01856_スモールビジネス(個人事業)を立ち上げる際に検討すべき事柄

スモールビジネス(個人事業)の立ち上げ、具体的には、屋台を開業する場合もあるでしょうし、ネットで物販をする場合もあるでしょうし、開業医としてクリニックを立ち上げたり、あるいは、我々弁護士のような士業を立ち上げる場合もありますが、このような事業立ち上げの際に検討すべき事柄を整理しておきます。

1 ビジネスモデルのデザイン

まずは、ビジネスモデルを定義し、明確化します。

1)具体的で切迫した課題現実に直面した客がいて、
2)その客が課題解決を強く望み(何を欲しがっているか、どのような恐怖や苦痛から逃れようとしているか)、
3)「当該課題解決(提供した商品を所有することで欲求が解決する場合もあれば、奉仕をしたことで欲求が解決する場合もあります)」に対して、客が、「一定の価値(利潤を付加して提示した価額)」を認めて、金銭を快く払ってくれる、
という関係性があって、はじめてビジネスが成り立ちます。

もっと簡単に記述すると、
「1万円札を5000円で調達する方法を知っている一方で、その調達した『1万円札』を死ぬほど欲しがっていて、2万円で買う客がいる」、
という関係性が存在して、ビジネスがモデル(仮説)として成立します(5000円を2万円で売るわけなので、化粧品製造販売事業並の、原価率25%の超優良なビジネスモデルです)。

脱サラする前に、開業を決意する前に、会社を設立する前に、まずは、このビジネスモデルを発見し、あるいは仮説構築することが先決です。

・どのような状況にある
・どのような欲求をもった
・どのようなことに価値を置く
客をターゲットとして、

・どのような差別化要因あるサービスないし商品を、
・どのような価格で、
・どのような場所で、
・どのようなオペレーション体制で、
・どのように売るのか
ということを、

決める、ということです。

決める際には、主観や妄想や理念や人生哲学や価値観といったものに惑わされるのではなく、現実を見据え、客を見据え、市場を見据えて、ドライに、クールに、スマートに決定します。

よくみかけるのは、お医者さんや弁護士さんが新規開業する場合の、思考の混乱です。

前記のような客の属性をあいまいにしたまま、売り方や価格を適当に考えて、
「開業すれば、まあ、それなりに儲かるだろう」
という形で安易に開業する場合にみられます。

ひどい場合ですと、
「自分は真面目で立派で仁術をモットーとする医者であり(あるいは市民の自由と人権を守るための正義の弁護士であり)、こんな立派な自分を慕って、客がたくさんやってきてくれる。真面目に医業を究めていれば、お金は後からついてくる」
といった戯言をおっしゃって、上記のようなすべての要素を曖昧にしたまま、開業をおっぱじめるケースです。

そして、こういう、
「ビジネス的に甘く、妄想癖のあるお医者さん」
を食い物にする連中もいます。

曰く、
「先生ほどの経歴と腕と実績があれば、駅前に開業すれば、すぐに、千客万来、たちまち年収が億単位となって、フェラーリでもベントレーでも買えますよ。みすぼらしいマンション開業など言語道断、医療機器も最先端のものを取り揃えましょう。患者さんは見てますよ」
などと調子のいい話をして、莫大な初期投資をそそのかし、医師を借金漬けにするのです。

そうやって、失敗した後、借金漬けにした医師を囲い者のようにして、使い倒す、というような方々の存在も聞きます。

「お金は後からついてくる」
「真面目にやっていると、神様は見捨てない」
いずれも嘘です。

嘘っぱちです。

大嘘です。

お金は後からなんてついてきません。

適当な考えで商売をはじめて後からついてくるのは、借金と債権者だけです。

一生懸命がんばっていても、努力が合理的な方向性を失えば、神様は簡単に見捨てます。

大事なことは、
「合理的で持続可能な、堅実で確実な、ビジネスモデルを構築すること」
であり、実証可能性ある仮説すら構築できなければ、おとなしく、月給取りを続けておくことです。

2 インフラの整備

ビジネスモデルが確立したら、この仮説を実証するために、ビジネスを始めることになります。

開業前のビジネスモデルはどこまでいっても仮説に過ぎません。

もちろん、仮説が崩れる場合があります。

いや、仮説が崩れる場合の方が多いでしょう。

「1万円札を5000円で調達する方法を知っている一方で、その調達した『1万円札』を死ぬほど欲しがっていて、2万円で買う客がいる」
などという美味しい話、世の中、そうそう転がっていません。

ですから、仮説が崩れたり、仮説を修正する必要性を見越しておく必要があります。

ですから、スモールスタートが賢明です。

「スモールスタート」
を設計する上では、

1)売上を想定する
2)ヒト(要員設計。ワンオペレーションにするか、誰か雇うか、アウトソーシングにするか)を想定する
3)モノ(開業場所や開業設備)を想定する
4)チエ・ソフト・情報(情報発信手法や市場や顧客へのアクセス)を想定する

以上のような思考を経て、はじめて、

5)カネ(開業予算)の想定

が論理的に成立し、その予算制約の中で、開業場所や開業場所の中身や規模が具体的に決定されます。

開業直後に赤字を抱えてすぐさま頓挫する事業体の多くは、
「1)売上想定する」
という仮説構築プロセスについて、楽観的かつ過大に見積もりがちです。

さらに恐ろしい場合でいうと、
「投下資本を大きくして、設備や人員を大きくすれば、客が自然に寄ってくる」
という、理解できないほど愚劣な考えです。

戦後まもなくのモノ不足や医者不足、昭和末期や平成初期のような弁護士不足の状況であれば、
「投下資本を大きくして、設備や人員を大きくすれば、客が自然に寄ってくる」
という与太話もあり得たかもしれません。

しかし、現代は、モノは有り余っていて、どんな金融政策や財政政策を使ってもデフレが収まらず、医者も弁護士も供給過剰で開業難の時代です。

「大きいことはいいことだ」
ではありません。

大きいことはリスクでしかありません。

3 開業の計画の策定

以上が決まって、はじめて、具体的な計画を策定することになります。

1)(仮説実証前段階ということを踏まえた、適正な規模の)ゴールを「具体的に」イメージし、デザインする
2)開業時期を決める
3)逆算して、やること(タスク)を洗い出す

開業後、仮説がどの程度実証されたかを、みてみます。

もし、
「1万円札を5000円で調達する方法を知っている一方で、その調達した『1万円札』を死ぬほど欲しがっていて、2万円で買う客がいる」
というしびれるくらい美味しい仮説(ビジネスモデル)が現実的のものとなり、お金がチャリンチャリンと増え始めたとしましょう。

それどころか、魚が大漁なのに、魚籠(びく)やクーラーボックスが不足して、魚を取り逃している状況、すなわち機会損失が顕著である、ということになったとしましょう。

そうしたら、そこで、初めて、本格的な要員や設備の拡大を志向することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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