01860_個人事業主(開業医や独立開業士業)が陥りがちな経営戦略上の誤解

個人事業主が陥りがちな経営上の誤解があります。

お金が欲しくて、お金が大好きで、カネ、カネ、カネで、カネのために人を裏切ることをいとわず、カネのために美容や健康や精神衛生を失い、カネのために人生をかける意気込みで、腹をくくって、個人開業をするような
「ビジネスエリート」
については、この種の誤解とは無縁です。

誤解を起こすのは、それなりに知性と教養があり、お育ちがよく、ジェントルでエレガントさにも価値を置いておられ、お金も好きといえば好きだが、
「カネ、カネ、カネで、カネのために人を裏切ることをいとわず、カネのために美容や健康や精神衛生を失い、カネのために人生をかける意気込み」
を持つには、知性と教養や品位が邪魔して、そこまで腹をくくることは無理、絶対無理、マジ無理、というタイプの経営者、具体的には、脱サラしてベンチャー起業する方や、開業医や独立開業する士業者(弁護士等)です。

ここで、個人開業医のケースを取り上げて考えてみましょう。

医療と医療事業はちがいます。

心臓外科医や脳外科医でない限り、医者も、今やコモディティ(日用品。石鹸やシャンプーみたいなもの)です。

医者であれば、医療は誰でもできます。

しかし、ただの医者と、個人開業医とは違います。

ただの医者は医療しかできません。

個人開業医は、医療を
「事業」
として成り立たせなければなりません。

すなわち、ただの勤務医と、個人開業医は、医療が出来るのは当たり前として、
医療「事業」
ができるかできないか、が分かれ目です。

事業は、すなわち、
「商い」
です。

ビジネスです。

リアルに言えば、金儲けです。

医療事業も
「事業」
である以上、
「算術」
「そろばん」
が命です。

要するに、医療事業において永続的に利潤をあげられるか、(一過性ではなく、サステナブルに)儲け続けられるか、が前提となります。

「医療『事業』のことを勉強して、きちんと採算が取れ、持続可能な形でやっていけるモデルができた。だから開業する」
は、生き残れるパターンです。

「医療ができるから開業する」
は、数ヶ月で経済的に死ぬパターンです。

医療「事業」
においては儲からない事柄は、一切関わってはいけません。

1秒たりとも時間の無駄使いは避けましょう。

「儲からないことであるにも関わらず、カネと時間とエネルギーといった資源を費やす行為」
を、日本語で
「道楽」
と呼びます。

貧しい人を助けてあげたい、困っている人にはカネももらわず最高の医療を、義を見てせざるは勇なきなり、困っているときはお互い様。

立派な考え方です。

まことに素晴らしいです。

ですが、もし、儲からなければ、それは、医療であっても、
医療「事業」
ではありません。

もちろん、応召義務がありますので、取締法規に違反しないようにするべきです。

自分の事業すらまともに安定的に黒字に出せない
「(経済的な)要介護者」
が、志と義侠心だけで、道楽に没頭するのは、店が傾く原因となります。

たとえ、正義にかない、高い志に奉仕するものであれ、
「道楽」
は、しびれるくらい儲かってから、です。

自分の商売すらまともに成り立たせることができない人間が、正義や社会や志を語るのは、見ていて滑稽です。

トロイの遺跡を発掘した、考古学の世界で有名なシュリーマンは、トロイの伝説を信じて遺跡発掘の志をもったとき、彼は、スコップをもって、のべつ幕なく、遺跡推定個所を掘り返し始めたのでしょうか?

違いますね。

トロイの伝説を信じて遺跡発掘の志をもった シュリーマン氏が、まず、最初に行ったのは、
「金儲け」
です。

しかも、ただの金儲けではありません。

しびれるくらいエゲつない、戦需品ビジネスで、戦争成金として、名を馳せました。

19世紀に入り、クリミア戦争が勃発すると、シュリーマンは硝石・硫黄・鉛などの戦需品の大商いに成功しました。

これに続く、アメリカの南北戦争では大量の綿花を買い占めて、これまた大成功。

サクラメント(砂金買い付け)、サンクトペテルブルグ(雑貨販売)、パリ(不動産取引)、アメリカ・キューバ(鉄道会社)、ブラジル(国債投資)など世界規模のネットワークで営まれた事業で、シュリーマンは莫大な富を築きます。

そうやって、使い切れない莫大な富をもってから、いよいよ、道楽、いや、生涯の志に没頭します。

遺跡発掘といっても、作業服着替え、スコップを以て、先頭に断って掘り返す、といったような泥臭いことはしません。

パリに居を構えて、優雅に、ギリシャ古代史の本格的な研究やイタリアのポンペイ・ヘルクラネウムなどの古代遺跡踏査などで考古学の知見を深めます。

大規模発掘作業が展開できる資金と、古物収集家としてのインスピレーションによって、小アジア北西部のヒッサリクの丘にあたりをつけ、カネにあかせて四度にわたる発掘の結果、遺跡発掘の成功しました。

その後、ギリシャ本土でもミケネ、ティリンスなどの発掘を行い、幼いころ父から聞いたホメロスの世界が実在することを証明し、その名を後世に遺しました。

個人開業医の先生方、皆さん、志は大いにおありだと思います。

ですが、
「遺跡発掘の志を立てたら、無一文のまま、単身、スコップで、闇雲に掘り返す」
などといったおろかなこと、してませんか?

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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