00087_企業法務ケーススタディ(No.0041):並行輸入品の修理を拒否したい!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社マッサル・バイク 社長 浜田 勝(はまだ まさる、35歳)

相談内容: 
当社が長期間かけてイタリア製レース自転車
「ハマ・グッチ」
の日本総販売代理店の権利を獲得し、5年前からディーラー網を整備してきたことは先生もご存じのことと思います。
ところが、昨年から、
「ハマ・グッチ」
の並行輸入品が出回るようになりました。
現在のところ、先生のご指導を受けて、当社が許諾を受けている
「ハマ・グッチ」
のロゴをネット上で勝手に使用している並行輸入業者に対して片っ端から内容証明郵便による通知書を送り付け圧力をかけています。
ま、こちらはこちらで効果が出ているようで、ネット上での大々的な並行輸入品販売は少なくなりました。
ところで、今、頭を悩ましているのは、並行輸入品の修理依頼なんです。
「ハマ・グッチ」自転車は、特殊な部品を使っていて、修理の際には、これら特注の部品を使用する必要があるのです。
無論、当社は、正規ディーラーとして、正規品を購入したお客様からの修理に対応すべく、全部品について常に一定量の在庫を持っています。
しかし、ウチとしては、
「並行輸入品を買った客の面倒まで見る必要なし」
という態度を貫いており、ユーザー登録していただいている正規販売品ユーザー以外の方からの持ち込み修理依頼は一切お断りしています。
そうしたところ、恐らく並行輸入業者が、裏で動いている嫌がらせだと思うのですが、昨年修理をお断りした並行輸入品ユーザーの方から、
「並行輸入品の修理拒否は、独占禁止法違反だ」
という内容証明郵便による通知を出してきたんです。
一体、何なんですか、これは。
こんな理屈がまかり通るんですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公正取引委員会は並行輸入をどうとらえているか
海外商品を輸入・販売する場合、一般的には、メーカーの現地法人や、メーカーと正規の販売契約を結んだ代理店によって、輸入・販売されます。
しかし、商品の内外価格差が大きい場合、本ケースのように他の業者や個人輸入代行等が海外から商品を直接輸入し販売するという方法が取られることがあります。
これは、複数の輸入ルートが並行することから、並行輸入といわれます。
並行輸入品は、その安い価格の代償として、返品や購入後のメンテナンスなど、アフターケアが不十分な場合があることはよく知られていますし、並行輸入品を買っておいて、正規代理店に持ち込んで修理を依頼しようなんて、随分図太い話です。
しかしながら、公正取引委員会としては、
「並行輸入品は価格競争を促進させる効果を有する」
との思想を有しており、その意味では並行輸入を保護するスタンスを取っております。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:並行輸入品のメンテナンス拒否
公正取引委員会としては、並行輸入を保護する観点から、
「並行輸入品を排除しようとする正規代理店」
サイドを厳しく取締まろうとしております。
そして、そのひとつの表れとして、公正取引委員会は
「正規代理店が並行輸入品をメンテナンス拒否など差別的に取り扱う場合、独占禁止法上違法となり得る」
などとしています。
すなわち、公正取引委員会が作成する流通取引慣行ガイドラインには、
「総代理店以外の者では並行輸入品の修理が著しく困難である場合において、正規品でないことのみを理由として修理拒否することは、正規品の価格維持のために行われている不公正な取引であり、一般指定15条に定める競争者に対する取引妨害として、違法」
であるという趣旨のことが書かれています(第3部第3―2(6))。
浜田さんのような正規ディーラーにとっては噴飯ものの話ですが、内容証明を出してきた並行輸入品ユーザーの言い分は、公正取引委員会の示す独禁法運用に則ったものであり、十分な法的根拠があるということになります。

モデル助言: 
公正取引委員会は、並行輸入業者や少しでも安く買いたい消費者の味方ですので、慎重に対応する必要があります。
とはいえ、原則には常に例外があるように、先程の公正取引委員会のルールにも例外があります。
公正取引委員会としても
「合理的理由があれば、正規代理店が並行輸入品の修理を拒否し得る」
としています。
具体的には、
「代理店の社内資源の制約上、自社販売品の修理対応だけで手いっぱいで、並行輸入品の修理の対応は現実問題としては困難である」
あるいは
「メーカーは、修理部品や修理マニュアルを海外ユーザー向けにも提供しており、並行輸入業者や個人ユーザーがこれらを入手して修理することは、面倒くさいが、困難というほどではない」
から
「修理を拒否するのは合理的理由に基づくもので独禁法違反ではない」
というロジックが成り立つような状況を整備しておくことでしょうね。
と言いますか、思い切って価格を下げるとか、正規品ユーザーならではの付属サービス特典を強化する(オーナークラブのサービス内容の充実)とか、商売面でガチンコ勝負し、価格競争・品質競争に勝って並行輸入業者をビジネス面で駆逐することを考えたほうがいいですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00086_企業法務ケーススタディ(No.0040):敵対的買収防衛策としての資金需要アピール術!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社フレンドパーク不動産 社長 関山 浩(せきやま ひろし、45歳)

相談内容: 
新年早々の相談なんですが、実は、昨年秋から当社株買い占めと思われる動きが出てきているのです。
当社は5年ほど前の底値の時に駅前の不動産を買い集めていましたが、これら保有不動産の価値が上がっていることから、特定の投資家にとって当社保有資産は相当魅力的なはずです。
他方、当社は、IRもおざなりにしてきましたし、自社株買い等もせず、株価対策についてはほったらかしと言っていい状況でした。
当社株価のトレンドですが、特に材料がないにもかかわらず、昨年春頃から妙な上昇基調にあり、主幹事証券会社や財務部長からは警告が出されていました。
本腰を入れて対策を取ろうとした矢先の昨年11月に大量保有報告書が出され、外資系のファンドが大量に買い付けていることが判明したのです。
あと、当社は、過去に大量の転換社債を発行していたのですが、その後の株価改善を受けて社債の償還がないだろうと考え、確保していた償還原資は事業資金に使ってしまっていました。
そうしたところ、この転換社債も別の外資系ファンドが既に買い集めを始めているという噂も入ってきており、実に気味が悪い状況です。
一応、ブルドッグソースさんのものを参考に事前警告型の防衛策は導入しました。
しかしながら、当社は開発案件や新規事業をいくつも計画しており、事業資金が常に入り用の状態ですので、いざ有事になった場合、ブルドッグさんのように、敵対者を追い払うためのカネは持ち合わせていません。
初夢で
「当社において日本初の敵対的TOB成立」
という悪夢を見てしまったこともあり、私も不安が募っております。
何か妙案がありましたら、ご教示いただけませんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:買収防衛策としての第三者割当増資
買収防衛策としては、今や新株予約権や種類株を使った非常に複雑なものがトレンドとなっていますが、つい5年ほど前までは、買収防衛策といえば第三者割当増資が最もメジャーな手段でした。
すなわち、決して裏切らないお友達に株式を大量に発行し、敵対的買収者の持ち株比率を下げるという手法です。
実際、敵対的買収のターゲットとなった企業が、ドンパチの最中に、敵対的買収者の株式保有割合を薄めるため、露骨な増資を行い、裁判沙汰になったケースがいくつもありましたが、こういう裁判例の蓄積により
「主要目的ルール」
というものが確立しました。
曰く、現経営陣が敵対的買収者の持株比率の低下と支配権維持を主要な目的とした増資はアウト、資金調達が主要な目的である場合はセーフ、というルールです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:具体的資金需要のアピール
主要目的ルールを前提とすれば、
「会社に具体的資金需要があり、その調達方法として増資を実施し、その反射的な効果として、乗っ取り屋さんの思惑が外れるような支配比率の変化が生じた」
というシナリオであれば、乗っ取り屋さんを追い払うことは可能ということになります。
他方、具体的資金需要がなかったにもかかわらず、有事の真っ最中に、降って湧いたように新しい事業計画や具体的資金需要をアピールしても、世間からも裁判所からも
「でっち上げ」
と思われてしまい、増資は差し止められます。
で、優秀な企業法務弁護士と契約している一部の賢い企業は、こういう点を踏まえ、各種ディスクローズの際に、検討している事業計画や当該計画に資金が必要なことや、さらには資金調達方法としてエクイティ・ファイナンスも視野に入れていることを、
「ほら吹き」
と言われない程度にアピールすることを実施しています。
つまり、こういうことを常日頃からアピールしておけば、いざ乗っ取り屋がやって来たときも
「前から言っていたとおり、ビジネスにカネが必要になったので、増資をしただけですが、何か問題でも?」
という形で、実質は買収防衛目的の大量の増資を実施することが可能となる、というわけです。

モデル助言: 
御社もいろいろと開発案件や新事業立ち上げを考えているのであれば、馬鹿のひとつ覚えみたいに銀行融資だけでなく、エクイティ・ファイナンスも検討すべきですね。
もちろん、先程申し上げたとおり、お考えになっている開発の規模や新事業の概要を可能な限り具体化しておき、資金需要の規模や時期もある程度具体的にアピールしておいた方がいいですね。
もちろん、金融商品取引法の規制もあるので、ウソや誇張はだめですが。
それと、第三者割当増資で敵対的買収に対抗する場合、引き受けてくれるホワイトナイトが絶対必要です。
いざとなったときに頼れるお友達を、できるだけ増やしておいてください。
あと、増資に加え、新株予約権の発行も買収防衛効果があります。
役職員向けのいわゆるインセンティブ・ストックオプションの導入も可能ですし、
「新株予約権発行は増資と違って資金調達目的は必要ではない」
とされますので、事業提携を行う際に、提携アイテムのひとつとして新株予約権を発行しておくのもアリですね。
さっそく、各検討に取り掛かかりましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00085_企業法務ケーススタディ(No.0039):デット・エクイティ・スワップを活用せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社グレート・ムトウ 社長 武藤 敬一(むとう けいいち、45歳)

相談内容: 
先生、銀行が訳わかんないこと言ってて、チンプンカンプンです。
どうか、お知恵を貸してください。
いえね、今度展開する当社新事業のために資金が必要なので、長年付き合いのある全日本銀行に事業資金の借入れを打診したんですが、当社の決算書をみた新しい銀行の担当者から
「負債が多くてバランスが悪いですね」
なんて言われまして難色を示されています。
負債つっても、私や妻の役員報酬の未払がたまっているだけで、こんなの身内の借金ですし、当社の事業基盤はしっかりしていますよ。
そんな中、銀行の担当者がいきなり何を言い出すかと思ったら
「スワッピングしてくれたら、貸すことができるかもしれない」
なんて言い始める。
一体なんのことやらさっぱりですよ。
私は、そんな変な趣味ないですよ。
銀行の連中ってのはストレス溜まって病んでるんでしょうが、こんなことまで要求しますかね。もう泣きそうですよ。
とりあえず、
「わかりました。
前向きに検討します」
なんつって帰ってきたんですが、俺、やですよ。
親父の代から付き合いある古くからの税理士さんも銀行との相談に同席したんですが、チンプンカンプンなようですが、わかったようなフリをしてました。
帰り道、
「ま、会社のためですから、奥さんの了解も得られては」
なんていいやがる。
先生、どうしたらいいんですか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債務株式化
会社のバランスシートをみると、右側(貸方)には、上段に負債、下段に資本の項目が並んでいます。
法律的にみると、負債は返さなければならない借金で、資本は返さなくてもいい出資金ということで、顕著な違いがあります。
しかしながら、
「会社の運転資金の調達先はどこか」
という観察においては、負債であれ、資本であれ、調達先が債権者か株主かというだけであり、どちらも似たようなもの、ということになります。
今から10年前ほどから、負債でクビが回らなくなりはじめた企業や、負債が大きくなり過ぎて資本とのバランスが悪くなった企業において、負債を資本に振り替えることにより、企業再建に活用したり、企業が健全にみえるようなお化粧直しの方法として、債務株式化という手法が検討されはじめました。
債務(デット)を株式(エクィティ)に交換する(スワップ)という意味で、デット・エクィティ・スワップとかDES(デス)なんて言い方をされますが、武藤さんが想像するような口に出して言えないような恥ずかしい類のものではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:債務株式化の具体的手法
債務株式化は、
「大手企業の再建の際に金融機関の支援策として使われるような大規模で難しい手法」
として考えられてきましたが、新しい会社法施行に伴い、簡単に実施できるようになりました。
最近では、中小企業においても、金融機関や取引先に対してバランスシートの見栄えをよくするための財務改善の手法としてよく用いられます。
債務株式化の手法、債権者が債権を元手として出資して増資する手続になります。
武藤さんに対する未払役員報酬が1000万円になっていたとします。
会社がこの1000万円を社長に返済し、他方、武藤さんは返してもらった1000万円で会社の株式を買います。
現金がいってかえっての話になるので、実際には、お金を一切動かさずに処理をする。
この結果、会社としては借金が減り、資本が増え、自己資本比率が改善する。
簡単に言うと、こういう話になります。

モデル助言: 
お年を召した税理士さんとかでデット・エクィティ・スワップを知らない人もいるでしょうけど、
「ま、会社のためですから、奥さんの了解も得られては」
はないですよね(笑)。
銀行の指導としては、至極真っ当ですね。
というか、そういう点も含めてアドバイスしてくれるなんていいバンカーじゃないですか。
御社の場合、確かに過去の未払役員報酬や創業初期のころの自宅兼事務所の未払家賃とかが溜まっているようですね。
他方、売上規模が大きくなったわりに、資本金は設立時の1000万円のままでその後増資をしていない。
ですので、債務株式化で財務改善できる典型的なケースといえますね。
ちょっと前までは、額面での現物出資にいろいろ議論があったのですが、幸い新会社法になって額面そのままの出資ができるようになりましたので、かなり早く実施できますよ。
一度、銀行の担当者の方も交えて、具体的なスケジュールを組んで進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00084_企業法務ケーススタディ(No.0038):会社と個人とを使い分けて責任逃れをする者への対処法!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社テイクワン・ビル 社長 高田 潤一(たかだ じゅんいち、60歳)

相談内容: 
先生おはようございます。
いつもステキな高田潤一です。
いやー、朝からいい男ですいませんね。
まあ、冗談はさておき、ちょっと聞いてくださいよ。
貸しビル業なんてオレでもできると思って、適当なことやっていたら、とんだ目に遭っちゃいまして。
いえね、昨年、知り合いからの紹介でオフィスのテナントとしてウチのビルに入ってきた会社があるんですよ。
オズマ商事株式会社っていうんですけどね。
オーナー兼社長の名刺には、
「武者小路♂将」
なんて書いてある。なんすか「♂」って。
私もいい加減な人間ですが、こんなスットコドッコイはじめてですよ。
とはいえ、古くからの知り合いからの紹介でしたし、法人契約で入居させることとしました。
そしたら、この会社、入居して2ヶ月したら家賃を滞納しはじめるわ、何やら妙な造作を勝手に付け始めるわ、騒音は出すわ、どうしょうもない状況だったんです。
それで仲介した知人を通じて、オズマ商事との間で示談をして、先月末までに明渡すという約束を取り付けたんです。
ところが、期限になっても出ていく様子がないので、オフィスを見に行ったら
「NPO法人 ♂義士団♂ 本部」
なんてプレートが貼ってある。
武者小路と話をしても、
「明渡しの示談は法人であるオズマ商事株式会社との話でしょ。
会社が借りていた部分は明け渡しますが、私が個人として借りている部分や別法人の♂義士団♂が借りている部分はそんな話知りません」
なんて言いぐさです。
こういうスットコドッコイをギャフンと言わせる、適当な方法ありませんかねえ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:個人と法人は法律上別人扱
一般社会では、人というと、
「手足があって、目があって、耳があって、口があって・・・」
というものですが、
「法人」
というのは、グループ(社団法人)や財産の集まり(財団法人)に過ぎず、現実には影も形もないものです。
法律の世界では、脳や体はなく、会話や挨拶ができなくとも、ひとかたまりのゼニが存在し、そこに権利を移転し義務を負担させられるのであれば、「人」並に扱うことに何ら問題はないとされます。
このような観点から、
「組織であれ財産の集まりであれ、ゼニさえ持たせられれば『人』並みに扱う」
というフィクションが構築され、法律上の人格をもつべきモノとして、
「法人」
という概念が出来上がりました。
法人でもっとも身近なのは株式会社です。
株式会社は営利追求目的で集まった株主のグループに過ぎませんが、法律上
「営利社団法人」
として、株主とは別個の「人」として扱われます。
一般の中小零細企業では、株式会社といっても、現実には株主はオトーチャンひとりだけで、個人事業と何ら変わりありませんが、それでもやはり法律上オーナーの株主トーチャンとは
別「人」扱
となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:法人格否認の法理
こういう建前を貫くと、高田さんが遭遇したケースのように、
「オーナーと法人は別人だから、オレには関係ない」
「A法人とB法人は別人だから、こっちの法人はそんな義務知らねえ」
などの詭弁を弄する輩が出てきて、不都合・不公平な事態が生じます。
こういうことから、あまりにひどい場合は、
「法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはそれが法の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからずものというべきであり、法人格を否認すべき」(最高裁昭和44年判決)
等とされます。
「法人格を弄ぶスットコドッコイ野郎に対しては、法人だろうが個人だろうが関係なく義務や責任を負わせるべし」
という粋な計らいは、法人格否認の法理と言われ、法律家の世界では非常にメジャーな法理です。
しかしながら、このような伝家の宝刀がブンブン振り回されると法人格概念が崩壊するということも懸念され、最近では、この法理の安易な使用を制限する動きも出てきています。

モデル助言: 
まず、こういうケースに備えて、武者小路♂氏に対して、連帯保証を取っておくべきでしたね。なんだったら、その仲介者からも連帯保証を徴収しておいてもよかったんですよ。
「こんないい加減そうな野郎を紹介するんだったら、テメエもケツをもて」
とか言ってね。
お話ししたとおり、法人格否認の法理というのは、裁判所がしょっちゅう認めてくれるようなものではありません。
実際、銀行が法人にカネを貸す場合、法人倒産後にオーナーやその親族を追い込む方法としては、こんなあやふやな法理に頼ることなく、あらかじめ約束させた連帯保証責任に基づきとっとと身ぐるみ剥ぎにかかります。
こういう抜け目のなさは皆さんもっと金貸しに学ぶべきですね。
とはいえ、本件はあまりに悪質ですから、裁判所を説得し、この法理の適用を認めてもらいましょうか。
今後、さらに別の法人や素性不明の人物が出入りして占有を主張することもありますから、保全処分を実施してから早速訴訟を提起しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00083_企業法務ケーススタディ(No.0034):株券がホニャララ団の手に渡ってしまう!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社海砂利リゾート 社長 有田 哲也(ありた てつや、36歳)

相談内容: 
先生、大変なことになりました。
高校の同級生で、25年前の創業時から一緒に頑張ってきた専務の上田がやらかしてくれたんですよ。
いえ、どうも前から上田の様子がおかしいなと思っていたんですが、上田の無断欠勤が続くのでいろいろと調べてみると、奴はえらい借金があるようで、それも相当あぶない筋から借りていたとのことなんです。
上田には当社株式10%に相当する株式を持たせていましたが、当社の他の発行済株式と同様、現在のところは、株券は発行しておりません。
ところが、先日、ホニャララ団とおぼしき人物から、当社の総務部に電話があり、
「オレは上田にカネ貸してんだけどよ。あんまり返さねえんで、上田の持ってる株式を質に入れさせたんだよ。でさ、オレもさ、質入れしてもらった以上、おたくの株券を持っときたいわけ。
上田宛に株券発行してやってくんねえかな」
とかいう連絡がありました。
当社はまだ株式公開に至っておりませんので、定款上株式譲渡制限を付けております。
しかしながら、再来年には株式公開予定であり、現状で素性の芳しくない方が株主として入ってきてもらうと困るのです。
当社の監査役の会計士の先生は、
「旧商法時代に設立された御社は、株券発行会社のままであり、会社法上株券を発行する義務があるので、正式に株券発行請求されたらすみやかに株券を発行せざるを得ない」
との意見です。
他方、主幹事となっていただく予定で株式公開の面倒を見てもらっている証券会社の方は
「株券が変な方の手に渡るならまず株式公開は無理」
と言っています。
ほんと、大変な状況です。
どうすればいいのでしょうか。
何かいい方法があればぜひ教えてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株券発行は会社の義務
旧会社法(商法)の時代から、株式公開をしない企業の中には、
「ウチは株券発行していません。株券発行要求なんかあっても当然拒否します」
などということを平然とのたまうところが少なからずありました。
株券がややこしいところに流れると、たとえ株式譲渡に制限をかけていても少なからずトラブルが生じ、株式公開に差し支えるということから、主に証券代行(株主名簿管理人として行動する信託銀行)が
「株券なんか発行するな」
という指導をしており、これがいつのまにか
「ウチは株券していない取り扱いであることを告げれば、株主が株券発行を要求してこようがシカトしても構わないんだ」
という都市伝説になったのだと思われます。
しかしこのような会社の言い草には全く根拠がありません。
旧商法時代においては、すべての株式会社は、株主から株券発行の要求があれば、これに応じなければならず、法律上これを拒否することができないとされていました。
旧商法時代からの株式会社で、 「定款変更を実施し、株券不発行会社に移行する」という手続きをわざわざやるような「会社法的に意識高い系企業」であれば格別、この種の小賢しいことをしていない、多くのフツーの旧商法時代からの株式会社は株券不発行会社のままです。
監査役のいうとおり、やはり、株券発行を拒否する根拠がないのです。
ちなみに、現在の会社法下で設立された会社では、原則・例外が見事に逆転した制度構造となっており、デフォルト設定として、全ての株式会社は株券不発行会社とされています。
したがって、どうしても、紙の株券が大好きで株主に発行して現実の株券をもってもらいたくて仕方がない(変わった)企業については、定款に「当社は、株券発行会社とする」という条項を挿入し、会社法のデフォルト設定を上書きすることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株券不発行会社
確かに、株券譲渡に制限をかけておけば、株券がホニャララ組の手に渡ろうが、ハニャララ連合の手に渡ろうが、ヘニャララ一家の手に渡ろうが、そのようなところから株式譲渡承認申請を拒否すれば足りるだけだとも言えますし、株主に株券をバンバン発行してやっても問題ないはずです。
しかし、
「そんな連中に株券を所持されてるだけでお尻がむずむずして寝覚めが悪い」
という企業は、とっとと定款変更し、株券不発行会社に移行したほうがいいかもしれません。

モデル助言: 
上田さんの債権者と称するホニャララ団の方からの株券発行請求ですが、取りあえず、委任状とかもありませんし、上田さん以外の第三者が
「株券よこせ」
だのなんだの電話口で怒鳴ったところで、法律的にはただの雑音です。
適当にあしらっておけばいいでしょう。
とはいえ、そのうち、正式に弁護士を立てて、上田さんの代理人として内容証明郵便とかで
「株券を発行せよ」
とオフィシャルに求めてくるかもしれません。
そうすれば株券を発行せざるを得なくなります。
このような事態に備えるのであれば、株券不発行会社に移行する以外手段はありません。
御社はまだ未公開会社なわけですから、臨時株主総会といってもそれほど手間はかからないはずです。
ただ、御社株主の中には、エラそうだけど会社法をあまり勉強していないベンチャーキャピタルの方々もいらっしゃるのですよね。
そういう残念な連中に逐一説明するのが少々面倒くさいかもしれませんが、とっとと定款変更して株券不発行会社になってしまえば、株券を出す必要は一切なくなります。
ま、そんなにビビる話ではありませんよ。
なお、上田さんに対する賃金や損害賠償請求権等があれば、訴訟提起して欠席のまま判決を取ってしまうことができます。
上田さんが行方不明ということであれば、このシナリオは現実的です。
判決が取れれば、この債権で上田さんの株式を差し押さえし、譲渡命令で会社のものしてしまうことができます。
この方法の検討も始めましょうか。
ホニャララ団が騒ぎ出す前に、臨時株主総会、定款変更、上田から株式を取り上げる手段の構築と実施、と超高速で完遂しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00082_企業法務ケーススタディ(No.0037):社内不祥事を勝手にマスコミに公表された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社黒福本舗 社長 黒田 福三(くろだ ふくぞう、27歳)

相談内容: 
いやー、先日の問題は大変でした。
当社の主力製品、白玉を黒い漉し餡でくるんだ
「黒福餅」
の売れ残りを、冷凍保存して、もう一度売っていた問題ですよ。
今後は廃棄在庫は養豚業者に売却して売却証明文書をもらうようにしたり、製造過程の安全性を第三者委員会によりチェックしてもらったり、いろいろ改善した結果、営業再開の目処が立ちました。
ところで、まず今回の件をいきなりマスコミに通報した従業員の処分について相談したいんです。
本人は、全く悪びれておらず、辞める気もサラサラないようで、今も職場にとどまっています。
とはいえ、彼の上司は
「なんで私に相談せずにいきなり公表したんだ」
と悩んだ余り自殺未遂を図り今も療養中ですし、彼の同僚たちに至っては
「愛社精神がないのか!」
と憤り、私的制裁を加えかねない状況です。
そりゃ、私としても、当社として誤解を招くようなことをしたことは悪かったとは思いますが、内部でやりなおす機会もなく、いきなりマスコミで報道されても黙って認めろというのは釈然としない気分です。
今回のことは現場主導でやってしまっていたわけなんですが、私としては、きちんと現場の声を聞いていたら放置するつもりはなかったですし、今後はこういうことは会社内で処理できるようにしていきたいと考えています。
そこでなんですが、まず彼は解雇できるんでしょうか。
それと、今後、いきなりマスコミに公表するのではなく、まず企業内部できっちりと不正をなくすための行動を従業員に推奨する方策として何かできることはありますでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公益通報者保護法
談合、各種食品偽装、リコール隠し等々、最近、企業内部の不正が多く報道されるようになりましたが、これらの不祥事報道のきっかけのほとんどが企業の従業員等の内部告発によるものだと言われています。
そして、このような内部告発した従業員が、後に解雇されたり、職場で様々な不利益を受けることもよく知られた話です。
企業のこの種の報復から内部告発者を守るため、2006(平成18)年4月に公益通報者保護法が施行されました。
ちょっと前まで、企業内で秘匿されている
「表立っては言えないような事情」
を口外しないことは従業員のモラルとされ、逆に、その種の事情を口外するときは辞職覚悟で行うものとされていましたが、この法律により、
「企業内部の不正を公表するには、辞職を覚悟しなくてもいい」
という新たな企業文化が確立されました。
企業としては、
「コンプライアンスの観点上、企業内不正の密告は奨励される」
という理屈が法制化されたことを理解しなければならず、
「この対策を怠ると、信じていた身内からの裏切りにより簡単に企業組織が崩壊すること」
を認識する必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:内部通報制度を設けるメリット
公益通報者保護法は
「従業員が企業内の不正を発見すれば、どんな場合や状況にかかわらず、ベラベラしゃべってよく、解雇もされない」
ということを定めているわけではありません。
とくに、従業員のタレ込み先がマスコミの場合、通報を正当化するためのハードルは相当高くなります。
そして、内部通報制度を設置することにより、従業員による企業内不正の外部公表行為は相当抑止されます。
すなわち、公益通報者保護法上も、企業内部の自浄を高めるべく、
「社内不正の発見に際して、上司を通さず直接経営トップに通報するための仕組(内部通報制度)」
を設けた場合、従業員は、いきなり企業内不正を外部公表するのではなく、まずは企業内部の自浄に協力すべく、内部通報制度の利用をすべきことが原則として定められているからです。

モデル助言: 
まず、今回マスコミに社内不正を知らせて外部公表した従業員の処遇ですが、解雇は難しいですね。
御社に、事件前から適切な内部通報制度があれば、
「適正な内部通報制度を利用せず、何故、いきなり外部公表に加担したんだ」
ということで従業員を責めることも考えられます。
しかしながら、御社にこういう制度がなかったわけですし、また、今回のような不正は
「個人の身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合」
として、法律上も外部公表への加担を理由に解雇するのは困難です。
とはいえ、今後を考えるのであれば、きちんとした内部通報制度を設け、この種の社内不正がいきなり外部に公表されるリスクを少なくしておくべきでしょうね。
無論、こういう後ろ向きの業務を社内で行うのが困難であれば、当弁護士法人が通報窓口となる形での運用も可能です。
といいますか、内部通報制度が適切に利用されることにより社内の風通しがよくなりますし、不正は確実に減少することは経験上明らかです。
「不正を外に漏らさないため」
ではなく、
「不正自体を減らし自浄により企業をよくするため」
に早急に導入すべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00081_企業法務ケーススタディ(No.0036):労働組合から団体交渉の申入通知がやってきた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社オーシャン・パシフィック 社長 野島 芳雄(のじま よしお、27歳)

相談内容: 
先生、昨日、労働解放ユニオンってところから、こんなのが郵便で送られてきたんですよ。
何すかこれ。
「組合加入通知書及び団体交渉申入書」
って、意味わかんないんすけど。
そこに書いてある、江頭ってのは知っていますよ。
中途で入ってきた人間なんですが、先月クビにしたんですよ。
まあ、入社して2、3カ月はそれなりにまじめにやっていたんですが、試用期間が過ぎると、勤務時間中にエロサイトはみるし、ネットの株取引はやるし、営業に出たら出たでサボるし、どうしようもない奴だったんですよ。
経理から
「江頭が半年以上仮払の清算をしない」
っていうクレームがあって、追及したんですよ。
そしたら、個人の借金の返済に流用したことを認めたので、さすがの私も堪忍袋の尾が切れて、その場でクビを言い渡したんですよ。
その日のうちに荷物をまとめて会社から出ていったところまではよかったんですが、そしたら、こんなのが来ちゃって。
解雇を撤回して、仕事に復帰させろなんて書いてある。
ホント、訳わかんないですよ。
だいたい、当社は労働組合を認めたこともないですし、それに、労働組合ってのは、賃上げとか残業時間とか、労使全体の話をするものでしょう。
こんな一不良社員の解雇問題に口出しするなんて、どうかしてますよ。
とにかく、
「こんなの関係ねえ!」
って思ってますし、この通知は無視しようと思っているんですが、一応、顧問の鐵丸先生にも意見を聞いておこうということになりました。
無視しといていいですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働組合
日本の多くの企業では、企業毎に労働組合が結成され、いわゆる
「御用組合」
という形で企業とそれなりに仲良く共生している例が多いです。
しかし、労働組合一般についていえば、日本国憲法により労働組合を結成する権利が認められており、労働組合を作るのに、一々会社の了解が必要というわけではありません。
そもそも労働組合を作ること自体、漁業協同組合や農業協同組合等を作るときのような意味不明な制約があるわけではなく、かなり自由にできるものです。
すなわち、2人以上の労働者が
「組合作ろう」
「そうしよう」
と意気投合し、地方労働委員会に規約等が労働組合法に適合していることを確認しさえすれば、原則として、労働組合法上の労働組合として、その活動に手厚い保護が与えられます。
本件のように、企業内の労働組合が存在しない状況において、従業員が企業外の独立系労働組合の組合員となることは可能ですし、その場合、当該独立系労働組合が会社に対して団体交渉等を行うことも可能です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:団体交渉事項
本ケースは、組合員の解雇という個人的な問題を、団体交渉の目的たる事項として、企業外の独立系労働組合から団体交渉が申し入れられています。
確かに、一個人の労働契約に関する問題を、企業内のことをあまり知らない労働組合からとやかく口を差し挟まれるのは奇異な感じがします。
しかし、本件のような問題も
「団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」
である以上、義務的団体交渉事項として、会社は交渉に誠実に応じるべき義務を負います。
会社が、かような交渉事項に関し、正当な理由なく交渉を拒絶した場合、労働組合法に違反する労働組合活動の妨害行為(「不当労働行為」といいます)として、様々なペナルティを負担することとなります。

モデル助言: 
「解雇した江頭氏側に相当問題があり、しかも本人が一度は解雇に応じているのに、なんで突然出てきた部外の者と話し合わなければならないんだ!」
という野島さんの気持ちもわかります。
ですが、ご説明したとおり、先方の団体交渉申入は法的根拠を具備したものであり、
「そんなの関係ねぇ!」
というノリで根拠なく交渉を拒否したりしたら、不当労働行為として、直ちに地方労働委員会に訴えられます。
また、一旦、交渉がはじまりますと、先方は、労働法の理論と判例を頭に詰め込んだ切れ者の交渉担当者が出てきます。
組合側が法と判例を基礎に理詰めで解雇の撤回を求めるのに対して、
「そんなの関係ねぇ!」
とか言って交渉に協力しない場合も、やはり不当労働行為となりえます。
とはいえ、誠実交渉義務といっても、会社は労働組合の主張をなんでもかんでも承諾しなければならないというものではなく、合理的根拠を示して妥結を拒否することは許されています。
すなわち、
「これこれ、こういう法的理由で当方は解雇を正当と考えており、貴方の解釈は本件にはあてはまらない。
これ以上の交渉しても接点を見いだし得ないので、後は裁判所の判断を仰ぐほかありませんね」
というような対応は認められています。
いずれにせよ、理論武装をして交渉に臨みましょう。無論、当職も立ち会いますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00080_企業法務ケーススタディ(No.0035):ベンチャーキャピタルから株主代表訴訟を提起すると通告された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社バブルネット 社長 大芝 透(おおしば とおる、53歳)

相談内容: 
先生さあ、ちょっとさあ、大変なんだけどさあ、聞いてくれるかなあ。
うちってさあ、カネが足んなかったもんでさあ、メーンバンクの支店長さんから紹介を受けたベンチャーキャピタリストの小堺ってのに
「トゥギャザーしようぜ!!」
ってお願いして、出資してもらったわけさ。
でさ、小堺が取締役会に出席するようになったんだけど、こいつがとんでもない奴でさ。
数字は読めない、ベンチャービジネスはわかんない、英語はできない、ITに至ってはEメールすら使えない、大馬鹿だったわけさ。
この間の取締役会で、小堺があんまりアホな意見ばかり言うもんだから、こっちもキレちゃって、最後に
「シャラップ! バカはひっこんでろ」
って言ってやったわけさ。
小堺の野郎、顔を真っ赤にして、何を言い出すかと思ったら、
「当社は御社の株主ですよ。
そんな口聞いていいんですか。
わかりました。
御社の財務資料を徹底的に洗い直して、代表訴訟を提起します」
なんて言って帰りやがった。
野郎、当社の取引先の中にオレのダディが経営している会社が入っていることとか、司法書士業務とか社労士業務をオレのワイフのブラザーに発注していることとか、いろいろ嗅ぎ回っているらしい。
ま、どうせロクなことを言ってこないと思うけどさ、株主代表訴訟なんてのがよくわかんないもんでさ、なんか対抗策とかあればさ、先生からアドヴァイスほしいわけさ。
というわけでさ、ティーチ・ミー、プリーズ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主代表訴訟
株式会社の取締役が会社に迷惑をかけた場合、本来、会社がチョンボした取締役に損害賠償をすべきなのでしょうが(この場合監査役が会社の代表として訴訟提起します)、現実問題として、会社を牛耳る取締役に対して、役員仲間である監査役が責任追求するなんてことは期待できるはずもありません。
その結果、取締役としては、絶大な権限を利用して会社の財産を食いちらかすことが可能となってしまいます。
そこで、会社法は、あまりにもひどい場合に、株主が会社に代わって、取締役に対して損害賠償請求することを認めています。
とはいえ、株主の代表訴訟を無制限に認めると濫用される弊害の多く出てきます。
すなわち、暴力団やライバル企業が株式を取得して代表訴訟を濫発すれば、対象企業を事実上機能停止に追い込むことが可能となってしまいます。
そういうわけで、会社法は、取締役の専横を防止する制度として株主代表訴訟を設けつつ、濫用されないような仕組も同時に設けています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主代表訴訟防御策
会社の経営陣の方々から、よく
「株主代表訴訟は怖い」
という言葉を聞きますが、
「饅頭怖い」
の落語のように本質を理解せずただ抽象的に怖がっているため、防御策をほったらかしにしているところがほとんどです。
本質的な対策としては、取締役において代表訴訟の原因となるべき任務懈怠あるいはこれと疑われるべき行為を減らす努力が必要です。
問題となりそうな取引や行為については、代表取締役の独断には付さず、取締役会できちんと議論するとともに、議論と承認可決された経緯を議事録に漏らさず記録しておくことにより、代表訴訟のリスクが相当程度逓減されます。
あと、代表訴訟提起前に株主から会社宛に、
「お前んとこの悪徳役員を訴えろ」
という内容の訴訟提起を求める書面が参ります。
ほとんどの会社は当該書面をシカトしますが、シカトの結果、怒り狂っている株主相手と役員との仁義なき直接対決を誘発してしまいます。
ケースによっては、株主の言い分どおり訴訟提起をしてあげて、話が通じる者の間で適正に解決した方がいい場合もあります。
最後に、防御策というより責任軽減策として、役員賠償責任保険に加入することや賠償額の制限を定款に盛り込むことも考えられます。

モデル助言: 
まず、相手方が問題としそうな取引、法律上取締役会の承認が必要だったものや、道義上取締役会に付議しておいた方がよかったものを洗い出してください。
議事録を遡って作成することは厳禁ですが、事後の承認を得ることは可能ですので、問題となりそうな取引については、事後的であれ、法的クリアランスをやっておいた方がいいでしょう。
それと、小堺が取締役会で面罵されて個人的な恨みをいだいていた経緯を書面として残しておきましょう。
代表訴訟提起が不当な害意を目的とするものである場合、訴訟自体却下されることもありますので。
究極の手段としては、小堺から会社に対して訴訟提起を促す通知が来たら、これを放置せず、小堺の要望どおり会社が訴訟を提起することですね。
この場合、相手は小堺ではなく、見知った監査役となります。
どうせ裁判するなら、敵意を抱いている人間より気心の知れた人間の方がやりやすいですから。
ただ、気心知れた監査役に露骨な馴れ合い訴訟をしていい加減なことをしてお茶を濁そうとしても、このような不当な手法に対しては会社法で制限措置が設けられていますので、この点は十分注意すべきです。
ま、そんなことより、いい気になって他人を無用に怒らせるのは、トラブルを増やすだけですから、今後の会社運営はくれぐれもご自重ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00079_企業法務ケーススタディ(No.0033):買収防衛策としてのチェンジ・オブ・コントロール条項

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社加藤茶業 社長 加藤 英幸(かとう ひでゆき、64歳)

相談内容: 
当社は、有機栽培で有名な高木茶園と古くからお付き合いがあるほか、苦みと甘味を醸しだす製法は志村工業の特許の独占許諾を得ておりますが、これらの協力により独自の飲料商品を生み出し、ようやく株式を公開するまでになったのです。
ところで、先日、総務部長の仲本が、外資系のファンドが相当当社株を買い増しして、いつの間にか25%も買い占めていると慌てた様子で報告してきました。
このことを高木さんや志村さんに相談したところ、
「オレたちは加藤さんと一緒に加藤茶業を大きくしてきた。
買収されるようなことがあったら、オレたちも困る。
何でも協力する」
と言ってくれています。
とはいえ、2人とも安定株主として株を買い増すという形での協力は無理なようです。
ところで、高木茶園との茶葉の仕入れ契約は今月で修了となり、更新の話となりますし、志村工業との特許ライセンス契約も来月に一端終了となります。
ファンドは純投資目的で保有しているようですが、米国大手メーカーが当社を買収する動きがあるとの噂もあり、ファンドがこのような動きに併せて買い増しをしているとも考えられます。
敵対的買収を防ぐための妙案で、何かいいものはありませんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:買収防衛策としての取引先との連携
かつて日本の産業界を賑わせたニッポン放送買収騒動の際、ライブドアによる買収が現実化しそうになったとき、フジテレビでは、
「ニッポン放送がライブドアに買収されるような事態に陥ったときには、コンテンツ提供を打ち切ることもあり得る」
という趣旨の公表をしました。
これは
「買収した途端、ニッポン放送の企業価値が下がるかもしれないから、ライブドアの買収は無駄に終わるよ」
ということであり、
「寄り切りで負けそうになってもこちらの土俵を後ろにずらすから、負けないよ」
と宣言したようなものです。
ここで、注目されるのは、買収防衛策の多様性です。
すなわち、買収防衛策としては、株式(新株予約権)という企業持ち分の分捕り合戦を中心に構築されることがほとんどですが、会社の利害関係者は何も株主だけではありません。
現代的ステークホールダーズ論によれば、
「会社の利害関係は株主だけではない。
顧客や従業員や取引先、さらには行政や地域社会までもが会社の利害関係者である」
ということがいわれることからも明らかです。
ですので、敵方に株を過半数以上取られないための方策と並行して、
「暴力的に会社を奪おうとすると、株主以外の利害関係者が牙を剥き、会社が存立し得ない状況に陥る」
という布石を打っておくことも買収防衛策としては有効に機能します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:チェンジ・オブ・コントロール条項
ところで、外資系企業と取引すると、チェンジ・オブ・コントロール条項(あるいはチェンジ・イン・コントロール条項)というものを目にすることがあります。
これは、
「取引先企業の支配権が合併や買収で変動した場合、相手方企業が契約を破棄・変更できる」
という仕組みです。
アメリカなどでは、ソフトウエア会社が顧客企業に特殊なソフトウエアを供給していたところ、ライバル会社が顧客企業を買収してしまうという事態も起こり得ます。
そうした場合に備えた契約解除権を設けておかないと、ライバル会社が顧客企業を通じて顧客向けにしか開示しない企業秘密を入手することになりかねません。
最近、買収防衛策のひとつとして、チェンジ・オブ・コントロール条項の利用が検討されているようです。
すなわち、ニッポン放送の事例と同じく
「買収して株主構成が変わったら、チェンジ・オブ・コントロール条項が発動され、取引先を喪失することにもなるから、あまり強引なことはおやめなさいよ」
という形で強硬な敵対的買収の実施を躊躇させる、というわけです。

モデル助言: 
本ケースで言えば、高木茶園や志村工業が加藤茶業との契約を更新する際、
「加藤茶業の支配株主が変更したような場合、高木茶園や志村工業が契約解除権を取得する」
という条項を加えることが考えられます。
これにより、米国大手飲料メーカーが敵対的買収をした場合、加藤茶業の企業価値の根幹とも言うべき高木茶園からの茶葉供給や、志村工業の特許ライセンスが喪失することになるので、米国大手飲料メーカーとしても、強引な乗っ取りがやりにくくなります。
また、同様の発想に立つものとして、労働者に結束してもらうというのもいいでしょう。
御社には労働組合は存在しませんが、これを機会に従業員が労働組合をつくるのもいいかもしれません。
無論、御用組合でなくては困りますが、組合の姿勢として
「現経営陣は理解があるので、仲良くやっていくが、あまり強引な買収をする輩に対しては戦闘的な行動に出る」
なんてことを表明してくれれば、買収防衛策としては理想的です。
とはいえ、これらのことを買収防衛策を目的として会社が積極的かつ露骨に実施するのはお勧めできません。
あくまで
「株主を含む広汎なステークホールダーズとの関係を良好に維持し、企業を長期的に発展させる」
という大義名分の下、受け身の立場で粛々と対応していき、気が付いたら強力な買収防衛策になっていた、という形で進めるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00078_企業法務ケーススタディ(No.0032):システムエンジニア派遣事業のリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社スッキリ・ソリューション 社長 佐藤 公次(さとう こうじ、38歳)

相談内容: 
先生、おはようございます。
当社は、銀行や証券会社に対して、クライアント企業内部のシステム開発要員としてシステム・エンジニアを派遣しております。
ま、要するに、一匹狼のエンジニアに2次発注し、当社の名刺を持たせて、客先での開発に従事させるというわけです。
この種の仕事は波がありますので、当社としても、受託の見込みが不透明なまま、大量の要員を抱えるのはリスクです。
社会保険や有給休暇、さらには福利厚生の負担なんかしていたら商売あがったりですし。
ところで、先日、同業の会社に税務調査が入ったようなんです。
その会社は当社と同じく、各エンジニアを独立事業者として取り扱い、外部請負のような形で契約をしていたようなんですが、各エンジニアが全く税務申告をしていなかったらしいんです。
社長は、各エンジニアが脱税しているだけで会社は特に問題がないと思っていたようなんですが、税務調査では、
「各エンジニアとの契約実態は雇用だから、会社が源泉徴収税額を払え」
と言われたそうなんです。
当社も事業実態は同じですし、各エンジニアは、税務申告などしたことない様子です。
私としては、雇用という形での費用が固定化するリスクを避けたいのですが、他方で、エンジニアが税務申告をしないことが原因で、後ろから税務署からとばっちりを受けるのも御免被りたいところです。
何か、いい解決策ありますでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:請負と委任と雇用の区別
「お金をもらって仕事をする」
というのは経済的には単純な話ですが、法律的には、それが請負ないし委任なのか雇用なのかはなかなか悩ましいところです。
悩ましいといっても、理論的な議論だけならいくらでも悩めばいいのですが、設例のように税務の問題が絡むと、議論の方向性を誤ると無用な税務リスクに発展するので、慎重に取り扱う必要があります。
各エンジニアが独自の裁量で仕事を遂行し、勤怠管理や作業報告義務等も一切行なわないということであれば、独立事業者との請負ないし委任契約ということになるのでしょうが、エンジニアに仕事の裁量がなく、勤怠管理に服し、作業報告義務までも課されているのであれば、契約名目にかかわらず、雇用という法律関係が形成されているものと見られます。
請負や委任というのは、独立の事業者として義務を遂行するものであり、誰かの指導命令に服するということとは相いれませんから、当たり前といえば当たり前の話なのですが、世の中には契約の名称だけ
「請負」

「委任」
としておけば税務署も同じように法的におかしな理解をしてくれる、などということを考えられる会社もあるようです。
もちろん税務署はこんな話をまともに受け取ってくれるほど甘くはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:雇用認定を避けるための方法
理論上の回避策としては、まず、エンジニアに法人を設立させ、法人間契約とすることが考えられます。
ただ、新会社法で設立が従来に比べ簡単になっているとはいえ、エンジニアの数を考えると、設立手続き負担の重さはあまりに非現実的です。
あと、エンジニアに独立個人事業主であることの客観的状況を具備させる方法として、商法11条に基づく屋号登記を実行させるとともに、税務署に個人事業開始届を提出させるという方策も、理論上の選択肢としては考えられます。
これに加えて、会社で税理士を用意し、税理士が管理する金融機関の特別口座を準備し、各エンジニアから半強制的に申告税相当の金銭を預かり、この口座にプールし、確実に税金を支払わせるという方法もアイデアレベルでは考えられます。
しかしながら、このような方法であっても、下請法や独禁法上の優越的地位の濫用の問題は回避し得ませんし、さらには近時社会問題になっている偽装請負等の問題については、未解決のリスクとして残ってしまいます。

モデル助言:
実態が雇用であるのにもかかわらず、雇用認定を避けるなどということは所詮小手先の解決法にはなり得ません。
この種の彌縫策を続けると、事業が大きくなるにつれ、リスクがどんどん増大しますし、健全な事業展開を望めなくなります。
問題の根本的な解決のためには、正攻法しかあり得ません。
すなわち、現場での作業をエンジニアの裁量にゆだねるのではなく、御社として指揮命令や管理を続けるのであれば、雇用という契約処理をきちんとするほかありません。
御社の作業実態を観察しない限り何とも言えませんが、エンジニアの個性や裁量が反映されるような業務を請け負っているわけではないようですので、雇用という形態は動かしがたいと存じます。
ただ、雇用と言っても、終身雇用以外の雇用契約もあり得るわけで、更新のない期間雇用としておくことでしょう。
もちろん、期間雇用といえども解雇権濫用法理の適用があり得るところですが、このようなリスクは顕在化するとは限らないわけですし、発生した時にコントロールする、と腹をくくるほかありませんね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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