00160_企業法務ケーススタディ(No.0115):うっかりインサイダーに気をつけろ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ヒゲツルツルプロジェクト 代表取締役 宮朔 博幸(みやさく ひろゆき、40歳)

相談内容: 
わが社が開発した
「ヒゲが永久脱毛される石鹸」、
爆発的人気で、笑いが止まりませんわ。
新興市場に上場したものの、その後鳴かず飛ばずで、株主の皆さんにはエライ心配かけましたが、もうこれからはイケイケで突っ走りますわ。
で、昨日、経営戦略会議を開きました。
名前は大層ですが、ゆうてみたら、ワンマン経営者である私が仕切っているもので、わが社の実質的な意思決定機関ですわ。
そこで、6月の定時総会で決定する株主への配当を、株主の皆さんへの恩返しとわが社の知名度向上を狙って、ドーンと50%増しの増配をするぞ、ということを決めました。
社外取締役に、大阪に住んどる大学の教授と、軽井沢に引っ込んで庭いじりやっとる銀行OBのおっさんがおって、こういうややこしい連中呼ばなあかん関係で、正式な取締役会決議は2週間後になってしまうんですが、ま、これがシャンシャンで終わったら、すぐに増配を公表するつもりです。
それと、手元資金も相当厚くなっており、株価低迷状況ということもありますので、財務部の連中には、併せて自社株買いの準備をさせております。
証券会社の連中は、
「インサイダーの問題があるから、自社株買するんやったら、投資一任方式でやった方がええ」
とかいうんですが、こんなもん、完璧手数料ボりよるだけでしょ。
財務部長には
「適当に安いとこで市価で拾とけ」
と指示しておきました。
ま、そんなんで、わが社はバラ色ですわ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:インサイダー取引規制の趣旨
金融商品取引法(以下、金商法)は、ある会社の株価の評価に重要な影響を与える重要事実については、その重要事実が金商法に従った方法で公表された後でなければ、その会社の関係者(インサイダー)は、その株式の売買ができないと定めています。
この規制の理由ですが、
「財の効率的な配分の実現にあたっては、市場に参加する者全員が正確な情報を知っている状態が前提となるが、インサイダー取引はこの前提を破壊し、市場の機能不全を招くので、健全な資本市場を守るため、規制が必要だ」
等といわれます。
わかりやすくいうと、
「特定の内部情報を利用した者による抜け駆け的なズルの投資を容認すると、内部情報を持たない一般の投資家は、そんな歪んだマーケットに誰もあほらしくて参加しなくなり、結果、市場が機能しなくなり、みんなが迷惑する」
というわけです。
ところで、インサイダー取引というと、
「金儲けに異常に執着する犯罪的人格の所有者が暗い情熱と周到な計画の下に犯罪を実現する」
というイメージがあるかもしれません。
しかしながら、会社において
「重要事実が発生した」
との自覚がないため、連携不足のまま、財務部門がせっせと自社株の購入を行ってしまい、結果、インサイダー取引規制に違反してお叱りを受けるような事例も存在します(うっかりインサイダー取引)。
こういうチョンボを防ぐには、会社内部の重要事実をとっとと公表しておけばいい、ということがいえます。
すなわちインサイダー取引とは未公表の重要事実を知って取引することですから、重要事実を内部にため込まず、タイムリーに開示しておけば
「ズル」
だの
「抜け駆け」
だのといわれることがなくなる、というわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:重要事実発生時期
金商法166条2項1号では
「業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと」
と規定されているため、ややもすると、
「取締役会で正式に決議した」
時点で重要事項が
「発生」
したと考えがちです。
この点、旧証券取引法に関する判断ですが、最高裁平成11年6月10日判決は、
「業務執行を決定する機関」
とは、法律上所定の決定権限がある機関(取締役会)等に限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りるとの判断をしていますので、注意が必要です。
実際、2007年5月、O(オー)家具が、増配を行う事実の公表前に自社株を購入した事例について、約3千万円あまりの課徴金納付命令が下されましたが、この件では、同社において
「重要事実の発生」

「取締役会における増配決議」
の時点であると誤解していた可能性が指摘されています。

モデル助言: 
御社では、
「社内で正式に決定しても、取締役会決議が未了だから、増配は未定だ」
等と認識しておられる節がありますが、前述の最高裁判例に従えば、取締役会で正式に決議される前であっても、代表取締役社長が、各取締役から実質的な決定を行う権限を与えられているような場合に、社長が
「増配する」
ことを決定した場合には、その時点で、
「増配をする」
という
「重要事実」
が発生したことになり得ます。
増配について社内で内定したのであれば、さっさと正式に取締役会で決議してしまったほうが、社内的にも対応が明確になってやりやすいと思いますよ。
御社の定款では、取締役会は電話会議でもできるのですから、社外取締役に電話口まで引っ張ればすぐに、決議できるわけですから、造作ないでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00159_企業法務ケーススタディ(No.0114):TOBの抜け穴

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
亀山物産株式会社 代表取締役 深山 雅晴(ふかやま まさはる、41歳)

相談内容: 
先生、日本の夜明けはまだまだですが、今年もよろしくお願いします。
さて、わが亀山物産は、社運を懸けて、友人の賀川輝之君が経営している土佐商事から、その子会社の株式を買い取って多角経営に乗り出そうと考えております。
というのも、わが亀山物産は、10年以上前から土佐商事の株式25%を保有しているのですが、土佐商事は、東京証券取引所第1部で株式を公開している海運会社、三友商会の株式を53%保有しているけど、これからは造船業に専念するとのことで、その売却先を探していたところだったのです。
でも、株式公開企業の株式を証券取引所の外で買う場合、TOBとかいうややこしい手続が必要というじゃないですか。
しかも、三友商会は海運業ではトップクラスの企業ですし、外資系の大手同業も狙っているらしく、マゴマゴしていたら先に買収されてしまいます。
ところが、わが亀山物産には、ガツガツとド営業をする連中は多いんですが、こういう細かい手続きに関わる仕事はみんな苦手でして。
何とか、ややこしい手続きなしに、ちゃっちゃと三友商会を買収してしまう方法ってないですか、先生。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株式公開買付け(TOB)とは
近年、アクティビスト・ファンドによる企業買収劇などで注目を集めている株式公開買付けですが、TOBとは、公開買付者が、対象となる企業の株主と証券取引所の外で行う株式の買い付け行為であって、短期間のうちに会社の支配権に影響を及ぼすような量の株式の取得を行う取引をいいます。
公開買付者によって、対象となる株式会社の支配権が移動することから、経営陣やステークホールダーズにとってみれば今後の経営方針に重大な影響を及ぼす行為になります。
また、支配権が移転する結果、公開買付者の事業とのシナジーなどによって対象となる企業の価値が増大することが見込めますので、公開買付者がTOB価格を決めるにあたっては
「コントロールプレミア(通常の企業価値に加えて考慮される経営支配権に対する上乗せ価値)を既存株主に公平に分配するべき」
という考え方が働き、株主にとっては株価の上昇も見込めることになります。
このような観点から、金融商品取引法は、TOB実施に際し、一定の情報を開示するよう義務付けるなどの規制を設け、取引の公正と既存投資家の保護を図ることとしました。
ただし、証券取引所外での株式の買い付け行為のすべてに上記の義務や規制が課せられるというわけではなく、
1 一定数以上の者からの買い付けであって、買い付け後の株式保有割合が5%を超える場合
2 一定数以下の者からの買い付けであっても、買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
3 証券取引所内の株式の買い付けであってもToSTNetなど一定の取引を利用し、買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
4 3カ月以内の短期間に、合計10%を超える株式を急速に所得する場合で、そのうち5%以上が証券取引所外での取引などであって、且つ買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
に限って、いわゆるTOB規制が発動されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:TOBの原則と例外の立て付け
なお、これまで(平成18年改正前)は、原則として、証券取引所外での株式の買い付け行為すべてにTOB規制が課せられ、例外が個別的に列挙されるという立て付けをとっておりました。
すなわち、これまでは列挙された例外に該当しなければTOB規制が適用されるという立て付けでしたが、改正により、TOB規制の対象となる買い付けも正面から個別的に定義し列挙した結果、
1 まずは、列挙事由に該当するかどうかを検討し
2ーア 該当しない場合には、例外を検討するまでもなくTOB規制は課せられない
3ーイ 該当する場合であっても、例外に該当する場合にはTOB規制は課せられない
という順序で検討することになります。

モデル助言: 
亀山物産が、三友商事の株式の53%を保有する土佐商事から当該株式全部を買い付ける場合、先ほどの②に該当しますので、原則として、TOB規制が課せられることになります。
しかしながら、亀山物産は土佐商事の25%の株式を保有していることから、亀山物産にとって土佐商事は、金融商品取引法27条の2第7条1号にいう
「特別関係者」
になります。
この場合、土佐商事からの三友商会株式の買い付けは、TOB規制の例外に該当すると考えることができます(同法27条の2第1項但書。内閣布令3条1項)。
これは、上記のような特別関係者は、亀山物産との関係において三友商会を
「共同所有」
しているとみることができ、既に支配権が確立しているため、TOB規制の目的である取引の公正さや投資家保護を考慮する必要がないからです。
ま、どうやらTOBは必要なさそうですが、念のため、財務局に解釈確認のための電話照会をしておきましょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00158_企業法務ケーススタディ(No.0113):雇い止めの作法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
大蔵物産株式会社 代表取締役 大蔵 智昭(おおくら ともあき、62歳)

相談内容: 
わが社では水晶を扱っております。
いえいえ、占いとかスピリチャル系の怪しいものじゃないですよ!
水晶って奴は礼儀正しくって、電気的な刺激を特定の方法で加えると、正確な振動をしてくれるんです。
クォーツ時計とかでお馴染みですよね?
これが最近の電子機器の必須品なわけで、われわれは大きな半導体メーカーなどに大量に小型の水晶を卸しているのです。
最近のスマートフォンや、iPadの大流行のせいか、売れに売れておりまして、当社でも相次いで設備投資を行い、24時間操業を行っております。
もちろん儲かっておりまして、嬉しい悲鳴というわけなんですが、このように業績拡大中ですので、人員も逐次増やしていかなくてはいけません。
先生はもちろんご存じでしょう。
このような業界の先行きなど誰も予想ができないことを。
今が良くってもこの先どうなるかなんて、誰にもわからんのです。
するとですね、急激に需要が減少した場合の備えについて経営者として考えておかねばなりません。
機械でしたら用がなくなり次第廃棄するなりすれば良いのですが、従業員は到底そうはいきません。
そこで、期限付きの雇用契約をもっと利用していこうと思うのですが、そういう雇用契約にしておけば、期間さえ過ぎれば更新を止めやすいんですよね?
加えてその
「契約期間」
も相当短くしておこうかなんて考えているんですけど大丈夫ですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:期間の定めがある労働契約
新卒などが企業に就職する場合、通常、雇用契約に期限は定められません。
労働契約の終了については、従業員の退職の意思が明確なものの他は、極めて例外的に認められているに過ぎず、
「解雇」
といった手段を企業がとることが困難なことはよく知られています。
対して、雇用契約締結時に契約期間を定めておくものを、
「期間の定めがある労働契約(有期労働契約)」
といいますが、民法上は当該契約期間の満了により終了するのが原則です。
企業としては、従業員が必要である限りは契約を更新しておき、必要がなくなれば更新しなければいいというように、人事管理がタイムリーにできるとも思われます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:雇い止めとは
しかし、従業員からすれば、契約の種類としては
「期間の定めがある労働契約」
であるとしても、これまでもずっと更新されてきていた場合には、
「いちいち更新という手続はあるもののこれからもずっとこの会社で働いていけるのだな」
との期待を抱くことも当然ともいえます。
このようなときに、企業が、人手がいらなくなったとして一方的に有期労働契約の更新を止めてしまうことは、従業員の期待を害する可能性が高く、社会的にも問題になったため、判例上も一定の要件の下で保護されてきました。
この問題は従来
「雇い止め」
と呼ばれ、著名な判例(東芝柳町工場事件)では、有期労働契約を更新し長期間雇用している臨時工の雇い止めについて、期間の定めが一応あったとしても、
「期間満了ごとに契約更新を重ねることは、期間の定めのない契約と実質的に変わりがない」
ため、雇い止めの意思表示は実質的に解雇の意思表示と同じであり、解雇権濫用法理が類推適用されるとしました。
つまり、雇止めをするときには、通常の労働契約における解雇と同様に、厳しい要件を満たさない限り無効とされる可能性があるというわけです。
もちろん、紹介した判例は、その事案について雇い止めが無効であると個別的に判断されたに過ぎず、全ての有期雇用契約について更新しなければならない義務が企業にあるわけではありません。
つまり、当該有期雇用契約の実情がどのようなものか(仕事の内容・性質、更新の回数や更新手続きが形式的かどうか、雇用期間の長さ、企業内での地位、採用時に契約の特殊性について説明を行っていたかなど)に大きく左右されます。

モデル助言: 
有期労働契約を多用していくこと自体はもちろん構いませんが、契約期間が満了したからといっていつでも更新を拒否して人員を削減する自由があるかといえばそうではないことをしっかりと認識しておく必要があります。
将来的に更新を拒否する可能性があるのであれば、有期労働契約を締結する際にその旨の説明をきちんとし、また、実際に問題のある人間については更新を拒否し、条件を見直した上で再契約するなど
「イヤであれば拒否する」
という当然の対応を取っておくことが大切ですし、加えて、更新の際にも逐一スポット契約であるため更新拒否の可能性を告げておく等行うべきです。
そうすることで
「更新してくれて当然」
などという無用な期待を抱かせないようにしましょう。
なお、契約期間を短くすることも考えておられるようですが、
「従業員の犠牲の下、柔軟に人員整理を行いたい」
などという身勝手を法は許しておらず、平成20年3月施行の労働契約法は、不必要に短い契約期間を定めることを禁じていますので、控えられたほうがよろしいでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00157_企業法務ケーススタディ(No.0112):会社に売りつけられた商品をクーリングオフせよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
市川メンテナンス株式会社 代表取締役 市川 蛇男(いちかわ へびお、33歳)

相談内容: 
自動車の販売から修理までをするわが社は、私が継いだ後、規模を拡大中です。
ただ、拡大がちょっと早すぎて、現場に私の指導の目が届きにくいのですよ。
先日も、出入り業者を装った怪しい消火器業者が、
「あざーっす!
御社の消火器に充填してある薬剤の定期交換時期が参りましたー!」
とかいって、ウチにあった消火器を20本ばかり、持っていったんです。
その時、中途採用した総務課長が、確認もしないで、薬剤の交換の契約書にサインまでしちゃった。
しかも、この契約代金ですが、普段使ってる出入業者の倍なんですよ。
こないだその業者が納品に来たんで
「訪問販売なんだから、クーリングオフで解除してやれ」
って気がつき、思いっきりにらみを利かせて、
「知らざあ言って聞かせやしょうッ クーリングオフだぁーッ」
とぶっこいてやったんですよ。
そしたら、消火器業者の野郎、妙に知恵の回る奴で、
「バカいってんじゃねえよ。
クーリングオフなんざあ、か弱い消費者を保護するためのもんなんだよ。
企業に適用されるわけねえだろ」
とか言い返されました。
私も、ものすごい剣幕で正論をいわれたもので、土下座をさせられる始末です。
会社はプロの商売人とみなされ、消費者としての保護を受けられない、ってのは一見理屈が通っていますが、ちょっと釈然としません。
何とか、言い返せないものでしょうかねえ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「消費者」として保護される者
私的自治原則のもとでは、当事者間でどのような契約を締結しても自由なのが原則ですし、当事者は、自分たちの自由意思で締結した以上、その契約に拘束されます。
したがって、一旦契約をした以上、当事者の一方が
「やっぱり、あの契約はナシにするね」
などと、一方的に契約を破棄することは許されないのが大原則です(契約の拘束力)。
しかし、この大原則に例外がないと、情報量や交渉力に勝る者が、劣る者を食い物とする構図が是正されることなく放置されることになるため、消費者を保護するさまざまな法律が制定されています。
これらの法律は、
「情報量や交渉力に劣る者を保護する」
ことを目的としているため、保護される客体としては、
「個人」
が予定されているのが通例であり、
「個人」
であっても、
「営業」
のために契約をしているのであれば、情報量や交渉力も人並み以上にあるだろうとのことで、保護の対象からは外れているのが通例です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特定商取引法の有効射程
ところで、特定商取引に関する法律(特商法)は、訪問販売を規制しており、クーリングオフができる旨記載した書面を受領した日から起算して8日以内であれば、一方的に契約を解除(クーリングオフ)できると定めています。
とはいえ、特商法26条1項1号は、
「営業のために若しくは営業として」
締結した契約については、そもそも訪問販売の規制が及ばず、クーリングオフはできないと定めています。
本件では、個人ではなく法律上
「商人」
とみなされる株式会社が当事者であり、商人の行為は商行為とされることから、今回の契約は
「営業のために若しくは営業として」
締結されたものとも言えそうで、クーリングオフは無理となりそうです。
ところが、大阪高裁平成15年7月30日判決は、本件と同様の事案につき、
「(特商法26条1項1号は、)商行為に該当する販売または役務の提供であっても、申し込みをした者、購入者若しくは役務の提供を受ける者にとって、営業のために若しくは営業として締結するものでない販売又は役務の提供は、除外事由としない趣旨である」
「各種自動車の販売、修理及びそれに付随するサービス等を業とする会社であって、消火器を営業の対象とする会社ではないから、消火器薬剤充填整備等の実施契約が営業のため若しくは営業として締結されたということはできない」
と述べて、消火器薬剤の交換を訪問販売で契約してしまった会社がクーリングオフをすることを認めました。

モデル助言: 
大阪高裁は、
「自動車を売ってる会社は、消火器の売買の営業をしているわけではないから、消火器については詳しくない。
消火器の分野では知識と交渉力において消火器屋にはかなわないから、特商法で保護してやるべきだ」
というロジックを用いて、粋な解決をしてくれたわけです。
今回のケースでは、相手方は、特商法で求められている、クーリングオフができる旨明記された書面の交付もしていないようですから、大阪高裁のロジックを活用すれば、時間制限である
「8日間」
のカウントダウンもされておらず、購入時から何日たとうと、クーリングオフが可能といえますね。
早速、内容証明郵便を出しましょう。
ま、これを攻守逆に見てみると、御社も飛び込み営業をなさっているようですので、今後要注意ですね。
企業間の商取引にクーリングオフが適用されるなんて思ってもみないでしょうから、いきなりクーリングオフとかいわれてもピンとこないかもしれませんが、過激な売り込みについてはご注意ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00156_企業法務ケーススタディ(No.0111):行方不明の株主の取扱い

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
洗浄カメラ・マニュファクチュア株式会社 代表取締役 田部 洋一(たなべ よういち、38歳)

相談内容: 
ウチは、親父の代からカメラ用洗浄スプレーの製造をしておりますが、最近、野外でハードな使い方をするカメラマンの方々から、
「シュッと一吹きすれば、野外の塵や埃といったガンコな汚れも一瞬で取れるような強力な洗浄スプレーがあれば重宝する。
ぜひ開発してほしい」
といわれ、社内で
「戦場カメラマンも使える、カメラ用洗浄スプレー」
という新商品を開発しようというプロジェクトを立ち上げたわけです。
このプロジェクト遂行のために多額の開発資金が必要となったことから、当社は昭和20年の設立以来初めての増資をすることになったわけですが、果たしてこのまま増資を進めていいものかどうか非常に不安なわけです。
というのは、行方不明の株主がいるんです。
ウチが設立された当時は、7人以上の取締役が必要だったようで、親父は、
「取締役全員には、出資もお願いしよう」
と言って、当社には私の親父以外に設立当時取締役をお願いした親父の友人6人が株主名簿に載っているのですが、株主総会の招集通知を出しても
「転居先不明」
などで返送されたりして、もう10年以上も連絡が全くとれなくなってしまった方が4人もいるんですよ。
後から、株主の方や関係者の方がやってきて、
「そんな重要な話は聞いていない。
増資は無効だ」
なんてやられたら、大変です。
というより、この際、株式は整理しておきたいのです。
先生、何かいい方法はないでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主に対する各種の通知
株主は、株式会社における出資者として、株主総会に出席して議決を行う権利など、会社の経営にとって重要な事項を決定する権利(共益権)や、配当請求権など、会社が儲けた経済的利益の分配に与る権利(自益権)を有しております。
とはいえ、株主がこれらの権利を適切に行使するためには、会社から適切な情報と権利行使の機会を与えてもらう必要があります。
そのため、会社法は、株主総会の招集のほか、新たに株式を発行する際(募集株式など)など、一定の重要な事項を実施する場合には、会社に対し、株主に各種通知を行うよう義務付けております。
もっとも、株主に相続が発生した場合や、株主が引越しをしたまま会社に住所の変更を知らせていない場合など、会社にとって、どこに通知をすれば良いのか分からなくなる場合もあります。
そこで、会社法は、各種の通知を発する場合には、株主名簿に記載された株主の住所に宛てて発すれば、通常到達すべきであった時に到達したとみなすこととし、その限度において、会社の義務の範囲を限定することとしました(会社法126条)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:所在不明株主の株式の処分方法
ところで、設例のように、長い年月が経過する間に、株主が所在不明になってしまったりして、株主名簿上の住所に通知が到達しない(通知を発しても「宛て所に尋ねあたらず」で返送されてしまう)場合が出てきます。
このような場合であっても、会社がいつまでも通知を出し続けなければならないとなると事務的にも煩雑ですし、何より、所在不明の株主がいるということ自体、会社運営上健全とはいえません。
そこで、会社法は、
「通知が継続して5年間到達せず、かつ、会社からの剰余金の配当を継続して5年間受領していない株主の株式」
について競売したり(ただし市場価格のない株式については取締役全員の同意と裁判所の許可を得て)、会社で強制的に買取ったりすることができる旨を定めました(会社法197条)。
これにより、会社は、当該所在不明の株主に株式の売却代金を支払うかわりに、以後、株主としての地位を失わしめることができるようになるのです。

モデル助言: 
田部さんの会社の場合、もう10年以上も株主名簿上の株主と連絡がとれていないということですので、その株主が、継続して5年間、剰余金の配当を受け取っていない(そもそも、会社が剰余金の配当を行っていない場合も含まれます)のであれば、前述の方法で当該株主が保有する株式を売却したり、また、会社で買い取るなどし、当該株主の株主としての地位を強制的に消滅させることができます。
ただし、当たり前の話ですが、株式の売却代金は会社がもらえるわけではなく、その旧株主に支払わなければなりません。
とはいえ、そもそも所在不明だから株式を売却したのに、売却代金はその旧株主に払わなければならず、そのために旧株主を見つけなければならないのは面倒といえば面倒ですね。
こういう場合は、債権者(旧株主)の所在が不明であることを理由に、当該売却代金を所轄の法務局に供託することをお薦めします。
あと、ズルイ方法ですが、金銭債権は10年で消滅時効にかかりますので、株式売却代金の支払の提供だけしてホッタラカシにしておき、もう10年間音沙汰がなければ、消滅時効を援用して踏み倒してしまう、なんてことも考えられますね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00155_企業法務ケーススタディ(No.0110):就業規則をイジリたい!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
真砂(マサゴ)デトックス研究所株式会社 社長 真砂 豪男(まさご たけお、38歳)

相談内容: 
先生~、聞いてよ~。
私の会社、こういっちゃなんだけどなかなか順調じゃない!?
そうそう、「真砂(マサゴ)デトックス」、私が開発した、体から脂肪以外の毒素を何でも排出しちゃう、このミラクルな健康食品があれば、私のような美しい肌が得られちゃうのよ。
ま、肌さえ綺麗なら体型なんて二の次っていう真実にみんなようやく気がつきつつあるのね。
とはいえ、ウチの営業使えなくて。
「真砂デトックス」が売れているのも、社長である私一人の営業の成果なのよ。
私が、大手ドラッグストア社長連中に直談判し、お店の棚の一番いいところを使わせてもらえるよう、この押しの強い体型を生かして、強引に丸め込むからバカ売れするわけ。
でね、ウチの会社の営業連中って、薬問屋をリストラされた年寄りの寄せ集めで、御託ばっか並べてロクに使えやしない。
なんとかあいつらの人件費抑えられないかな~と思って、新宿2丁目で知り合った徳光万九郎ってすご腕人事コンサルタントに相談したら、
「55歳以上の給料を一律半分に下げてやればいいのよ。
就業規則いじっちゃえばカンタンよ」
なんて言うわけ。
実際、ロクに仕事しちゃいない連中だし、最悪、出て行ってもらうなら、それはそれで、2丁目でブラブラしている若くてピチピチしている子をリクルートして、いくらでも人員補充できるわけだし、早いとこ、就業規則いじっちゃいたいわけ。
できるわよね!
答えてちょうだい!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:就業規則とは
企業における労働契約は、使用者である会社と従業員間の個別の雇用契約が集合しているものです。
労働契約も契約ですから、本来は、当事者の意思の合致に基づいて、従業員ごとに労働条件等が異なる労働契約が存在することになります。
しかし、使用者たる企業には、数多くの従業員が存在するために、契約内容である労働条件について、画一的に統一して定めたいという要求があります。
このような要請に応えるのが就業規則です。
労働契約法7条は
「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」
と定め、労働者の個別の同意を得なくとも、就業規則を定めることで、多数の従業員に対して、一挙に画一的な労働条件の内容を設定してしまえることになっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:就業規則の変更による一方的な労働条件の変更
したがって、企業は、就業規則を改定することで、従業員に対して一挙に労働条件を変更してしまうことができます。
そして、変更後の労働条件が従前の労働条件よりも労働者にとって不利益なものとなることを、
「不利益変更」
と言いますが、このような不利益変更を、就業規則の変更によって行うことも、一般的に可能とされています。
それでは、労働者にいかに不利な条件に変更する就業規則であっても、常に有効なのでしょうか。
この点に関し、最高裁は秋北バス事件において、
「新たな就業規則の変更によって、既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課すことは原則許されない」
が、
「合理的な内容である限り」
許容されるものと判断しました。
すなわち、就業規則の変更による不利益変更に関しては、最高裁のいう
「合理的な労働条件」
を満たすことを条件として、個別の労働者から同意を得ることなく、賃金の減額等をすることができるというわけです。

モデル助言: 
就業規則の変更によって、高齢者に対する賃金のみの減額を検討する場合、その変更内容の
「合理性」
が厳しく問われるということをまずは理解していただかなくてはなりません。
この点を全く気にしていないすご腕人事コンサルタント徳光万九郎はヤブといわざるを得ないですね。
この
「合理性」
についてですが、最高裁は、第四銀行事件において要件を具体化しています。
すなわち、労働者の被る不利益の程度、使用者側の必要性の内容・程度、代償措置等を総合的に考慮して、合理的な就業規則の変更といえるかどうかを判断すべきとされています(労働契約法10条参照)。
今回は、
「55歳以上の給料を一律半分」
などと労働者に対して大きな不利益を課すものです。
そうしますと、たとえ定年の年齢引き上げ等といった雇用者に対する代償措置を採ったとしても
「合理的」
と判断されることは難しいでしょうね。
というより、これは、あまりに乱暴な措置で、就業規則による不利益変更が許されない典型例ですよ。
どうしても減額をしたいというのであれば、能力給制度を採用し、適切な能力検査の上で、使えないヤツの給与を下げるとか、
「合理的」
な条件と運用をすべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00154_企業法務ケーススタディ(No.0109):「大規模小売業者」ではないから独禁法違反にはならない?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社坪谷酒廊 代表取締役 坪谷 喜士郎(つぼや きしろう、39歳)

相談内容: 
この不況で、むやみに従業員も増やせないし、削れる人件費は削りたいですよね?
そうかといっても、安売りキャンペーンとかでガンガン売っていこうとするときには、売り場の改装やら商品の陳列やらで、兵隊がたくさんいるんですよ。
ウチの商品は飲み物ですから、簡単に募集できるパートのおばちゃんでは、重くてちょっと大変なんですよね。
そこで、ウチでは、
「新潟や山形で地酒を作っている、知名度がイマイチ」
という感じの地味な酒蔵さんにお願いして、チョイと兵隊をタダで貸してもらっているんですよ。
店舗の入り口に、
「まぼろしの地酒コーナー」
なんて感じの売り場を作ってやって、
「売りたければソッチも努力しな。
協力しなかったら調味料売り場に追いやるぞ」
なんて脅せば、健気に頑張ってくれちゃいます。
ところがウチの総務部長が、
「こないだ、ホームセンターがウチと似たようなことやって、公取委からえらい怒られた」
なんて脅かすんです。
でもキチンと調べさせたら、公取委が定めている
「年商100億円以上か、店舗面積が1500平方メートル以上」
の場合に適用されるルールがあり、それに違反した、ということだそうです。
ウチは年商25億にやっと届くかどうかというところですし、店舗もそこまで広くないですから、こんなの無視でいいっすよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:優越的地位の乱用
わが国では、取引社会では、誰とどのような契約をしようが一切自由である、とされています(契約自由の原則)。
これは、市場におけるそれぞれのプレーヤーが己の知力や財力を最大限に活用して、自由に契約交渉を行い、互いに競争させる基盤を確保することが、市場経済の発展には必須と考えられているからです。
しかし、弱肉強食の自由主義原則も度が過ぎると、本来予定していた
「自由な競争によって、経済の発展を図る」
ことができなくなり、ともすれば、
「強いプレーヤーが市場を意のままに操り、かえって自由競争の基盤が破壊される」
状態となってしまいます。
そこで、独占禁止法は、取引上優越的地位にある者が、正常な商慣習に照らして不当な取引をすること等を
「不公正な取引方法」
として禁止しています。
公正取引委員会は、独禁法2条9項6号の規定に基づいて、大規模小売業者が納入業者に対して要求する行為のうち、
「不公正な取引方法」
に該当する行為を告示で定めています。
これによれば、年商100億円以上または1500平方㍍以上(政令指定都市等では3千平方㍍以上)の売場面積の店舗を有する小売業者は
「大規模小売業者」
であり、
「大規模小売業者」
が納入業者に対して、その従業員の派遣をさせることは、原則として
「不公正な取引方法」
にあたるとされています。
これは、
「大規模小売業者」
による優越的地位の乱用を効果的に規制するために、いわばひとつの典型例として示したものであり、
「この告示に該当さえしなければ、小売業者による優越的地位の乱用を自由にやってよい」
ということを明言した趣旨ではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
独禁法2条9項5号は、「大規模小売業者」であるか否かにかかわらず、優越的地位の乱用を禁止しており、公取委は、これにつき
「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
を定めています。
この指針では、
「優越的地位」
にあたるか否かは、
「納入業者にとって当該小売業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すか否か」
について、
「当該小売業者に対する取引依存度、当該小売業者の市場における地位、販売先の変更可能性、商品の需給関係等」
を、総合的に考慮するものとされています。
「優越的地位」
にあると判断され、かつ、その地位を乱用して、従業員の派遣をさせたと判断されれば、それは立派な
「優越的地位の乱用」
として、独禁法上違法となることがあります。

モデル助言: 
たしかに、今年の夏頃にあった、某ホームセンターに対する公取委の排除措置命令は、
「大規模小売業者」
に対する先ほどの告示を根拠としてなされています。
以前新聞を賑わせた、家電量販店の事例などもそうです。
おっしゃるとおり、貴社の場合には、
「大規模小売業者」
の要件には該当しませんから、この告示違反を理由として排除措置命令は受けることはありません。
しかし、
「大規模小売業者」
についての告示にひっかからなくても、貴社が
「優越的地位」
にあるとされて、かつ、貴社が従業員を納入業者に派遣させていることによって
「公正な競争が阻害される恐れがある」
と判断されれば、独禁法第2条9項5号違反となりますから、貴社なら絶対大丈夫というわけにはいきませんよ。
貴社と納入先との間の具体的事情を慎重に検討しないと何ともいえませんが、昨年の独禁法改正によって、こうした優越的地位乱用の取引について、排除措置命令だけでなく、課徴金納付命令まで食らっちゃう可能性も出てきましたから、思わぬところで足を救われないよう、詳しく調べる必要がありますね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00153_企業法務ケーススタディ(No.0108):会社の定款を紛失してしまった!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
カミナリ製菓株式会社 代表取締役会長 武右 貴樹(ぶう たかき、77歳)

相談内容: 
先生、ウチの会社って、もともと、兄貴の故・長介と一緒に立ち上げ、浅草寺のそばで細々とアラレやせんべいを作ってきた小さなお菓子屋だったんです。
でも、ここ数年、
「カミナリ様せんべい」
っていう商品が大ヒットしまして、売り上げもうなぎ上りで、銀行もたくさんお金を貸してくれるし、よくわからない横文字のファンドって連中もどんどん出資してくれるし、女房も機嫌がいいし、いいことばっかり続いているんです。
そこで、創業50周年を記念して、わがカミナリ製菓株式会社も、3年後の株式公開を目指して頑張っていこう、ってことになったんです。
で、さっそく、ウチの仲本税理士に紹介してもらった支村証券会社の人や一緒に付いてきたよくわかんないコンサルタントの方にお願いして、株式公開に向けた準備は始めたのですが、そしたら、いきなり蹴つまずいてしまいました。
というのも、ウチの会社の定款が見当たらないんです。
もともと、先代だった兄貴の長介自身、だらしのない人間で、会社の書類なんて全然整理していなかったから、いくら探しても定款がないんですよ。
これには、コンサルタントや証券会社の人もあきれ果てて、
「こんなに内部統制がずさんで、書類の管理もできないような会社じゃ、株式公開なんて絶対無理です。いちから出直してきてください」
っていうんですよ。
確かに、会社の憲法っていわれるくらいの定款ですから大事なのは分かりますけど、なくしちゃったら最後、二度と株式公開できないんじゃ、死んだ兄貴にも申し訳ないです。
何とかしてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社法施行により重要性が高められた会社の憲法
株式公開企業や資本金5億円以上の大企業ならまだしも、これまで、多くの中小企業にとってみれば、会社の定款の管理をしたり、内容の確認をしたりするといった必要性はなかったかもしれません。
しかしながら、2017年に会社法が施行され、所定の手続を経て定款に定めることで利用できる新しい制度等が増えたこともあって、昨今、その重要性が再認識されております(定款自治の拡大)。
例えば、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経て
「取締役会を設置しない」
旨を定款に記載することで、それまで義務付けられていた取締役会を設置しなくてもよくなりましたし、また、株主総会の特別決議を経て
「役員の会社に対する損害賠償責任の範囲を、報酬の4倍以内とする」
といった内容の責任制限規定を定款に記載することで、株主代表訴訟が提起された場合の役員の責任の範囲を限定することもできるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:紛失の場合の手続き
もっとも、このような会社法上の便利な制度等を利用するためには、そもそも定款がなければ始まりません。
しかしながら、中小企業の場合、さまざまな理由で定款自体を紛失してしまっているケースが少なからず見受けられます。
定款を紛失した場合、まず、会社設立後、5年以内であれば、法務局に会社の設立登記申請書類一式と定款の写しが保存されています(商業登記規則34条)ので、法務局で閲覧することができます。
次に、会社設立後、20年以内であれば、会社設立時に定款認証手続きを行った公証役場に定款が保存されています(公証人法施行規則27条)ので、当該公証役場で定款謄本の交付を受けることができます。
もっとも、会社の文書管理は内部統制の前提ともいうべき基本課題であり、定款のような重要な文書すら紛失してしまう会社については文書管理体制を徹底的に直しておく必要があります。
経営トップが
「文書管理の重要性」
すなわち
「文書の保管・運用コストを掛けても解決すべき課題である」
ということを認識した上で、文書を種類ごとに選別し、重要度合いごとに適切な保管方法を選択するなどして立体的な管理方法を確立する必要があります。

モデル助言: 
カミナリ製菓株式会社さんの場合、創業50周年ということですので、公証役場で定款を保管する期間が切れてしまっています。
会社設立後、20年以上が経過してしまっている場合は、先ほど申し上げたような方法が使えず、少しやっかいです。
御社のようなどうしようもない場合、法務局で会社設立後に変更されたすべての登記内容も含めた登記簿謄本(登記事項証明書)を発行してもらい、設立時の株主総会議事録がある場合には、これらを参考に定款を復元する作業を行うことになります。
また、設立時の株主総会議事録すらない場合には、まず、登記事項証明書を参考に定款を再製し、株主総会の特別決議をもって、当該再製した定款の承認を受けるという形で定款扱いするという裏技を使うことになりますね。
定款すら紛失してしまっている御社のことですから、どうせ、株主総会議事録なんかもろくに作成していないでしょうし、まずは、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を確認するところからやってみましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00152_企業法務ケーススタディ(No.0107):整理解雇のお作法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
特命パートナーズ 社長 杉下 左奇男(すぎした さきお、58歳)

相談内容: 
先生、ひとつよろしいですか?
最近の不景気について、先生はどのように分析しておられますか。
私は、調査分析を経た結果、この不景気をひとつの好機と捉え、
「不景気を理由として人員削減を進めたほうが良い」
という結論に達しました。
わが社では、若手はよく働いてくれます。
現場にも始終出ますし、何より熱心です。
一方、中間管理職の連中は
「穀潰し(ごくつぶし)」
といわざるを得ません。
彼らは、働きが悪いばかりか、私の指示にも盾突く始末。
この間などは、私が、
「長嶋茂雄を崇拝する、“大”の付く巨人ファン」
であることを知りながら、暑気払いの終わりに、タイガースファンの亀山課長が筆頭となって、六甲おろしを皆で合唱する、なんてことをしましてね。
このことからも、私への敬意を欠いていることが明らかであるといえましょう。
さて、先生、私は、前から、こういう使えない輩を一掃してリストラを進めたいと考えているわけですが、不景気は渡りに船。
同業他社はどこもリストラしており、業界ではプチリストラブームです。
私もブームに乗って、
「業界全体どこも大変で、もうリストラもやむを得ないから」
という空気感を作って、ダメな連中をクビにしたいのです。
新聞でも
「不況下ではリストラ解雇は認められる」
と書いてましたし、解雇は問題なくできますよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:整理解雇
会社が人を雇うという行為は結婚に、解雇は離婚に例えることができます。
すなわち、
「結婚は自由だが離婚は不自由」
と言われるように、採用は非常にイージーにできますが、離婚(解雇)は大問題になります。
例えば、裁判離婚(強制離婚とも呼ばれます)では、裁判所が相当と認めない限り離婚が認められることはありませんし、解雇についても、従業員側に相当な非違事由がない限り、裁判所は、解雇をほとんど認めてくれないのが現状です。
もっとも会社が存続しなくては雇用関係も意味がなくなってしまいます。
そこで、会社がつぶれそうな場合には、従業員側に非違行為がなくても、次の要件を満たすことで特別の解雇(整理解雇)が認められています。
すなわち、
1 人員削減の必要性
2 解雇回避努力義務の履行
3 人選の合理性
という整理解雇理由の要件と
4 解雇するに際して説明・協議等をしたか
という手続要件の計4要件です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:4要件の検討
整理解雇の各要件について詳しくみていきます。
まず、
1 人員削減の必要性について
は、人件費削減の必要性や業績悪化などという抽象的な理由では足りません。
もっとも、裁判所が、人員削減の必要性の有無について検討する際、使用者の経営判断(裁量)が尊重される傾向にあるため、人員削減の必要性がないことが明白な場合を除き、当該要件自体は認められることが通常です。
次に
2 解雇回避努力義務
については、新規募集の停止、ボーナスのカット、希望退職者の募集などの手段を尽くす必要があります。
このような努力義務を尽くすことなくいきなり整理解雇という強硬な手段に出た場合には、解雇権の乱用と判断されてしまいますから十分な留意が必要です。
さらに、
3 の人選基準
については、人員削減基準が客観的かつ合理的である必要があります。
整理解雇は、決して恣意的な解雇を認めているわけではありませんから、後日の訴訟をも見越して、客観的な基準を整備しておくべきでしょう。
最後に
4として、十分な手続・手順を踏むことも求められます。

モデル助言: 
御社がどれほど経営危機に陥っているかという点は別途調査するとしても、2の解雇回避努力義務と3の人選基準は問題になりそうですね。
話を聞いていますと希望退職者の募集も行っていないようで、
「社長の主観面においてキライな中間管理職を一斉に解雇したいだけ」
という印象を受けます。
このような場合には、整理解雇の要件の充足はキビしいと思われます。
「デキナイ」
人間について、クビにしたいのであれば、単純に普通解雇ができるかどうかを個別に検討すべきです。
無論、
「解雇権の濫用」
などといわれないように、いかに
「デキナイ」
人間かを慎重に調査・裏付けすることは必須の前提です。
もちろん、従業員が自分の意思で辞めていただく場合には、理由など問われませんから、まずは、事実上の退職勧奨を行い、従業員から辞表を出していただくことを行うべきですね。
手間は掛かりますが、世間でいわれている
「リストラ」
とは通常はこの手法を意味します。
とにかくあせりは禁物です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00151_企業法務ケーススタディ(No.0106):敷金差し押さえを理由に大家から立ち退きを要求された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社猿吉コンサルティング 代表取締役 猿吉 弘樹(さるよし ひろき、36歳)

相談内容: 
低空飛行の弊社にも回復の兆しが見えて、再来月には大口の入金予定があるのですが。
金融屋に借りた借金の返済ができずにいたら、いつのまにか公正証書を作られていて、ウチの会社のビルの大家に預けてる敷金について、差し押さえを受けてしまいました。
公正証書って、裁判もなしに差押えられてしまうんですね。
ほんとびっくりですよ。
差し押さえ通知が大家の哀川不動産のところに行ったのか、昨日、哀川会長がウチの会社に怒鳴り込んできました。
「オマエ、敷金まで差し押さえられたぞ、そんな会社、ウチのビルにふさわしくねえな。
いいか、ウチとアンタんとことの賃貸借契約書、良く見てみやがれ。
『店子が差し押さえを受けた場合には、ウチは催告なしに本契約を解除できる』て書いてあるだろ?
明日にでも店を閉めてくれるよな。
待ってくれ?
だったら、今後のウチの迷惑も考えて、迷惑料として200万円を払ってもらおうか。
アンタんとこの会社のハンコついた契約書もある以上、ガタガタ言うなら、すぐ出てってもらうよ。
カネがないなら、いい金融屋紹介するぞ」
なんて言われました。
これからウチの会社で商談予定がたくさんあります。
ほんの2カ月も持ちこたえれば順調に立ち直れるんです。
今追い出されたら、困ります。
哀川会長の要求どおり、迷惑料を払ったほうがいいんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約自由の原則とその修正
そもそも、わが国においては、私人間でどのような約束をしても、原則自由であり、法的効力が認められます。
これは、旧来の封建的な制約をなくして、自由な経済活動をできるだけ拡大することが、競争による経済の発展を目指すわが国の国是にかなうと判断されたことによります。
ところが、契約を全く当事者の自由に任せてしまうと、強者による弱者の恒常的支配が生じ、このような歪な経済環境を放置すると、社会不安を生じ、かえって経済の発展を阻害しかねない、ということが認識されるようになりました。
こうして、私人間の契約原理にも社会政策目的が反映されるようになり、特定の契約関係に関し、契約自由の原則が大幅に修正されるようになりました。
その大きな例として挙げられるのが、本事例でも問題となっている借地借家契約です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:信頼関係破壊の法理
店子に債務不履行があった場合、大家からの解除によって賃貸借契約は終了するはずです。
しかし、些細な債務不履行で即時契約が解除されるとなると、店子は簡単に住居や営業拠点を失い、店子の経済活動が著しく制限されてしまいます。
このような背景のもと、1964年に
「相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意が賃借人にあると断定できないから、賃貸人による解除権の行使は信義則に反し、許さない」
との最高裁判例が下され、以来、大家からの自由な解除を制限する理屈として
「信頼関係破壊の法理」
なる判例法が確立しました。
すなわち、
「信頼関係を破壊しない程度の契約違反くらい大目にみてやんなさい」
などと、
「約束したことは守るべし」
という単純かつ明快な契約の本質が、大家にとってこの上なく迷惑な形で、大幅修正されるに至ったのです。
設例と類似のケースとして、店子が銀行取引停止処分を受け、さらに税金の滞納処分として差し押さえを受けたものの、店子が破産宣告を受けることなく営業を継続して賃料支払に不履行がなかったが、大家が賃貸借契約を解除した、という事件がありました。
この事件について、東京地裁平成4年12月9日判決は、
「賃貸借契約を継続しがたい事実関係が発生したとは言えない」
として、銀行取引停止処分と差し押さえを理由とする大家からの賃貸借契約解除を認めませんでした。
すなわち、東京地裁は、
「賃料の支払はしているわけだから、敷金にちょいとツバを付けられたくらいで、ガタガタ騒ぎなさんな」
と考え、
「この程度では信頼関係は破壊されていない」
という評価をしたわけです。

モデル助言: 
確かに契約書には
「差押えを受けた場合には催告なくして大家が解除できる」
とは書いてありますが、賃貸借契約においては
「信頼関係破壊法理」
が判例上確立しており、店子の法的地位は非常に強化されています。
大家としては、差押えを受けた店子は賃料を滞納するんじゃないかと心配なのでしょうが、毎月きちんと賃料が支払われていれば十分なのですから、差し押さえを受けたというだけで信頼関係が破壊されたとはいいにくいでしょう。
とはいえ、賃料の滞納を続けると信頼関係が破壊されるとされていますので、賃料は今後もきちんと払ってください。
現在、契約違反状態が続いていることには変わりありませんし、他の些細な契約条項に違反したことをもって、
「差し押さえの事実と『合わせ技一本』で、信頼関係破壊成立。
ゆえに解除有効」
などと評価されることもありますので、十分気をつけてください。
大家の哀川さんからの
「迷惑料払え」
なんて冗談もいいところです。
完全に無視していいですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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