低脳」「頭がおかしい」とまで言われて救済を求めたのに負けた)
という悲しい現実が起こり得る、ということです。

また、仮に勝訴しても、そんなに景気のいい賠償金は出てきません。

実際は、慰謝料50万円未満が41%、100万円未満でも69%となっています。

ほぼ7割が100万円未満しか取れない事件に関わる弁護士さん、着手金いくらで、報酬金いくら請求されるのでしょうか?

こんな事件に、着手金150万円払うなら、
「1万円札を1万5000円で買っている」
ような、
「経済的には」
むちゃくちゃ愚劣な行為をやらかしている、ということになります。

もちろん、

「『事件を放置することは、クライアントの尊厳や体面やアイデンティティが不可逆的に毀損され、クライアント個人としての内部人格均衡ないし情緒安定性や、クライアント法人としての組織内部統制秩序に対して、不可逆的な混乱・破壊・崩壊をもたらしかねず、また『やられてもやり返さないと、そういう組織ないし人間と見下され、以後、やられっぱなしにされたり、際限なき譲歩を迫られたりして、生存戦略上致命的な不利を被る』というより大きな損失を発生する危険が見込めるため、巨視的・長期的・総合的に熟慮の上、事件の成否に関わらず、事件単体の局所的経済不合理性があっても、弁護士費用をかけて事件を取り組むことそのものが、全体的・総合的・長期的に、十分な経済的メリットをもたらす』との理性的かつ合理的判断の下、クライアントが理解納得し、弁護士法人の強い警告や遠慮と謙抑からの忌避に関わらず、本費用の取り決めに基づく依頼を強く要請する」

などといった事情があるなら、別ですが。

こういうことを考えると、ネット上の弁護士さんのポジショントーク(仕事を得るという利害によりバイアスがかかったお話)というかセールストークに惑わされず、冷静かつ客観的に、しっかりとした資料に基づき、これから営もうとするゲームのロジックとルールと展開予測と相場観を知っておくことは重要であり、
「裁判所がどのような対応をするのか、展開予測として、知っておきたい」
というのは、訴訟というプロジェクトのキックオフ前に事前に行うべきFS(フィージビリティ・スタディ)を履践しようというものであり、実に健全で真っ当な姿勢です。

このような観点から参照すべき有益な資料としては、現段階では、大阪地裁の若手判事補さんが調べてまとめてくださった
判例タイムズNo.1223(2007年1月1日)49ページ
「名誉毀損関係訴訟について-非マスメディア(筆者注:ネットのこと)型事件を中心として-」
が挙げられます。

一般の方や、ビジネスマンの方にはかなり難しく、法務担当者にとっても、ちょっとむずかしいかもしれませんので、社内弁護士や一般の弁護士さん向けかもしれません。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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