02166_民事裁判のリアル_裁判官は書面しか読まない

民事裁判というと、テレビドラマのようなシーンを思い浮かべる方が多いかもしれません。

大きな法廷で、当事者が感情をぶつけ合い、証人が泣きながら語り、最後に裁判官が
「判決!」
と声を張り上げる――そんなイメージを持たれている方にとって、実際の民事裁判は驚くほど静かで、そして淡々としたものに映ると思います。

なぜなら、民事裁判の主戦場は
「言葉」
ではなく、
「文章」
だからです。

要するに、民事裁判は、基本的に
「筆談」
で進むのです。

法廷に立つといっても、口頭でどんどん話すわけではありません。

当事者の主張は、すべて
「訴状」

「答弁書」
といった書面にまとめられ、裁判官はその文書を丹念に読み込み、そこに書かれた事実や主張を整理したうえで判断を下します。

つまり、裁判というのは
「書いたもん勝ち」
なのです。

もちろん、
「書けば何でも通る」
という意味ではありません。

裁判所が納得するような論理と、裏付けとなる証拠が揃っていてはじめて、書いたことが
「意味を持つ」
ようになります。

逆にいえば、いくら真実を語っても、それが書かれておらず、証拠も示されていなければ、裁判所は何も判断できません。

ある控訴審で
「意見陳述をしたい」
という要望が出されたケースがあります。

裁判所からは
「できればご遠慮ください」
とやんわり拒否されました。

これもまさに、民事裁判が
「筆談」
を重視する仕組みのあらわれです。

当事者の熱い思いや心情は、裁判官にとっては
「ノイズ」
になり得るのです。

たとえるならば、裁判官というのは、ものすごく食が細くて、好みがはっきりしている
「美食家」
のような存在です。

その美食家に向かって、何でもかんでもてんこ盛りの大皿を差し出すと、逆に嫌がられてしまいます。

だから弁護士たちは、その裁判官の嗜好にあわせて、丁寧に一皿ずつコース料理のように主張や証拠を
「盛り付け」
ていくのです。

ここで大切なのは、
「何を言うか」
以上に、
「どう言うか」
「どんな順番で出すか」
「どんなカタチにするか」
ということです。

裁判官が最も知りたいことを、最初に、わかりやすく提示し、そのあとで補足を加える。

盛りつけが整っていて、食べやすい順番になっていれば、食の細い裁判官も、完食してくれる可能性が高くなります。

民事裁判では、証拠も重要です。

もちろん、それも書面で提出されます。

証人尋問や口頭の説明は、基本的には例外的なものですし、控訴審ともなればなおさら、
「文章」
だけで決着がつくのが一般的です。

そのため、証拠の意味や背景も含めて、文章でしっかり説明することが求められます。

また、裁判官は
「当事者が言いたいこと」
ではなく、
「裁判官が知りたいこと」
にしか興味を持ちません。

これは、見落とされがちですが、実は裁判における核心です。

自分の思いや評価、解釈をいくら語っても、それは
「分をわきまえない行為」
として逆効果になる可能性があります。

あくまで、事実を冷静に語り、法の適用は裁判所に任せる――これが民事裁判の基本です。

「汝、事実を語れ。我、法を適用せん」

民事裁判の現場に身を置くと、この構図が本当によく見えてきます。

当事者に求められるのは、事実を丁寧に書き残すこと。

そして、弁護士とともに、その書き方や伝え方を工夫すること。

これこそが、裁判に臨むうえでの要です。

民事裁判とは、裁判官との間で交わす
「筆談」
です。

しかも、相手は食の細い美食家。

だから、伝えるべきことをしっかりと、過不足なく、そして嗜好に合ったかたちで届けていく。

これが、民事裁判を戦ううえでの、本質的なポイントなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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