01837_「65歳定年後に再雇用としての有期雇用契約を締結しその後更新されることなく雇止めとされた労働者」の労務問題についての法務・安全保障課題に関する前提リテラシーの実装と、評価・解釈・展開予測

1 法務課題

企業側の、期間雇用の更新拒絶という事案は、
「何か文書を発出すれば、それで問題なく契約終了という効果が生じる」
事務ルーティンではなく、
「相手が抵抗し、抵抗すれば、相手方の主張が認められる可能性がある」
法務課題です。

「仕方ない、それなら雇用を継続しよう」
と考える経営者もいましょうが、これは法務課題の意味を誤解しています。

すべては、環境と相手(従業員)の出方に依存する課題ですので、有利・不利の問題であっても、こうすれば絶対こうなる、という類の話ではありません。

2 法務・安全保障課題に関する前提リテラシーの実装

継続雇用実績ある期間雇用者の更新拒絶という法務課題を理解するための、前提リテラシーとしては、
「裁判所が徹底した労働者保護の哲学をもっている」
という点にあります。

具体的には、更新回数が1回と少ないにもかかわらず、雇用継続に対する合理的な期待の存在が肯定された裁判例があります。

「定年到達後、被告会社に再雇用された労働者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となるという限度において、有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由(労契法19条2号)がある」
とされ、65歳定年後に再雇用としての有期雇用契約を締結しその後更新されることなく雇止めとされた労働者についても、同様に更新を期待する合理的理由があるとされたものです。

交通事故等が雇止めの客観的合理的理由になるかどうかという点についても,免許取消処分や免許停止処分を受けたわけではない等とされ,雇止めが違法とされています。

「そんなのやってみないと解らないではないか」
という理解で、雇い止め通知をしてみたり、退職合意書の押印を求めたり、というのは、不可逆的な不利をもたらす可能性があります。

もちろん、相手が応じてくれればいいのですが、相手が応じず、
「御社が退職を求めて、相手が拒否した」という事実だけが残った場合、
その後、法的資源(予算)を動員して、いろいろ状況を整備し、理由を構築して、改めて、最善解に近い形で雇い止めをしたとしても、
後日、訴訟沙汰となれば、裁判所は
「雇い止めそのもの」を権利の濫用として処理
するからです。

3 評価・解釈・展開予測

要するに、雇い止めや、退職を求めるのは、一発勝負で、後日、裁判にもつれ込んでも、裁判所が納得するロゴス(論理)とパトス(情緒)とエトス(信頼・証拠)を実装した上で行わないと、雇用停止の機会を不可逆的に喪失する危険性があるのです。

その意味で、抽象的な評価概念を羅列しただけの雇い止め通知や、交渉のためのアメやムチを整備しないまま退職勧奨になだれ込むのは、
「弁護士としては同意いたしかねる想定に基づく悪手」
と評価できます。

4 裁判例

【判例番号】L07530284 地位確認等請求事件
【事件番号】東京地方裁判所判決/令和元年(ワ)第11642号
【判決日付】令和2年5月22日
【判示事項】
1 労契法19条2号における,雇用契約が更新されるものと期待することについての合理的理由の存否は,当該雇用の臨時性,常用性,更新の回数,雇用の通算期間,雇用期間の管理の状況等を総合考慮して決すべきものと解されるとされた例
2 被告Y社のタクシー運転手のうち,70歳以上の運転手は16%以上に上ること,原告Xは昭和57年に入社後からタクシー運転手として勤務し,定年退職後の嘱託雇用契約についても契約書や同意書等の書面の作成がないまま,嘱託雇用契約を一度更新したこと等が認められ,これらの事実に照らすと,69歳に達したXにおいても,体調や運転技術に問題が生じない限り,嘱託雇用契約が更新され,定年前と同様の勤務を行うタクシー運転手としての雇用が継続すると期待することについて,合理的な理由が認められ,X・Y社間の嘱託雇用契約は,労契法19条2号に該当するとされた例
3 本件接触および本件不申告のみを理由に雇止めとすることは,重すぎるというべきであり,本件雇止めは,客観的に合理的理由があり,社会通念上相当であるとは認められず,したがって,労契法19条に反して無効であるとされた例
【掲載誌】労働判例1228号54頁 LLI/DB 判例秘書登載

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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