00201_企業法務ケーススタディ(No.0156):商標はワイのもんや!?

相談者プロフィール:
坂尾商事株式会社 代表取締役 坂尾 逸見(さかお いつみ、49歳 )

相談内容: 
せんせ、せんせ。
おう、元気やっとるか?
俺もなんとかやっとるで。
そんでや、今日はこれ見てもらおかと思て来たんや、商標の登録証。
まぁ、取引先の
「ホンコン株式会社」
が全然期限どおりに支払ってこんくてな、さらに、借金で飛びそうやったんで、借金のカタにこの登録証をもらってきたっちゅうわけや。
何の商標かっていうと、
「ものごっつぅええ」
や、どや!
しっかし、よう取れたでこんな商標。
ウチとしては、これ使こて、マッサージ機やらツボ押しの道具やらをシリーズ化してやな、未来永劫大儲けっちゅうわけや。
この立派な登録証、賞状みたいやろ。
まごうことなきほんまもんやで。
われながらええもん差し押さえたったわ。
俺も苦節10年? 20年? ま細かいことはええ、2番手3番手でなんとかこの経済社会を生き延びてきた。
でもな、これからはちゃうで!
俺が日本を引っ張っていくねん。
今日はセンセにこれを自慢しにきたっちゅうのが主な目的なんやけど、一応や、一応やで、先生の厳しい目からみても、この商標がしっかり俺のモンって言えるかどうか確認しといてもらっとこと思てな。
登録証は引き渡してもろうてるし、何の問題もないとは思てるんやけどな。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商標権も財産権
「商標」
とは、商品を購入しようとする人やサービスを受けようとする人に対し、その商品・サービスを
「誰」
が提供しているのかをはっきりさせるために、業として当該商品やサービスなどに付けるマーク(文字、図形、記号、形状など)をいいます。
このような商標について第三者が勝手に利用すると、商標権者の信用を害するばかりか、その商標を信頼して購入した者の利益も害することになりますので、商標は法律によって保護されています。
すなわち、商標を取得しようとする者は、特許庁に対して、商標の登録の手続きを行い、当該商標を用いることができるのは商標権者のみということになるのです。
さて、消費者からすると、著名な商標が記載されていた場合には、深く考えることもなく
「あの会社が作っているのだから大丈夫だ」
などと一定の品質を期待しますので、商標には、
「信用」
が化体されているとも言えます。
そして、このような
「信用」
は経済社会では金銭的な評価が可能です。
いわゆる
「ブランド」
としての価値の一端を担うことになり、取引可能な財産権としての価値を有しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:商標権の移転
それでは、このような財産的価値を有する
「商標権」
はどのようにして移転するのでしょうか。
財産権である以上、差し押さえや売買契約の対象になることはもちろんですが、売買契約を締結したり、登録証の引き渡しを受けただけでは、誰に対しても
「今日からは俺の商標だ」
と主張することはできません。
これは、前述したように、商標という権利が
「登録」
によって生じる目に見えない権利であるため、
「一体誰の権利なのか」
が、常に世間に公示されている必要があるためです。
したがって、譲渡等により商標権を取得したことを主張しようとする者は、特許庁において、移転登録手続きを経なければならないということになります。
要するに商標権では、
「誰が所有しているのか」
を証明する1つの手段として登録制度が採られているわけです。
このことは、
「占有」
の事実によって、
「所有権者は誰か」
が比較的目に見えやすい時計や宝石等の動産に関しては、このような制度が不要なことから理解されます。
さらに検討してみますと、不動産に関しては
「登記」
が必要なことはよく知られていますが、これは
「占有していても賃借人としてであり、所有者ではない」
という社会的事実が比較的多くみられ、所有者と占有者の分離現象が生じているために、登記制度によってフォローしようとしている、と考えることができます。

モデル助言: 
商標の
「登録証」?
いくら立派そうに見える証書でもそんなものその時期に商標として登録されたことがあったという証明にはなっても、御社が現在商標を所有していることの証明にはなりませんよ。
すぐさま、
「ホンコン株式会社」
と協力して移転登録手続きをしないといけませんね。
これは早くしないと、二重に譲渡されたり極めて面倒な事になりますよ。
しかし、借金のカタとして押さえてきたということになると、相手方の自発的な協力を得ることも難しいでしょうから、ここは、
「移転登録請求」
ということで訴訟手続きを利用したほうが早いかもしれませんね。
う~ん、最近では、いざ商標の権利行使をしようとしたら、無効審判を請求されてすぐ無効、などという事例も散見されますから、どの程度の価値のある商標かということをまずは慎重に見極めましょうか。
そうしないと費用かけて取得した商標が無価値、なんてことにもなりかねませんからね。
その上で、商標に大きな経済的価値がありそうだ、ということになれば、すぐさま訴訟を提起し、他にも売られて面倒な事になったりする前に、しっかりと財産権の確保をしておくこととしましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00200_企業法務ケーススタディ(No.0155):入社時の健康調査の限界

相談者プロフィール:
孔雀(クジャク)ホールディング株式会社 専務取締役 里目 太一(さとめ たいち、21歳)

相談内容: 
先日、ウチの会社の業務拡大のために新人を雇うことにしたんです。
一応、入社テストやったり、経歴書提出させたり。
ご存知のとおり、父から会社を継ぐ前提で人事の総責任者をやらされているんですが、このご時世、まともな人間を採用するのって、結構大変なんですよ。
それで、ウチの会社の顧問をお願いしている北野社労士の意見もあって、今回、入社希望者の全員に、指定の病院で健康診断を受けてもらうことにしたんです。
だって、最近は、入社したとたん、
「持病があるので、キツイ仕事はできません」
とか、面倒くさいことぬかす新人がたくさんいるじゃないですか。
だから、最初に健康診断を受けさせて、面倒くさいことを言いそうな奴は、選考から外そうってことにしたんです。
そしたら、先日、ウチの採用試験を受けた西山ってやつが、
「オレが落とされたのは、オレの持病のせいだろう。差別だ。損害賠償だ」
って騒ぎ出したんです。
確かに、本人に内緒で行った血液検査の結果、ちょっと、面倒な病気をもってたんで、適当な理由をつけて採用見送りにしたんです。
だって、こっちだって、健康な人間を雇いたいわけだし、まだ内定すら出してないし問題ないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:採用の自由
企業にとってみれば、採用する人間の能力や考え方、健康状態などは、今後の人事などを考える上で最重要課題となるはずですが、“採用時”に得られる情報には限界がありますので、企業にとっての
「採用」
は、一種の“カケ”の様相があります。
それゆえ、どのような人間を雇うかは、基本的には、経営責任を負う経営者の自由な判断に委ねられるべきであると考えられています。
特に、終身雇用制という独特の雇用システムを採用しているわが国の場合、これまで本連載で何度も取り上げてきたように解雇が極めて限定されているので、企業への“入口”である採用時に、ある程度、企業側の自由を確保しなければならないという実際上の要請もあるからです。
このような、採用時における企業側の自由を、
「採用の自由」
といいます。
そして、この採用の自由は、採用を望む者との間で雇用契約を締結する自由、すなわち私的自治の中核をなす
「契約の自由」
の一部として位置付けることができ、さらには、企業の経済活動の自由のひとつとして、憲法にその根拠を求めることができます。
例えば、企業の採用の自由について争われた、いわゆる
「三菱樹脂事件」
では、最高裁判決は憲法上の採用の自由について、次のように述べています。
「企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別な制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる(最高裁73年12月12日判決)」。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:採用のための情報入手の可否
以上のとおり、企業には、採用する、採用しないの自由があることになりますが、前提として、採用を判断するための情報を入手することも、原則として自由であると考えられております(調査の自由)。
例えば、前記最高裁判例は、
「採用にあたって、思想や信条といった、人の能力には関係がない、内心的なことを調査し、調査の結果を理由に採用を拒絶することも、当然には違法ではない」
と判断しています。
企業にとって、健康的、継続的に勤務してもらうことを目的として、採用希望者に対し、健康診断を受けさせたり、診断書を提出させることも許容されると解されています。

モデル助言:
里目さんの会社の場合、健康診断を受けさせて、その健康状態を調査した上で採否を検討するというのは、病歴の内容いかんによっては、労働能力に影響を与えたりもしますので、ま、
「“調査の自由”を行使した」
といえなくもありません。
ただ、いくら
「調査の自由」
が認められるからといって、無制限な調査が許されるわけではありません。
本来の必要性を超えて、単に“興味本位”で調査を実施する、というのはご法度です。
病歴や持病の種類によっては、センシティブな問題をはらみます。
健康情報を調査・取得する場合、
「本人の同意」
と、調査の必要性が不可欠となります。
実際、採用にあたっての調査で、採用候補者に無断でB型肝炎ウィルス感染の調査をしたことがプライバシーを侵害するものとして、企業に対し慰謝料の支払を命じる判決が出ています(東京地裁03年6月20日判決)。
里目さんの場合、本人に内緒で検査を行っている時点でアウトです。
訴訟で敗訴しても慰謝料額自体はわずかでしょうが、たちまち
「ブラック企業」
という噂がたち、新卒採用に誰も応募しなくなりますよ。
まだ内定すら出していない段階であれば、早めに謝罪して、示談することをお勧めします。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00199_企業法務ケーススタディ(No.0154):昇給できるのに降給できないの!?

相談者プロフィール:
湾岸倉庫株式会社 代表取締役会長 滝村 総一郎(たきむら そういちろう、76歳)

相談内容: 
先生、私ねぇ~、長年奉職した警察署長を辞してからは、うちの親戚がやってた倉庫業の会長に据えられたのよね~。
ただ、会長のイスに座ってれば、月20万円あげるからっていわれてね~。
年金だけじゃ暮らしていけないから、ラッキーと思って、毎日、11時過ぎに出勤して午後3時には帰るっている悠々自適な生活が始まったのはいいですけどね~。
実は、先日、労働基準監督署の人間がやってきて、
「責任者出てこい」
っていうから、一応、元警察署長としてかっこいいところみせようと思って出ていったら、なんでも、ウチの従業員の青島ってのが、勝手に給与を下げられたことを労働基準監督署に相談したらしいのよ。
で、ウチの人事を仕切っている副社長の秋山に聞いたら、上司に向かって
「仕事は現場で起きてるんだ~」
とか暴言を吐いたり、そのくせ仕事は雑で遅かったりで、今年から給料を下げたらしいのよ。
そしたら、青島が、
「何を根拠に給料を下げるんだ」
とかってかみついて、挙げ句の果てに、労働基準監督署に駆け込んだということらしいのね。
だって、従業員の給料なんてのは、会社が従業員の働き具合をみて決められるんだし、給料を上げられるなら、下げるのだって、当然、できるはずじゃないですか。
先生、そうですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:給料の定め方
民法623条以下に規定される雇用契約は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって成立しますので、給料の額は、原則として、雇用者と従業員の合意によって決まることになります。
そうすると、従業員の給料を変更する場合、いちいち、雇用契約の当事者である雇用者と従業員との間の話合いによって決めなければならないことになりますので、多くの従業員を雇用しているなどの場合には、煩雑になってしまいます。
そこで、たいていの企業(常時、10人以上の従業員を雇用している企業)の場合、雇用条件について画一的に処理するために、
「就業規則」
を作成し、その中で、給料の額の計算方法や支給条件などについて細かく定めることとしました。
この
「就業規則」
は、労働契約法7条の
「使用者が合理的な労働条件が定められている『就業規則』を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」
旨の規定によるもので、労働者の個別の同意を得なくとも、
「就業規則」
を定めることで、多数の従業員に対して、一挙に画一的な労働条件の内容を設定することを可能としています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「降給」も規定がないとだめ
ところで、多くの
「就業規則」
は、
「昇給」
に関する規定(昇給のための査定方法、昇給額の決定方法、時期など)についてはしっかりと定めているようですが、給料の額を減額する意味の
「降給」
については、あまり規定していない場合があるようです。
もし、
「降給」
の規定がないにも関わらず、雇用者が一方的に
「降給」
してしまった場合、
「賃金を引き下げる措置は、労働者との合意等により契約内容を変更する場合以外は、就業規則の明確な根拠と相当な理由がなければなし得るものではない」
と判断され、当該
「降給」
が無効とされてしまう場合もあります(東京地裁96年12月1日判決。アーク証券事件)。
そして、単に
「賃金は勤務成績によって降給すことがある」
と規定するだけでは足りず、能力別の資格等級基準などを設けるなどして、どのような人事評価によれば、どのくらい
「降格」
になるのかを明確にしなければならないとされております。

モデル助言: 
滝村さんの会社に、何人の従業員がいるのかは分かりませんが、もし、常時、10人以上の従業員を雇っているなら、当然のことながら、就業規則を整備しなければなりません。
え?
就業規則はあるけど
「降給」
の規定がない場合どうするかですって?
まずは、勝手に減額した分を直ちに払ってあげてください。
そうじゃないと、
「給料全額払いの原則(労働基準法24条)」
に違反して、罰金刑をくらってしまう場合もあります。
次に、今後、適法に
「降給」
するために、就業規則を変更して
「降給」
の規定を新設しなければなりませんね。
あ、でも、変更といっても、好き勝手に就業規則を変更してもだめですよ。
「降給」
規定の新設は従前の労働条件よりも労働者にとって
「不利益変更」
になりますので、第四銀行事件(最高裁97年2月28日判決)が判示するように、労働者の被る不利益の程度、使用者側の必要性の内容・程度、代償措置等を総合的に考慮して、
「合理的な変更」
にあたるかどうかを慎重に検討しながら進めなければなりません。
まずは、就業規則の見直しをしていきましょう!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00198_企業法務ケーススタディ(No.0153):行き過ぎたエコ表示へのおとがめ

相談者プロフィール:
チャラ・ビューティー株式会社 代表取締役 茶良 慎吾(ちゃら しんご、29歳)

相談内容: 
せ~んせ~い!
ご無沙汰してます。
本日は、新商品の相談に来ましたよっと。
これまで、いろんなものを売ってきたけど、今はエコに敏感なギャル向けにターゲットを絞った美顔器、『チャラ・ビューティー・スーパー・エコ』を発売したところ、売れに売れちゃっております!
チャラ男です!
この美顔器、
「リサイクル材を活用」
とかうたってて二酸化炭素排出削減率50%って表示してるんだけど、実際は、研究部門から
「そこまでは達成できてないかもしんない」
なんて報告が上がってきちゃって。
いやぁ、最近は若者もエコ意識が高くて、ある意味ファッション化してるんだよ。
それで、
「ギャルとエコ」
なんて斬新な組み合わせのこの商品はバカ売れしたってわけ。
何か問題でもあるんですかって?
いやぁ、俺としては全くないと思ってるんだけど、なんだっけ、急に先週、公正取引委員会とかいうところから連絡があってさ、
「おたくの商品の広告表示に関して少しうかがいたい」
なんていってきたってわけ。
不安だからさ、いったい何のことだろうって、社内でさっそく緊急対策本部立ち上げて調査したら、どうやら
「エコ表示」
がちょっとヤバいっぽいんだって。
キツイねー。
先生、これってどれくらいやばいことなのかな?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:景品表示法とは
企業のコンシューマーセールス(消費者向営業活動)を規制するものとして、消費者を誤認させるような不当な商品表示や射幸心を煽るような過大な景品類の提供に対しては、これらを禁止する目的で定められた不当景品類及び不当表示防止法(景表法)の規制が及びます。
顧客誘引に力を入れなくても十分なブランド力がある企業等は、これまで景表法など意識すらしなかったと思われます。
しかし、最近では、個人消費が冷え込み、また業界再編の波を受けて企業間競争も活発になり、積極的に顧客誘引を行おうとした結果、大企業でも景表法に抵触してしまう、という事例が出てきています。
景表法違反の措置としては、排除措置命令(同法6条)を受け、カタログやチラシやポスターの回収等が命じられる場合がありますし、さらに、当該措置命令に違反した場合、刑事罰が科されることまで想定しておかなくてはなりません。
何よりも同法違反によって消費者に対する信用がダメージを受け、売り上げの低迷や株価の低下を招く、といった事業への悪影響が生じます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:優良誤認について
同法第4条第1項第1号は、事業者が、商品やサービスに関して、その品質・規格その他の内容について、一般消費者に対し、
1 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
2 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
であって、不当に顧客を誘引する等のおそれがあると認められる表示を禁止しています。
具体的には,商品等の品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争相手よりあたかも優れているかのように偽って宣伝したりする行為が該当します(2009年4月20日には過大なエコ表示に関して大手家電メーカーに対して排除措置命令が出されました)。
そしてこの規制は、故意に偽った場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、優良誤認と外形的に認められる場合には、同法の規制を受けるため、十分な注意が必要です。
この規制に該当すると上記排除措置命令が出されることが一般ですが、そのための調査として、消費者庁長官(実際には委任を受けた公正取引委員会)が、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めてきます。
そして、この提出に応じないとか、十分な資料が提出できないなどということになると、
「不当表示」
とみなされてしまう、という仕組みを有しています。

モデル助言: 
このような法律の仕組みになっていますから、公取の調査を無視するなんて手法は取り得ません。
そんなことしたら、
「不当表示」
と決めつけられた上、排除措置命令が出されて
「我が社は嘘をついていました。
ごめんなさい!」
という表示を義務付けられるなど公開羞恥プレーをさせられます。
企業の信用など一挙に吹き飛んでしまいますよ。
そこで、指導勧告で本件を終わらせることが目標になります。
そのためには不当表示と決めつけられないように真摯に対応すべきことは基本ですね。
そして、法が規制しているのは
「著しく」
優良である旨の表示ですから、
「著しくはない」
ということはしっかりと主張していかなくてはなりません。
現在のところ、どれほどデータとかけ離れた表示がなされていたかは不明確なままですよね?
研究部門の実験データ等全部洗いなおして、表示とデータとの間にどれくらいの乖離があるのかを分析し、それが一般消費者に大きな影響を与えないことを論理的に説明しなくてはいけません。
その上で、説得的に再発防止策を論じた報告書を提出することで、なんとか排除措置命令を避ける方向で、全力を尽くしていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00197_企業法務ケーススタディ(No.0152):家主が夜逃げして、地主から出て行けといわれた!

相談者プロフィール:
forever mature 代表取締役 矢部 祐二(やべ ゆうじ、34歳)

相談内容: 
先生、この前、友人と、おしゃれな40代、50代の女性限定のアパレルブランドを立ち上げたことはお話ししましたよね。
その後、表参道の古い民家を借りて、内装にかなりのカネをかけてリノベーションして、セレブな奥様方にうけるように1階にはおしゃれなカフェなんかもつくって、ショップをオープンしたんです。
お陰さまで、ショップも大繁盛で、俺好みの年上の女性にも会えるんで、最高っすよ。
で、いいこと尽くしだと思っていたら、昨日、いきなり、土地の持ち主だっていう、欲深そうなジジィがやってきて、
「土地を貸して民家を建ておった輩が、6ヶ月以上、地代を払っとらん。
それに、行方をくらませて地代の請求もできん。
よからぬ連中からカネを借りていたという話も聞いておるし。
とにかく、土地の借主が地代を払わん以上、建物は取り壊して土地を明け渡してもらう。
お前さんにも出てってもらうからな!」
とかっていうんですよ。
俺は、民家のオーナーに毎月ちゃんと銀行引き落としで賃料支払っているのに、民家のオーナーと地主との間の地代のことなんて知らないっすよ。
でも、地主は、土地を明け渡せって息巻いているし。
このまま、ショップが取り壊されちゃうんですか?
先生、改装費用とか、全然回収できないし、そんなのヤですよ。
何とかしてください!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:土地(敷地)と建物の賃貸借関係の原則
土地(敷地)の賃貸借は、
「土地の所有者」

「土地を利用する者」
との間で締結されるものであり、また、建物賃貸借は、
「建物の所有者」

「建物を利用する者」
との間で締結されるものです。
それゆえ、
「土地を利用する者」
が、
「土地の所有者」
から土地を借りて建物を建築し、今度は
「建物の所有者」
として
「建物を利用する者」
に建物を貸した場合であっても、
「土地の所有者」

「建物を利用する者」
との間に、契約関係はありません。
なお、
「土地の所有者」
にとってみれば、
「建物を利用する者」
は、建物の利用と同時に、事実上、土地も利用しているのだから、あらかじめ
「土地の所有者」
の許可を求めてもよいような気もしますが、この点について最高裁1971年4月23日判決は、法律上、土地を利用しているのは依然として
「建物の所有者」
であるとして
「土地の所有者」
の許可は不要であるとしております。
このように、
「土地の所有者」

「建物を利用する者」
との間には、何らの契約関係も、何らの利害関係もないのが通常です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「建物の所有者」に代わって地代を支払えるか
ところで、
「土地の所有者」

「建物を利用する者」
との間には、何らの契約関係も利害関係もない以上、仮に、
「建物の所有者」

「土地の所有者」
に地代を払っていない場合であっても、“代わりに地代を支払う”根拠を欠くとも思われます。
しかしながら、実際に
「建物の所有者」
が地代を支払わなければ、そのうちに土地(敷地)の賃貸借契約を解除されてしまい、結果として、建物からの退去を強制されてしまいます。
そこで、何とか、土地(敷地)の賃貸借契約を解除されないように、“代わりに地代を支払う”ことができるかが問題となります。
この点、最高裁86年7月1日判決は、
「建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあるから、敷地の地代を支払い、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有する」
として、
「建物を利用する者」
による地代の支払いを有効としました。
この判例を適切に活用することにより、きちんと家賃を支払っている建物を利用する者としては、
「『建物の所有者が土地の所有者に地代を払わない』等という、自分ではどうにもできない理由で、底地のオーナーから無理やり建物から追い出される」
という事態を防止できる、というわけです。

モデル助言: 
矢部さんとしても、民家のオーナーが地代を支払わないと、多額のリノベーション費用をかけて立ち上げたアパレルショップから、突然、立退きを余儀なくされてしまうわけですから、民家のオーナーに代わって地代を払う
「利害関係」
があるわけです。
したがって、まずは、地主さんに事情を説明して、民家のオーナーに代わって滞納している地代を支払うことを提案してみてください。
もっとも、地主さんと民家のオーナーとの間で話がこじれてしまっている場合には、地代を受け取ってくれないかもしれません。
地主とすれば、
「行方不明になるなど面倒くさい民家のオーナーとの間で、法律上、少なくとも30年間は継続することになる借地契約」
なんて面倒くさいものはとっとと解除して、30年前に比べて相当値上がりしている土地を有効活用したい、と考えるでしょうから。
このような場合には、支払いを行う
「利害関係」
があるにも関わらず、債権者である地主が
「弁済の受領を拒むとき」
に該当する(民法494条前段)として、法務局に
「供託」
すれば済みますよね。
いずれにせよ、心配しなくて大丈夫ですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00196_企業法務ケーススタディ(No.0151):株主からの質問への対処法

相談者プロフィール:
高橋映画株式会社 代表取締役 高橋 英雄(たかはし ひでお、68歳)

相談内容: 
先生、最近は、3D映画とかアニメとかに押されっぱなしで、もう時代劇は流行らなくて困っていますよ。
弊社の一部の株主からは
「ドリームワークスみたいなフルCGの感動超大作は作れないのか」
なんていい加減な提案が飛び交う始末です。
今まで、時代劇一本でやってきた会社にCGを作れ、なんて、ムリに決まっているじゃないですか。
とはいえ、今年もまた、弊社の株主総会の時期がやってきました。
今年の議題は役員の改選と定款の一部変更だけなので、そんなに紛糾することはないと思うんですが、何せ、昨年度の売上も悪いだけに、嫌がらせのように
「なんでハリウッドスターを使わないのか」
とか、バカ丸出しの質問が出てくるに決まってるんですよ。
さらに、去年の時代劇の大作でヒロインを演じた弊社の専属女優の熱愛スクープとか、経営に全く関係ない事項についても、ネチネチ質問してくる輩もいるでしょう。
いっそのこと、
「ノーコメント。もう知らない!」
で通してやろうと思うんです。
もちろんくだらん質問に対してですよ。
そりゃ、まともな質問にはきちんと答えますって。
主幹事証券会社の連中や法務の連中は、
「株主の質問には、誠意をもって回答すべき」
とかいってますが、そんなの無理ですよ。
バカな奴のバカな質問には、
「ノーコメント」
で十分ですよ。
先生、それで問題ないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会の位置づけ
そもそも、株主総会というものは、株式会社の基本的な方針や重要な事項について議論して決定する会社の機関の1つであり、会社の実質的な“持ち主”である株主によって運営される会です。
株主が会社の“持ち主”である以上、会社に関することは、全て株主総会で議論して決定するべきとも考えられますが、実際には、多人数に及ぶことが予定されておりますし、日々の業務についていちいち議論していたのでは迅速性を損ない、ビジネスチャンスを逃してしまいます。
そこで、日々の業務については取締役等の経営の専門家に委ね、株主総会では株主の権利を守ることを目的として、基本的な方針や重要な事項についてのみ議論し決定することとしたわけです(いわゆる「所有と経営の分離」)。
なお、基本的な方針や重要な事項について議論するといっても、多くの株主(特に個人株主)は、株価や剰余金(利益)の配当の有無、その額にしか興味がなく、これまでの多くの株主総会は、さしたる議論もなされずに短時間で終了するというのがほとんどでした。
もっとも、近年では、株価をより高くするために、会社に対し様々な提案等を直接行うアクティビストと呼ばれる株主も多くなり、これらの提案等が経営陣の意思決定に大きな影響を与えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:取締役の説明責任
ところで、前記のとおり、株主にとっての株主総会は、会社に対し自分の意見を述べることができる唯一の機会でありとても重要な会合ですが、株主は、日頃から会社の詳しい情報や資料に接しているわけではなく、会社についての情報が不足しています。
また、株主総会開催の際に送られてくる招集通知には簡単な資料しか添付されておらず、議論をするにしても、そのための前提を欠いています。
そこで、会社法は
「取締役(中略)は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない(法314条)」
と、
「取締役は、株主総会において、株主に対して説明義務を負うべきもの」
としています。

モデル助言: 
「株主の質問には、誠意をもって回答すべき」
という主幹事証券会社や法務の担当者の助言は、取締役として会社法に定められた説明義務を果たす、という観点では、間違ってはいません。
ただ、株主の質問には何でもかんでも答えなければならないとするとそれはそれで不合理です。
そこで、まず、会社法は、
「1 株主総会の目的である事項に関しないものである場合、
2 その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合に取締役の説明責任を免除し、また、説明のために調査が必要となる場合や同じ質問を繰り返す場合など、正当な理由がある場合にも説明責任を免除する」
とも定めています。
なお、株主総会の目的に関するかどうかは、
「議題について、株主が合理的な判断をするのに必要な範囲がどうか」
によって決まると解されております。
御社の専属女優の個人的な交際についてはどう考えても
「役員の改選」

「定款の一部変更」
に賛成するかしないを判断する上で必要とも思われません。
また、同じ質問を繰り返すようであれば、株主総会の効率的な議事の進行を確保するために議長に認められている
「質問を制限する」
という権限を行使するのも一つの方法です。
いきなり
「ノーコメント」
では、株主をいたずらに刺激するだけですから、会社法に則って、手続きを踏んで、うまくスルーしちゃいましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00195_企業法務ケーススタディ(No.0150):サブリースの甘言

相談者プロフィール:
レッドマネジメント株式会社 代表取締役 牛田 吉憲(うしだ よしのり、46歳)

相談内容: 
先生、お久しぶりですっ!
今日はね、不動産の相談で参りましたよ。
俺も余裕できて一戸建て買って、一昨年には世田谷に別の結構な土地まで買わせていただきました。
その際には、先生にもお世話になって・・・。
勢いで土地買ったはいいけどさ、今になって活用法考えてないことに気づいたんっすよ。
そんな時、ゴリラ不動産なんてところから、
「良い土地をお持ちですね!
駅近だし、商業施設を造っていただければ、われわれがそれを一括で借り上げ、賃借人との折衝も全部行わさせていただきます。
われわれとの契約では賃料の自動増額特約入れていただいても構いませんし、損はさせません!」
って話が来ましてね。
そいつによれば、確かにビル建てるのにお金は必要だけど、全部借り入れで賄えるし、3年ごとに10%賃料上がるし、不動産屋は15年間解約せずに借り続けてくれるっていうし、その15年で間違いなく借金返済に十分で後はお金が入ってくるだけだし、全くもって問題ないと思うんだよね。
これは身銭切って
「位置についてよーいドミニカ!」
かなぁって思うんだけど、俺、意外に保守的だからさ、リスクの確認に来たってわけ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:サブリースとは
本設例で牛田氏がゴリラ不動産から提案を受けているのは、いわゆる
「サブリース」方式
と呼ばれるものです。
法的には要するに単なる
「転貸」(日常用語にすれば「又貸し」)
なのですが、
「所有権者(オーナー)が業者に建物全体を賃貸し(賃貸①)、その業者が、建物の運営・管理を一気に引受けた上で、さらに、各区画を賃借人に又貸しする(賃貸②)」
という2段階の賃貸借契約を想定して行われる1つの事業です。
オーナーとしては、余っている土地の合理的な活用方法を業者に任せられるし、各区画を実際に使用する賃借人との個別の対応に追われなくてもいいし、たとえ空き室があっても業者が賃料保証してくれているようなものだし、ということでメリットばかりのようにも思えます。
ただし、管理・運営を全部業者に任せる以上、どのような者が区画を利用するのかの選択権はありませんし、オーナーが建設すべきビルについても、細かな設計・仕様などすべてに、業者の意思が反映されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:賃料減額請求の可能性
一番の問題は、
「一定額の賃料を長年にわたって確定的にもらい続ける保証がない」
ということです。
本件では、不動産屋から、
「定期的に賃料を自動で増額させていただきますから」
などという甘言が用いられ、あたかも長期の賃料保証がなされているようにも思えます。
しかし、たとえ、このような定めがあったとしても、一定期間後に賃料が減額される可能性を否定することはできません。
すなわち、賃料については、不動産の価値が周辺環境、景気、不動産市況等によって影響されやすいものであることから、借地借家法により、借り主には賃料減額請求なる権利が認められています。
借地借家法というと、
「“個人”の借り主を保護する趣旨で制定されたものであり、借主が“事業者”であるときは無関係だろう」
などと即断する方もいらっしゃるかもしれませんが、事業者であっても同法の保護を受けます。
上記サブリースという仕組みからすると、
「2段階の賃貸借を包含する1つの事業性の強いプロジェクトであることから、個別に1つの賃貸借関係だけを抜き出して借地借家法を適用するのは不合理だ」
という有力な学説もかつては存在しておりました。
しかし、最高裁は、
「借主が事業者で、しかも、賃料自動増額の定めがあったとしても、同法に基づいて賃料減額請求をすることができる」
旨判示し、サブリース業者が約束を違えて賃料の減額をできる(逆にいえばオーナーは賃料収入の一部を失う)、との法理が確立したのです(最高裁2003年10月21日判決)。

モデル助言: 
危険ですね。
事業性の検討を自ら行うこともなく、不動産業者に任せっきりで
「サブリース事業がうまくいくはず」
なんて期待しているようでは。
牛田さんは、不動産業者が一定額の賃料を長年にわたって支払ってくれるなんて甘く考えているようですが、上記のように減額請求の可能性も十分あり、また、ビル建設のための大きな債務を自分で負うことも考えると、相当慎重に検討する必要があります。
もちろん、土地を寝かしておいておくだけでは、固定資産税等の負担しか生じず、何か利用法を考えなくてはいけないということも分かります。
ですが、
「土地を提供し、自らビルを建設して、事業者にこれを貸すことで利益を得る」
という行為は、
「サブリース事業に共同して参画する」
ということに他ならず、共同事業者として、真剣に経済的合理性を分析しなければなりません。
ビルだけ建設して、不動産業者が倒産してしまっては元も子もありませんから、不動産業者の体力がどうなっているのか、本件サブリース事業を遂行するにあたって、どのようなテナントからどれほどの歩率を取るのか、これからの不動産市況をどう考えているのかなど、逐一、精査すべきですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00194_企業法務ケーススタディ(No.0149):ABLを活用して、融資を引っ張れ!

相談者プロフィール:
ヘルメス電工株式会社 代表取締役 谷中ミキ(たになか みき、36歳)

相談内容: 
先生、ご無沙汰しております。
当社は、マイナスイオン効果を発する特殊な小型装置を開発しているのですが、最近、この技術を利用して
「サラサラ黒髪ヘアー」
をキープできるドライヤーを商品化するための研究・開発を進めていて、社長である私自身がCMに出演したりして先行して営業活動も始めていたのです。
その成果もあって、やっと試作品が完成して、あとは量産品の製造を開始するだけというところまできました。
それに、お陰さまで、家電量販店から捌き切れないくらい多くの発注もいただくことができたのです。
でも、ちょっと困ったことがありまして、実は、新商品を製造するには、どうしてもレアアースが必要になるのですが、とても高価なものですので、なかなか必要な量を購入することができません。
それで、この前、ノンバンクを経営している叔父に借入の相談に行ったのですが、
「確かに、兄貴には世話にはなったが、ビジネスは別だ。
あんたの会社は担保となるような不動産も持っていないから無理だな。
まぁ、商品の売掛債権ごと譲渡してくれるなら話は別ですけどね」
なんて、鼻であしらわれてしまいました。
でも、取引先に債権譲渡が知られたら、それこそ信用不安が広がってしまいますし、それに、苦労して営業開拓した大手量販店から新規に発注書をもらったばかりで、まだ売掛債権なんて発生していませんわ。
先生、どうしたらいいのでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債権譲渡担保とは
まず、
「譲渡担保」
とは、担保のために、
「目的物」
自体を債権者に譲渡するという制度で、動産などではよく知られております。
次に、
「債権譲渡担保」
とは、債務者がその取引先(第三債務者といいます)に対して持っている売掛債権などを
「目的物」
として譲渡することで、担保権を設定することをいいます。
このような、企業の事業活動の一部である売掛金や在庫などに担保を設定して金融することを、最近ではアセットバックトローン(Asset backed loan、ABLと略されます)といい、不動産資産などをもたない企業や、創業したばかりの企業などに重宝されております。
ところで、取引先に対する売掛債権を譲渡して担保とする場合、複数の取引先に対する売掛債権をまとめて担保としたり、将来、発生する売掛債権を担保としたりすることが多いのですが、債権を譲渡する際、第三債務者に対し債権譲渡したことを対抗するためには(新しい債権者が誰であるかを知らしめるためには)、民法の原則では
「債権を譲渡する者」
が取引先である第三債務者に対し
「債権を譲渡した」
旨の通知を行わなければなりません(債権譲渡の「対抗要件」。民法467条)。
それゆえ、取引先に
「売掛債権を譲渡したこと」
がバレてしまうと、
「売掛債権を借金のカタに出したりしてやがるんだ。この会社、よほどカネに困っているんだな」
と思われ、信用不安が広がってしまう恐れがあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:債権譲渡担保等に関する特例法
設例のように、不動産などの担保の目的物となる資産はないし、かといって、信用不安を引き起こす可能性のある
「売掛債権の譲渡」
もなかなか難しい、といった企業のために、動産・債権譲渡特例法が制定されました。
この法律によれば、法人(個人事業主は不可)が取引先などに対して有する金銭債権などについて、
1 実際の債務者が確定していなくても、また、将来、発生する債権であっても、担保として提供可能であり、
2 民法で要求される「債権譲渡の手続」を踏まなくても、法務局に「登記」を行うことで、債権譲渡の「対抗要件」を具備することができる、
ということを可能にしました。
すなわち、
「将来発生する売掛債権」
といったあいまいな債権であっても、これを質草にカネを引っ張ることができ、かつ、民法の債権譲渡手続きをすっ飛ばすことができるので、取引先に黙ったまま、金融担保として利用できることが可能となったのです。

モデル助言:
技術と夢はあるけど担保物となりそうな不動産等はもっていない、唯一の資産は、将来、発生する
「取引先への売掛債権」
だけど、現実にはまだ発生もしていないし、もちろん、債権譲渡の手続をすれば取引先に信用不安が広がってしまう、といった状況の企業にとってみれば、ABLは検討に値する金融担保スキームですね。
なお、債権譲渡担保の登記制度ですが、通常の登記のように、法務局に対し登記申請書や添付資料を提出するだけでなく、法務省指定のコンピュータープログラムを利用して、当事者や債権の情報等のデータを入力したファイルを作成する必要があります。
対応できる法務局は、現在、東京法務局民事行政部債権登録課に限られています。
東京法務局といっても、九段じゃないですよ。
中野出張所にありますからね。
ま、当事務所がスキーム提案しますが、当事務所が債権者の代理人をするわけにも参りません。
実際の登記は、フットワークの軽い知り合いの司法書士さんを紹介しますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00193_企業法務ケーススタディ(No.0148):契約解除のお作法

相談者プロフィール:
コスメグッズ販売「美容センター」株式会社 代表取締役 田邊 奈緒美(たなべ なおみ、24歳)

相談内容: 
ちょっと、聞いてくださいよ、先生。
実は、あたしのように美しくスタイル抜群な女性になりたいっていう女性のために、ウチの会社名
「美容センター」
を縮めた
「美容セ(びようせ)」
って名前の美顔器の販売を始めたんです。
でも、あまりに安直なネーミングがウケなかったのか、結果は惨敗。
残ったのは、大量の商品在庫。
で、先生、この前、やっとのことで、株式会社キャライヤ・マリーってコスメショップが、売れ残りの美顔器を50台全部買ってくれたんで、昨日、納入するために、約束の日時に、納品場所のコスメショップまで行ったんですよ。
そしたらコスメショップは閉まってて、中も暗いし、挙げ句、
「しばらく、休みます。必ず営業再開します」
なんてふざけた張り紙が貼ってあったんです。
なんだか夜逃げしたみたいな感じもするんですよね。
ホント最悪よ。
ってことで、商品を持って帰ってきたんです。
途方に暮れていたところ、先週買取りを断った大手家電量販店の営業部長から電話がかかってきて
「定価の3割で買ってやる」
っていう話になったわけ。
そしたら、今度は、信用金庫のOBで、ウチの監査役の堅物のオッサンが、
「これって、前のところとちゃんと契約解除とかしてるの?
後々、揉めるよ」
とかって厭味言い出すんです。
口ばっかで何もしないくせに、まったく。
でも、コスメショップのほうもなんだかやる気なさそうだし、先生、量販店に売っても問題ないわよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:履行の提供と受領遅滞
売買契約において商品の受取日時や場所が指定された場合であっても、単に
「指定された場所」
に商品を置いてきただけでは、売り主としての義務を果たしたことにはならず、きちんと売買契約の買い主に受け取らせる、という行為が必要です。
もっとも、受け取る、受け取らないは買い主の責任であるにもかかわらず、
「売り主が、いつまでも商品を約束どおりの日時に提供する義務から免れられない」
というのでは、それはそれで売り主にとって酷な話です。
そこで、売買契約の対象物を約束の場所まで持参して、後は、買い主の
「受領」
という行為だけがあればよいだけ、という状態をつくれば売主はその後の責任(履行遅滞等)を負わないこととされました(民法第413条、492条)。
なお、このような買い主側の
「受領遅滞」
という状況が生じれば、売り主は買い主に対し、それ以降、発生した商品の保管費用を請求することもできます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:行方不明者との契約解除の方法
ところで、約束の日時に商品を提供する義務からは免れられても、商品自体を納品する義務から免れることにはなりません。
そこで、このような売り主が商品を納品する義務からも免れるためには、契約自体を解除しなければなりません。
もっとも、裁判例の傾向としては、
「買い主側が受領遅滞した」
こと“のみ”を理由とする契約の解除は、原則として(特段の事情がない限り)認めてくれません。
そうなると、
「商品受領をほったらかしたまんま、休んでいるんだか、夜逃げしたんだか、分からない状況にある本件のキャライヤ・マリー社のようないい加減な買主」
相手に、代金の支払を催告し、代金の支払がないかどうか確認し、その上で、代金不払いという債務不履行を理由として、契約解除通知を行う、といった面倒くさい段取りを踏む必要が生じます。
もちろん、キャライヤ・マリー社がそのまま消息不明になってくれればいいのですが、量販店に売却してしまった後、同社社長が、ひょっこり戻ってきて、
「あの時の美顔機50台、早く持ってきて」などといわれると、今度は、こちら債務不履行に問われることになりかねません。

モデル助言: 
まぁ、七面倒くさいといわれればしょうがないですが、原則として、きっちり解除しておいた方がいいですね。
ところで、
「解除」
のような
「意思表示」
は、契約の相手方に到達しない限り効力がありませんので、本ケースのように相手方が行方不明などの場合、解除通知が不可能な事態に陥ります。
この場合、民法98条の
「表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる」
という規定にしたがって、
「解除の意思表示」

「公示する」
ことになります。
それと、御社の場合、今回の売買は商取引として行っているわけですから、商法524条も検討してみるべきですね。
同条の適用により、商人間では、買い主が商品の受領を拒み、または受領できないときは、その商品を供託するか、相当の期間を定めて催告した後、その商品を競売できますね。
ま、こういう法律の規定を洗いだしつつ、それぞれのメリット、デメリット、効果などをよく考えながら、少し詳細に状況をお伺いした上で、現実的な対応方法を考えてみましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00192_企業法務ケーススタディ(No.0147):従業員の身だしなみを取り締まれ!

相談者プロフィール:
ゴールデンリーブス株式会社 代表取締役 萩木 欽二(おぎき きんじ、65歳) 

相談内容: 
ちょっとちょっと、先生、聞いてヨォ~。
僕、困っちゃってんだよ。
僕の介護福祉サービス事業、ようやく軌道に乗ってさ、最近は、ウチの野球チームも人気出てるし、地域密着型の企業として地元の人に頼りにされてるんだから。
それなのにさ、最近の若者ってのはダメだねぇ!
働くってことがまるでわかってない。
客の送迎車の運転手として使ってる杉山ってのがいるんだけどさ、こいつの身なりがひどいんだよ。
うちには、
「身だしなみ規程」
があるんだけど、当然、従業員は制服かスーツ着用。
髪型だって、清潔感がなきゃいけない。
サービス業なんだからさ、当たり前だよね。
それなのに、杉山はいっつもデニムのノースリーブに短パンでさ、髪型に至ってはテカテカのオールバック!
「ワイルドだろ~」
って、どこまでやるの。
それがポリシーだってんだから、たまんないよね。
何度も指導してんだけど、一向に従わないから、僕も腹に据えかねてさ、杉山にさ、人事評価で低い評価つけてやるって通告してやったの。
ここまできたらドンとやってやるよ!
そしたら杉山のやつ、
「そんなことしたら人事権の濫用だぜぇ~訴えてやるぜぇ、ワイルドだろ~?」
とか言い出して、損害賠償請求までするとかいって脅してくるんだよ!
なんでそーなるのっ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:身だしなみの規制は“人権問題”
人は、犯罪など公の秩序に反することなどがない限り、基本的に何をしようとも自由です。
このことは、憲法上も
「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲法13条)
とされており、
「服装や髪型を選択・決定する自由」
も同条に基づき憲法上の権利として保障されています(幸福追求権)。
そして、この憲法上の権利保障の規定は、企業と従業員の間においても法的効力を働かせます(私人間効力)。
すなわち、企業の従業員に対する身だしなみの規制は
「人権問題」
としてとらえられるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:従業員の幸福追求権を制約することができるか
ところで、労働者は就業時間中、労働契約上の義務として企業の指揮監督下に置かれます。
そして、企業としては事業を円滑に進めるため、従業員に身だしなみを整えることを求めます。
すなわち、接客業など顧客からいかに高感度を得られるかが重要な業務に関しては、人柄の柔らかさや見た目も大切になりますし、清潔さが要求される料理店や美容院では長爪のまま接客させることはできません。
前述の、憲法上の幸福追求権といえども、合理的な制約は許されます。
設例のような
「身だしなみ規定」
の有効性をめぐって裁判沙汰となった事例があります。
郵便局で内勤業務を行う従業員が髭を蓄えていたことを嫌悪し、使用者が低い人事評価しか与えず、従業員が人権侵害として損害賠償を求めた事例で、
「髪型やひげに関する服務中の規律は、勤務関係または労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであることから、そのような服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められるというべき」
と一定の場合に有効と解釈する一方で、当該事例では接客の程度等を考慮することなく一律に髭を禁止していた点を
「過度な制約である」
と判断し、結局、慰謝料として30万円を支払うよう命じました(神戸地判2010年3月26日)。
要するに
「身だしなみ規定」
によって一定程度制約するにしても、幸福追求権が憲法上の権利である以上、それを制約する場合には、制約の必要性について具体的な場面を想定しながら、慎重に定める必要があるというのが判例の立場です。

モデル助言:
確かに御社はサービス業ですから
「身だしなみ規定」
を定める必要性は一定程度ありますね。
前述の裁判例は、制約の合理性に関して、例えば、
「利用者は、郵便窓口では、通常の礼儀正しい応対を受けることを期待しているものとはいえ、職員が特別に身なりを整えて応対をすることまでは予定していない」
としておりますが、要するに
「顧客の意見をも考慮しながら、業務を遂行する上で必須の制約かどうかを吟味せよ」
と相当細かい利益衡量を求めています。
じゃあ、放置するしかないのかですって?
そういうわけではありません。
この裁判例は、顧客の不快感の抱き方を重視しているようですが、それ以外にも、従業員の規律維持の観点等、企業にとって制約すべき必要性は高いと思われますから、実務感覚とは大きなズレがありますね。
まぁ、憲法上の価値を尊重したい裁判所の姿勢も分かりますから、ここは、身だしなみを改めるよう業務命令を行い、それでも従わない場合に顧客と接する機会のない内勤としましょうか。
それでもなお改まらないようなら、職種の変更に伴い給与を減らすとか退職勧奨を続けて、辞めさせる方向で対処していくことになりますかねぇ。 

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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