01783_同じ法的対処課題であっても、民事紛争処理(司法権力空間におけるゲーム)と取締法規対処(行政権力空間におけるゲーム)は、まったく異なるゲーム

民事紛争処理事案(私人対私人のヨコの権利義務関係の法律問題の発見と課題処理)
と、
取締法規対処事案(当局対私人のタテの権利義務関係の法律問題の発見と課題処理)
は、
同じ法律を用いた知的ゲームですが、前者は司法権力空間におけるゲームであり、後者が行政権力空間におけるゲームである点で、
「ゲーム空間の構造、秩序、論理、ルール、アノマリー」
がまったく異なります。

三権分立という制度前提は、司法権力空間と、行政権力空間が、それぞれ別異に存在し、まったく違った理念と哲学と秩序によって運営されることを内包します。

「取締法規対処事案(当局対私人のタテの権利義務関係の法律問題の発見と課題処理)」
が発生した場合、法務部に聞いてもわからない、弁護士に聞いても、ふわっとした適当な答えでお茶を濁され、まったく要領を得ない、という事態に出くわすことがあります。

それもそのはず。

弁護士というのは、基本的に、
「裁判所の出入りの業者」
であり、
「司法権力空間というゲーム空間における構造、秩序、論理、ルール、アノマリー」
には通暁していますが、
「行政権力空間というゲーム空間における構造、秩序、論理、ルール、アノマリー」
にはあまり詳しくないからです。

もちろん、行政争訟と呼ばれる分野は、特に、国家公務員合格実績のある弁護士や、ロースクール世代以降の弁護士は、行政法が必須科目になっているので、ある程度は、詳しいはずです。

しかし、行政争訟というのは、一種の病理現象であり、そこに至らない取締法規課題の対処といった生理現象的なゲームについては、
「すべての弁護士がゲーム対処可能な知識や経験の基盤を確実に実装している」
という根拠は見当たりません。

「取締法規対処事案(当局対私人のタテの権利義務関係の法律問題の発見と課題処理)」
が発生し、
「より専門的な内容になると、調べるのに大変手間がかかります」
という対応であればまだいい方で、最悪なのは、調べてもわからないか、適当で曖昧なことを言われて、お茶を濁しておしまい、というケースです。

このような状況に陥ることがあるのは、たいてい、その原因として、
民事紛争規範の処理と、取締法規対処では、
「権力空間の構造、秩序、論理、ルール」
が異なることによります。

では、どうすればいいのか。

「取締法規対処(当局対私人のタテの関係の法律問題処理)」
のプロジェクトが依頼されれば、
1 事業状況DD(デューデリジェンス、調査)
2 規範DD(こちらは、施行規則やガイドライン等を含めた最大深度に至る調査)
をスクラッチから着手し、見解を形成し、当該見解が保守的な観察において問題なければ、一応の結論し、それでもなお、見解に複数解釈が成り立ったり、スワリが悪い結論で疑義が残る場合は、ノーアクションレターという特殊な制度で安全保障措置を採ります。

なお、規範調査、法令調査の段階では、
1)どこにどんなものがあるか、いわゆる「あたり」が付けられない
2)「あたり」が付けられ、該当規範らしきものにたどり着いたが、「漢詩や般若心経のような奇っ怪な日本語であり、何が書いてあるのか皆目不明」である
3)日本語として読解を完遂して「何が書いてあるのか」がわかったが、意味がわからない、話が見えない
4)意味がわかり、話は見えたが、自社の置かれた状況にどのように作用するのか、実感として理解できない
といういくつかの段階でのつまづきが考えられます。

2)~4)のレベルをより詳細に分解すると、

1 言葉の壁:
(日本語であることはわかるが、難しい漢字や読解難易度の高い文体で書かれているため、全体として、どこか遠くの国の知らない部族が古い時代に書いた象形文字の羅列のように)そもそも、何を言っているのか、何が書いてあるか、怒られているのか、褒められているのか、得なのか、損なのか、自分と無関係あるいは中立的なものなのか、すらわからない
2 意味の壁:
(言葉や文字は判読できるが)意味がわからない
3 演繹的推論の壁(解釈の壁・言葉の意味はわかるが、話がよく見えない):
(言葉や意味は理解できるが、概念や状況の意味を論理的に推定把握したり、合理的な展開予測をする、といったスキルが欠如しており)言葉の意味する状況や環境を具体的にイメージして理解したり、展開予測をすることができない
4 帰納的把握の壁(実感の壁・話はわかるが、自分の身に置き換えた形で、具体的に体感することができない):
(言葉や意味はわかるし、状況や環境も理解できるし、状況や環境が我が身に及ぼす影響も解釈し一定の理解はできているが、経験を前提として理解できる事柄について経験がないため)理解したり、イメージしている事柄が、実務経験上あるいは現実的相場観として、具体的に生じ得るのか、確認してほしい

に、突き当たる現象と推察されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです