01847_予防法務の大切さ_弁護士による現状総括DD

プロジェクト責任者が、企業トップに対し、
「現在の状況については結果的にはそこまで悪い状況ではないと考えていますが・・・」
などと前置きしながら報告をする場合、 たいていは、状況は悪化しています。

企業トップが、不快な状況を変えるための
「現状総括DD」
を依頼した場合、弁護士は、次のように認知・俯瞰・評価・解釈をすすめていきます。

1 認知

弁護士は、プロジェクト責任者に対し、あえて、あざけるような、しつこく質問して困らせるようなコミュニケーションをとります。

それは、プロジェクト責任者が
「状況改善あるいは解決」
にとって支援勢力や有害勢力か、要するに、敵か味方を見極めるためです。

ジェントルでエレガントな表現をすると、上っ面をなぞるようなコミュニケーションしかできず、プロジェクト責任者の真意・本音は見えてきません。

そこで、リトマス試験紙のような趣きで、挑発的なコミュニケーションを意図的に行うのです。

古来、軍事上の格言として、
「見えない敵は討てない」
というものがあります。

まずは、敵を見定めます。

2 俯瞰

1の結果、プロジェクト責任者が、
「状況改善あるいは解決」
にとって有害勢力(抵抗勢力)として、いわば、内憂として、顕著に存在することが確認されるとします。

「状況改善あるいは解決」
を志向する企業トップは、二正面作戦を強いられることになります。

内なる敵と外の敵、2つの敵です。

先の大戦の際に、国民党(国民革命軍)を率いる蒋介石が、毛沢東の人民解放軍という内なる敵と、大日本帝国陸軍(支那派遣軍)という外の敵に挟まれ、最終的に、ボロ負けして台湾まで逃亡したのと同様の状況です。

この内なる敵という認識を忌避した状態で、先に進もうとすると、間違いなく悪手をとることになります。

認識として狂っているからです。

蒋介石も、当初、大日本帝国陸軍の跳梁跋扈をほったらかしにしても、人民解放軍との戦争を優先しましたが、攻めても攻めても攻めきれず、結局、この内憂処置に失敗したまま、同床異夢・呉越同舟のような形で、国共合作しか打ち手がなくなり、日本との戦争には勝利したものの、内憂によって、惨敗し、国を追いやられました。

3 評価(課題

実は、
「状況改善あるいは解決」
を阻害する
「第3の敵」
ともいうべき存在があります。

それは、企業トップの内面に巣食う楽観バイアス・正常性バイアスであり、内なる敵を絶対的に忌避しようとする精神作用です。

OSを変換して、その上に、ゲームプレイヤーの体制構築することが大前提ですが、当然、チームに敵が混入していれば、絶対うまく機能しません。

第3の敵を見逃してはなりません。

4 解釈(総括

結局、
「状況改善あるいは解決」
という戦略課題に対する有害ファクターは、
1)外からの敵
2)内なる敵
3)敵として認めたくない企業トップのバイアス
というものとして整理されます。

内憂を含めこれだけ人の和を損ねる状況があれば、まともなプレーはできません。

5 提案

まずは、トップのバイアスを入れ替えたうえで、内なる敵を排除することとなります。

これは口で言うほど簡単なことではありません。

トップのバイアスを入れ替えるには、弁護士との対話を繰り返すことで企業トップ自身が俯瞰するしかありません。

そのうえで、
1)安全保障(予防法務・契約書作成・取引内容のミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化)
2)有事外交(裁判外交渉の予兆が確認出来るコミュニケーション課題)と交戦(弁護士が介入した交渉や裁判手続き)
について、どこに委ねるか、あるいはだれが直属で指揮するか、を設計し、内なる敵を排除していくことになります。

6 対応策

不快な状況を解決していくためには、統治秩序を確立することです。

創造的なサービス提供を行う企業の場合、自由闊達な意見が自発的に出てくる環境は根源的な価値をもちますので、すべてを独裁的に行うのはNGでしょう。

他方で、あまりにリベラルでフラットな裁量・権限帰属は、リーダーシップの在り処をあいまいにし、統治秩序を崩壊させる一因になりかねません。

その意味では、

・状況を評価したり、解釈したり、展開予測を行ったり、ストレステストを行ったり、課題を抽出したり、選択肢を抽出したり、選択肢のプロコン評価をしたり、というフェーズは、フラットな環境がよいでしょうが、

・対処行動を選択したり、対処行動を評価したり総括したり、責任や担当者変更を行ったり、という、見極め・総括や意思決定や人事評価や人事措置については、しっかりとした支配秩序を保たせるべきでしょう。

上記体制への移行については、企業トップが
「手を汚したくない」
「自分だけ悪者になるのは嫌だ」
という気持ちが出るかもしれませんし、このような悩みを抱えるトップは結構います。

その場合、
「暴力的な支配秩序」を体現する「いかつい嫌われ役」
といった汚れ仕事を担わせるべく、ボード(取締役会)やコミッティー(委員会)を設置して、トップが嫌われ者になる不快な事象を緩和させるようなやり方がアイデアとして浮上します(旧財閥系の非オーナー系企業において、取締役会が重視されるのはこういった事情です)。

トップが、企業統治をすすめると決意する場合、ここから先は、法務案件となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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