00015_企業法務ケーススタディ(No.0001):提携交渉中に交渉相手が突然態度を豹変し、一方的に破談を申し渡された

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ナニワ信託銀行 取締役 梅田 虎男(うめだ とらお、58歳)

相談内容:
先生、ちょっと聞いとくれやす。
わてらナニワ信託銀行は、業界大手の東海信託銀行さんと
「業務提携しまひょか」
ゆうことになりましてな、先生が提示した覚書に署名して、2年くらいかけて、話し合いしとったんですわ。
会計士さんやら入ってもろて、提携条件も詰まって、もうこれで決まりや、ゆうとこまできましたんや。
忘れもしませんわ。大筋で条件が決まった昨年秋ごろでしたかいな。
先方さんから急に
「親会社の意向が変わったんで提携話はナシにしてくれ」
と、こうゆうてきはりましたんや。
しかも、噂によると、東海さんとこは、ウチの宿敵関東信託銀行さんと提携するという話ですわ。
もうウチの会長カンカンで、
「そんなん契約違反や。鐵丸先生とこに頼んで東海さんとこにヤキ入れてもろうて来い!」
とこうなったわけですわ。
先生、どうしたらいいかお知恵を拝借できまへんか。
ほんま、よろしゅう頼んますわ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:交渉破談と賠償請求
クライアントであるナニワ信託銀行も、相手方である東海信託銀行も、約束事の明瞭な文書化を避けて、
「信頼関係」
を唯一の基礎にして、 話を進めてきましたが、不幸な事に、
「信頼関係」
の解釈が真逆でした。
すなわち、ナニワ信託銀行においては
「交渉を破談にするのであれば、相応の賠償をするのが信頼関係 」
と考えていましたが、相手方の東海信託銀行は
「状況が変わったら、過去の経緯にとらわれず、交渉から解放してくれるのが信頼関係 」
と考えていた点に、不幸な紛議の根本的原因があります。
提携交渉に着手する前に交わすべき契約内容としては、提携交渉の背景や経済的動機の確認、交渉中取り交わされる情報の保秘、交渉期間中に第三者と同種の交渉を行なうことの許否、当事者の違約があった場合の賠償措置などが盛り込まれます。
最近では、違約を行なった場合の措置の内容として、予定損害額や違約金まで定めることが必要です。

モデル助言:
さて、ナニワ信託さんは交渉前に覚書は取り交わしていたわけで、それは評価できますね。
しかし、この覚書を読んでも、東海さんがナニワ信託さん以外の第三者と交渉することまで禁止しているかという点については明らかではない。
それに、約束違反した場合の賠償ルールについても、単に
「相当額の賠償をする」
としか書いていません。
これだと、ナニワ信託さんに独占交渉権があったか否か自体争われますし、交渉権を侵害した場合の損害論もこちらが主張立証しなければならない。
会長は、提携の利益である100億円損害賠償請求するとおっしゃっている?
うーむ、ちょっとそれは難しいでしょう。
今回の契約は
「提携するかについて交渉する約束」
であって、
「提携する約束」
ではありませんからね。
裁判では、交渉経過での東海さんのやり方の非違性をていねいに主張して、せめて契約違反を認めてもらいましょうか。
契約が未成立の段階において交渉相手が一方的に破談させた場合に交渉費用相当の損害賠償を認めた判例もありますから、独占交渉権の明記がないと判断されたとしても、裁判所の理解は得られるでしょう。
あとは、あまりつっぱらず、裁判所が和解を勧めてくれた段階で、早期に和解で決着するのが賢明ですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00014_企業法務部門の規模格差と、中小企業・ベンチャー企業における法務体制充実に向けた取り組み

わが国最大の企業横断的法務担当者組織である経営法友会(会員会社数は1200社超)の会社法務部実態調査においては、調査基準として、企業法務部門を規模別に、
1~4名を「小規模法務」、
5~10名を「中規模法務」、
11~30名を「大規模法務」、
31名以上を「メガクラス法務」
として分類しています。

経営法友会の実態調査をみる限り、企業の時価総額と法務部門の規模は概ね比例しており、
時価総額50億円未満の企業が概ね「小規模法務」(1~4名 )、
時価総額50億円以上500億円未満の企業が概ね「中規模法務」(5~10名 )、
時価総額500億円以上1000億円未満の企業が概ね「大規模法務」(11~30名 )、
時価総額1000億円以上の企業が概ね「メガクラス法務」(31名以上 )、
というイメージで捉えることが可能です。

他方、小規模法務の内実として、法務部員一人だけの法務部(一人法務)も、回答会社数の1割程度含まれています。

また、資本金5億円未満の企業における法務部門設置率は約3割とされており、7割の中小企業では法務部を欠いた状態で経営を行っているようです。

「7割の中小企業において、法務部を欠いた状態」
とはいえ、
「法務部を設置する余裕はなくとも、顧問弁護士くらいはいるだろう」
との期待はできそうですが、現実には、
「(法務部はおろか)顧問弁護士すら不在」
という経営体制も相当数存在するようです。

古いデータですが、 2005年に
大阪市立大学大学院法学研究科「企業法務研究プロジェクト」
が実施した調査によると、1838の大阪府下の中小企業中、顧問弁護士がいないと回答した企業は1530社(83%)に上ったそうです(高橋眞、村上幸隆(編)『中小企業法の理論と実務』民事法研究会刊、2007年、591頁)。

東京に次ぐ大都市である大阪ですらこのような状況ですから、その他の地方都市の企業の法務支援体制として、
「顧問弁護士すら不在」
という経営体制の企業が相当な割合で存在するであろうことは容易に推測可能です。

地方では弁護士の数が不足していることもあり、税理士や司法書士、行政書士が事実上顧問弁護士としての役割を担い、企業の契約書をチェックし、法務上の相談に応じ、ときには訴訟指導等もしていることは公然と知られた事実です(無論、これら非資格者による法律業務は弁護士法違反を構成し、罰則すら適用される重篤な違法行為です)。

そして、このような法務上の不適切な処置が原因で後日深刻なトラブルに発展するケースも実に多く存在します。

現代の産業社会は、法務体制を欠如した企業が生き残れるほど寛容ではありません。

有効な企業法務上の助言がえられないばかりに、不祥事や契約リスクが現実化し、倒産や廃業等を余儀なくされ、市場から退場させられた企業は数多く存在します

とはいえ、著者としては、
「すべての企業が法務部が必要」
などという、過剰かつ非現実的なことを言うつもりはありません。

「弁護士資格をもたない者による、違法で不適正な法律相談に依拠して法的判断を行うこと」
は論外としても、企業の規模によっては、顧問弁護士をいわば
「社外の独立法務部」
のような形で機動的に動いてもらうことにより、
「企業規模に応じた合理的な充実度を有する法律体制」
を整えることは十分可能です。

実際、私の顧問先企業においては、法務部が存在しないものの、管理担当役員や、経理や財務等の非法務セクションの部長等が、対応窓口(法務マターに関する報告・連絡・相談を実施する窓口)となって、顧問契約をしている法律事務所を、社外の独立法務部のような形で機能させている中小企業、ベンチャー企業は相応数存在します。

この種の企業は、社内に恒常的に活動する法務組織はないものの、トップマネジメントと対応窓口と顧問弁護士との三者連携で、相当充実した法務体制を整え、紛争予防をほぼ完全な制御下に置いています。

また、偶発的に生じるトラブル対応も、即時適時に、実戦経験豊富な弁護士が、紛争萌芽期から直接対処するので、
「大事を小事に、小事を無事にするような、効果的な有事対処」
することが可能な体制が整備されています。

無論、このように、 顧問弁護士をいわば
「社外の独立法務部」
のような形で機動的に稼働させる前提として、顧問弁護士サイドにおいて、法律上の知見やリーガルマインドはもちろんのこと、顧問先企業のビジネスモデルや個々の事業活動に対する即時かつ十全な理解を可能にする
「ビジネスマインド」
を有することが大前提となります。

また、顧問弁護士と、対応窓口との間における、効果的な
「報告・連絡・相談」
を可能にするためには、顧問弁護士において、難解な専門用語を振り回して曖昧な態度で煙に巻くような助言スタンスで逃げたりせず、法的本質を十分理解した上で、明快な結論や判断分岐における選択肢を明瞭に提示できるスキルを有し、さらに、アナロジーやメタファーやプレインランゲージを用いて
「ビジネスパースン」
として会話できる、コミュニケーション力も必要になります。

いずれにせよ、企業法務部門の充実度は、企業規模において実に様々であり、数十名の専門部員が常駐する法務部を擁する企業が存在する一方、創業間もないベンチャーや零細企業においては、顧問弁護士すら不在の状態で凌いでいる、という厳然たる格差が実体として存在することは事実です。

他方で、法曹人口の増加傾向も相まって、今後、ますます社内弁護士や法務専門職雇用が増え、あるいは、弁護士の競争激化に伴い、弁護士も
「よりクライアントサイドにおいて使い勝手の良い」
と評価されるためのスキル改善向上(とくに、ビジネスモデルの理解や、コミュニケーション力の改善)を行い、総合的な底上げが期待されるところであろう、と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00013_「コンプライアンス的に問題です」という応答は、企業法務的に大問題であり、法務部員の職責放棄と同じ

企業内の法務部員が、経営陣からの法的諮問や依頼部署からの法律相談に対して、
「コンプライアンス的に問題です」
という応答をする場合があります。

この応答は、社外の顧問弁護士においてもみられる場合があります。

私としては、この
「コンプライアンス的に問題です」
という応答は、法務戦略としての思考を放棄したことを示しており、法務部員としてありえない怠慢さを表すものと考えます。

法的三段論法にしたがって、具体的な法規範(大前提)を示し、相談された事例(小前提)が当該規範に違反・抵触することを示す(結論)なら、まだしも、
「コンプライアンス的に問題」
という言い方自体、そのような法的思考すら懈怠・放棄しているのと同義です。

具体的根拠を示さず、
「コンプライアンス的に問題です」
という抽象的な概念で誤魔化す応答態度は、 印象や感覚に依拠し、常識という一種の
「属人的偏見」
に基づく主観的違和感を語っているに過ぎず、
「私の感覚と合わない」
と言っているのと同様、非知的で無内容な応答です。

さらに最悪なのは、企業法務部員が
「企業“倫理”的に問題です」
といった応答をなすことです。

無論、この種の応答を、企業イメージの維持改善を所管する広報部や広告宣伝部、IR部門等が言うことは、ある程度許容できます。

ですが、“法”的問題を問われている法務部員が、“倫理”を盾に、真摯な検討を放擲し、
「倫理的に違和感がある」
という逃げの弁解を使って、不誠実な回答回避に及ぶ態度は大きな問題であろうと思います。

我々弁護士も、法務部員も、
「法律を扱うプロフェッショナル」
であり、問われている問題は、法律問題であり、倫理問題ではありません。

倫理を問うなら、問うべき相手は弁護士や法務部員ではありません。
神父や牧師や住職か神主か、幼稚園や小学校の教員に聞くべきです。

このように、
「コンプライアンス的に問題です」
「企業倫理的に問題です」
という応答をしたくなる動機や背景は、推測するに、次のようなことであろうと考えられます。

すなわち、
・具体的な法的問題を指摘する場合、諮問事実(対象取引や対象プロジェクト)を正確に把握・理解し、関係しうる該当法令をくまなく探索し、適用対象となるべき箇所(条文)を抽出し、これに法的三段論法を当てはめた検証を行わなければならない
・しかも、以上の検証は「規範と事実関係がきちんと整合し、あるいは適用対象外であることが明確である」という場合であり、もしこの点が曖昧であれば、裁判例等まで探索範囲を広げ、さらなる調査検証が必要となる
・ 以上のような知的活動は面倒であり、あるいはそもそもスキルがなくて自分たちのキャパシティでは調査検証が不可能とも言える状況
・リスク回避のもっとも端的で簡便な方法は、「当該リスキーな行いをやめてしまうこと」である。リスクある行いをやめさせれば、リスクは絶対的かつ完全に回避できる
・何らかの理由で、取引ないしプロジェクトをギブアップさせるか、少なくとも、法務部として異を唱えていたことを記録に残しておけば、リスクが発現しても責任を逃れられる
・「検討するのが面倒くさいし、あるいはそのスキルが無いが、なんとなく違和感があるので、やめといた方ががいいと思う。制止を無視してやって、トラブルになっても、異議を留めておけば、あとで私たちが責任を負わなくていい」という消極的な態度で逃げたいのが本音
・このような愚劣で卑劣な本音をうまく糊塗隠蔽し、しかも、真摯に知的検証したように見える便利な言い方として、「コンプライアンス的に問題」「企業倫理的に問題」という言い方がある
・だから、この便利なマジックワードを使って、誤魔化して、煙に巻き、職責を果たしたフリをしてやり過ごそう
という動機ないし背景が透けて見えます。

「あいつは魔女だ」
「あいつは反キリストだ」
「無口で無礼な隣に引っ越してきた家族は、とんでもない非常識な連中だ。悪魔崇拝をしているから火炙りにすべきだ」
「あいつの行いは不敬罪に問うべきだ」
「貴様のような言動をするヤツは非国民だ」
「お前の考え方は、帝国主義的な堕落というべきで、労働教化刑に処すべきだ」
「君の言動は、反革命的だ」
などという暴力的で暗黒的で中世封建的な言い方と同様、
「基準なき主観で物事を評価する態度ないし姿勢」は、
極めて非知的で時代錯誤的で愚劣なものであり、法律家としては、もっとも嫌悪し、忌避すべきものです。

市場での自由競争を是とする資本主義社会を採用する国家においては、
「書いてないことはやっていいこと」
というのが、あらゆる取引や事業に適用されるべき私法の根本原理です。

多くのベンチャーや新規事業部門がチャレンジする取引やプロジェクトは、誰もやっていないことや、先例があっても精密に整合しないタイプの、法律家の保守的で陳腐な発想では思いもつかないものばかりです。

当然ながら、
「法的抵触の有無や回避するための知恵」
がそう簡単に出てこない、そんなタイプの難しい法的課題に遭遇します。

だからこそ、企業法務部員に(企業法務部員のキャパシティで対応困難であれば、その先の顧問弁護士に)、見解を求めるのです。

経済合理性があり、事業採算性が見込まれる取引や事業が想定され、そこに適用される法律が具体的に見当たらなければ、
「書いてないことはやっていいこと」
という私法原理に照らせば、豊穣な未開拓のフロンティアであり、単なるビジネスチャンスです。

たとえ、倫理や常識や
「今まで誰もやっていないのでなんとなく違和感がある」
というものがあったとしても、企業としては、
「まんじゅう怖い」
という笑い話のような非法律的で漠たる違和感に萎縮し、豊穣な事業機会を放棄することなど、愚劣の極みであり、株主に対する重大な背信として絶対やってはならないことです。

さらに言えば、たとえ、形式上、外形上、
「法律」
なるものが字面として存在したとしても、
「法律」
と呼ばれるものの中には、陳腐化したもの、不合理なもの、狂ったものもあります。

MKタクシーやヤマト運輸(クロネコヤマト)は、このような、
「陳腐化し、不合理で、あるいは狂った法律」
に果敢にチャレンジして、事業を拡大し、あるいは市場を創出してきた企業として、今では称賛されています。

無論、公然と法令違反を推奨する趣旨ではありません。

ノーアクションレター制度等を使って、規制ニッチを慎重かつ合法的に攻めていく方法もあります。

また、世論を喚起し、消費者の支持を背景に、ロビー活動等の政治的圧力を用いる方法等もあります。

企業法務に携わるプロフェッショナルとして、
「自分固有の矮小な倫理観や違和感を振り回して、論拠を示さず、印象として結論を語る」
という態度は、真摯で知的な営みの放棄であり、もっとも採用してはいけない姿勢です。

明らかな法令違反は別として、結論ないし判断は、あくまで経営陣が下すものです。

参謀として、真摯で知的な営みで、経営判断を支援する企業法務部員の職責は、知性と丹念な調査と柔軟な思考や想像力によって、
「できない理由を探す」
のではなく
「取引や事業を何とか実現させる」べく、
可能な限り多くの選択肢を抽出し、各選択肢に客観的で具体的で正確なプロコン情報(長短所情報)を添えて、経営陣をバックアップすることです。

経営陣の中には、企業法務組織について、
「何かにつけ、ケチをつけ、問題をあげつらい、ネガティブな印象を語って、仕事した気になっている、批評家。法律はともかく、経営のことを全くわかっていない、金儲けに貢献しないどころか、何かにつけて陰気に金儲けの邪魔をする穀潰しで、鬱陶しいだけの厄介者」
と嫌悪している人間も少なからずいます。

そのような社内状況にある場合はもちろんのこと、そうでない場合であっても、参謀組織でもある企業法務組織の最大の課題は、経営陣から、揺るがない信頼を得ることです。

法を曲げてまでも、違法に加担してまでも、経営陣に媚びへつらえ、ということを言うわけではありません。

ですが、
「リスクを印象や感触で察知して、責任逃れのため、華麗な言葉で誤魔化して、卑怯な言い様で煙に巻く」
というような恥ずべき態度に終始していれば、
「何かにつけ、ケチをつけ、問題をあげつらい、ネガティブな印象を語って、仕事した気になっている、批評家。法律はともかく、経営のことを全くわかっていない、金儲けに貢献しないどころか、何かにつけて陰気に金儲けの邪魔をする穀潰しで、鬱陶しいだけの厄介者」
と言われても仕方ありません。

知的専門性を発揮して、リスクを発見・特定・具体化した上で、リスクを避けて事業を諦めさせるだけではなく、事業モデルや取引形態に修正を加えて、リスクを低減させたり、転嫁させる方法を具体的に選択肢として提案していく。

さらには、リスクそのものの正体を見極め、
「法律」
が不合理であるなら
「法律」
と対峙することすら辞さない構えで、トラブルになった場合のダメージやコストまで正確に見積もった上で、MKタクシーやヤマト運輸のように果敢に挑戦する、という方策を含めた積極策をも提言する。

法務部としては、このように、法的な緻密さと柔軟で大胆な想像力を組み合わせながら、ありとあらゆる選択肢を提供する営みを通じて、経営陣の真の信頼を勝ち得るべきです。

言うまでもありませんが、あらゆる企業活動にはリスクがつきものです。

企業活動において、リスクを完全に無くす方法が、1つだけあります。

それは、企業活動そのものをやめてしまうことです。

「コンプライアンス的に問題」
「企業倫理的に問題」
という応答は、一見、知的で見識が高いように見えます。

ですが、前述のとおり、その内実は、まったくの無内容であり、応答者の怠惰と非知性を表しているに過ぎません。

この話を敷衍すれば
「倫理とコンプライアンスを貫徹するため、企業活動そのものをやめる」
という結論にたどり着く、どこか狂ったメッセージを含むものであり、企業法務に携わる者としては、もっとも忌避すべき姿勢と考えます。

いずれにせよ、
「コンプライアンス的に問題」
「企業倫理的に問題」
という言い方は、社外の顧問弁護士としてはもちろんのこと、社内の企業法務部員としても、絶対使うことを忌避すべきものである、と考えます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00012_トップマネジメント直属の法務関連諮問機関(コンプライアンス委員会等)の立場と役割(機能)

企業によっては、経営意思決定を補完すべきものとして、社外専門家を招聘し独立委員会を組織し、経営上の助言や勧告を行わせる場合があります。

典型的な例としては、企業内部で不祥事が生じたため、不祥事に関する調査を行う場合に、独立委員会を立ち上げることで、調査の遂行及び結果の報告を求める場面が挙げられます。

その他、一定の買い占め行為に対して買収防衛策(ライツプラン等)を発動させるか否かを取締役会が決議するにあたって、社外専門家数名で構成される委員会(例えば、企業価値防衛委員会等)を構築し、当該委員会に諮問する場合が挙げられます。

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00011_トップマネジメント直属の法務関連諮問機関(コンプライアンス委員会等)の法的位置づけ

トップマネジメント直属の法務関連諮問機関(コンプライアンス委員会等)の位置づけですが、会社法に特段根拠を持つものではなく、代表取締役や取締役会の私的な諮問機関です。

無論、定款変更により、当該機関の設置根拠を定款に記載すれば、会社の私的自治による任意の法的機関となることもありえます。

この委員会は、高度に専門的な法的論点や取締役会のみが判断すると中立性・公正性に疑義が生じるような事項について、独立・中立の組織の判断を経由することにより、意思決定機関の決定に公正さ・適正さを確保しようとするものであり、代表取締役や取締役会のビジネスジャッジメントを補完する役割をもちます。

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00010_第三者委員会

第三者委員会の設置は増加する傾向にあります。

2010年9月6日付日経新聞の調べによると、日興コーデイアル証券が有価証券報告書の虚偽記載問題で2006年末に弁護士らで構成する特別調査委員会を設置したことが契機となって、第三者委員会の設置は、2007年を境に急増し、社外の専門家で構成する調査委員会を設置した会社は2006年の5社から2007年は24社に拡大したとのことです。

また、2012年3月23日付株式会社帝国データバンクの調査によると、不祥事や事故などを理由に第三者委員会を設置した上場企業は2007年23件、2008年20件、2009年29件、2010年37件、2011年23件とされています。

他方、このような委員会の設置も、独立性に疑義を呈される場合があります。

会社の主張をなぞるだけの、“お墨付き”を与えるだけの委員会を設置・運営しても、かえって批判を招くだけであり、市場や監督当局(金融庁や証券取引所)に対するアピールに欠けることもあります。

この点、日弁連(日本弁護士連合会)は、
「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」
を定め、上記のような
「“形”だけの独立委員会を作って、会社の主張の“お墨付き”を仮装するような手法」
と批判されないような第三者委員会のモデルを提言しています。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

2010年9月6日付日経新聞の報道によると、東京証券取引所も、
「不適切な会計処理が発覚した企業の上場を維持するか否かの審査を判断するに際して、第三者委員会の調査結果も斟酌するが、その際の委員会のあり方としては、日弁連のガイドラインに沿って運営されたものであることが望ましい」
としているようです。

運営管理コード:CLBP32TO32

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00009_文書管理業務の概要

「法務活動の前提環境を整備する」
という法務活動の中には、法令管理に加え、文書管理というものもあります。

契約書等が適正に保存管理されるべきことは当然として、定款、議事録、株主名簿、許可証、登録証などの重要法務文書の管理も重要な法務活動の一環です。

すなわち、これら法務文書は、処分証書であれ、報告証書であれ、
「紛争発生時の証拠として活用されることを想定して、一定の歴史的事実を正確に記したもの」
であり、これを利用する可能性が最も高く、重大な利害関係をもつのが他ならぬ法務セクションであるからです。

そして、文書管理上の最大のリスク、すなわち
「紛失事故(所在分散により発見に長時間要して即時・適時に利用できない事故を含む)」
を予防する意味でも、重要法務文書は法務セクシヨンにおいて集中した原本管理がなされるべきです。

仮に法務セクシヨンが原本管理をしない場合であっても、保管部門に対して適切な管理指導を行うことは
「法務部の重要な支援活動の一つ」
と位置づけられます。

なお、文書管理、すなわち、企業の活動や状況を、
「ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化、整理、保管、管理する」
という活動については、とかく軽視されがちです。

「本当に何があったか、どのような状況か、何が行われたかは、自分たちが一番よく知っている」
「自分たちに関することで体験したことや知っていることは、忘れるわけはないし、思い出すのことは簡単だ」
「自分たちに関することで体験したことや知っていることを想起し、言語化し、文書化し、フォーマル化して、事情を知らない外部の専門家や機関に、客観的かつ簡潔に伝えるなど、大した手間ではないし、すぐできる」
「事実が捻じ曲げられるはずはない」
「説明すればわかってくれるし、説明するなんて簡単」

という楽観的なメンタリティーによるバイアスが作用していると思います。

このような集団的な認知バイアスによって、記録管理という営みは常に軽視されがちですが、実際には、
「自分たちに関することで体験したことや知っていることを想起し、言語化し、文書化し、フォーマル化して、事情を知らない外部の専門家や機関に、客観的かつ簡潔に伝える」
という前提作業が一向に進みません。

このことが訴訟やトラブルにおける重大な耐性欠如となって、無残な結果をもたらします。

俗に
「泣く子と地頭には勝ない」
といいますが、法曹界では、
「役所と銀行には裁判で勝てない」
という俗説があります。

要するに、銀行相手の訴訟や、国相手の国家賠償請求や処分取消訴訟、税務争訟等の行政争訟、さらに(これも一種の国相手の訴訟と言えますが)刑事事件においては、たいてい(90%前後あるいはそれ以上の確率で)、訴訟の相手方が敗訴の憂き目に遭う、という経験上の蓋然性が顕著に存在する、ということです。

この理由について、
「裁判所が銀行や国といった強者やエスタブリッシュメント側にシンパシーがあり、不公平に味方するから」
ということがまことしやかに語られますが、私は、全くの邪推、都市伝説の類だと考えます。

すなわち、
「訴訟において国や銀行が圧倒的な強さを発揮するのは、これらの組織が顕著に高い文書管理能力を有しているから」
と考えるからです。

他方、相当規模が大きく法務組織が充実している特定の一部上場企業を除き、一般市民や一般事業会社においては、まともな記録管理や文書管理がされていません。

どの会社も、最低年に一度は税務申告を強制される関係で、企業の活動や状況を、「取引の会計記録」という形で、
「数字による、 ミエル化、カタチ化、フォーマル化 」
はしています。

しかしながら、
「将来の紛議を想定し、客観性ある言語を用いた文書によって記録する」
という活動については、相当重要な取引案件やプロジェクトであっても、ほとんどの会社では絶望的に欠如しています。

1ヶ月前、半年前、数年前の出来事について、
5W2H(いつ、誰が、どこで、何を、どのように、いくら、どの量を、どうした)
という内容を、痕跡を添えて、明瞭に説明しようとしても、
スマートかつスピーディーにこなすことを、一般市民や一般事業会社に求めても、およそ対応不可能な状況に陥ります。

この作業を迅速かつ適切に取り組むには、

・経営陣が日常から文書管理の意味と価値と重要性を理解し、
・そのための予算とマンパワーがあり、
・文書管理というプラクティスに対して資源動員を行う意思決定がなされ、
・法務部等の適切な組織が整備され、
・法務部等が継続的組織的に記録管理活動をし、
・有事においては、即時・適時に、争点となっている紛争発生時の企業の活動や状況を「言語化、文書化、フォーマル化」してアウトプットできる

という運用体制が必要なのです。

例えば、最強の中央官庁と言われる財務省(旧大蔵省)では、新卒総合職で最も優秀・有望な事務官(公務員試験トップ合格者や、東大法学部全優、在学中司法試験や旧外交官試験等も合格した二冠王、三冠王等の化物クラスの秀才)の配属先は、主計局でも主税局でも国際局でもなく、大臣官房文書課(かつては大臣官房秘書課文書係)であった、と仄聞します。

そのくらい、
「中央官庁という『あらゆる訴訟において連戦連勝する常勝組織』は、文書管理を重要視している」
ということであろう、と思われます。

すなわち、中央官庁でも、銀行でも、組織の活動や状況を、ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化するという活動をことのほか重要視しており、そのためのマンパワーやこれを支える予算があり、トップ・マネジメントの資源動員決定により、十分な体制整備している、ということが前提ないし背景があるのです。

一般市民や一般事業会社が訴訟を起こしたり、訴訟に巻き込まれたりした場合、訴訟代理人弁護士が就いている就いていないにかかわらず、日常の記録管理体制が不備・不十分ということもあり、事件の核心となりうる事実関係や経緯についてさえ、
「具体的事実を、5W2H(いつ、誰が、どこで、何を、どのように、いくら、どの量を、どうした)というフォーマットにしたがって、痕跡を添えて、明瞭に説明する」こと
がほとんどできません。

結果、具体的事実を明瞭な痕跡を以て丁寧に説明するという真摯な(だが、面倒臭い)訴訟活動をギブアップし、
「これは不当」
「これは不正義・不公平」
「正義に反する」
「相手は悪い」
「相手はひどい」
「信義誠実の原則に反する」
「当方の主張の正当性は火を見るより明らかである」
「権利濫用である」
「社会通念上相当性を欠く 」
などといった勇ましい修飾語を羅列して適当に誤魔化すだけで、評価の基礎となる事実に関する論拠や根拠もなく、自分たちだけが感じている主観的印象やイデオロギーを一方的に展開することに終始する(結果、当然の帰結として裁判所が辟易する)、という状況が傾向として多く見受けられます。

「汝(当事者、弁護士)、事実を語れ、我(裁判所)、法を適用せん」
という行動原理に忠実に従う裁判所としては、
「具体的な事実を丁寧かつ誠実に語らず、正義や公平といったイデオロギーを振り回したり、裁判所の職分を冒して一方的に『法を語』ろうとする暴挙・蛮行に及ぶ無骨者」
を嫌悪・忌避し、
「しっかりとした記録を基礎に具体的事実を痕跡を添えて明瞭に説明する国や銀行の主張」
を是と、後者を徹底的に有利に扱う運用をするのは、当然といえば当然です。

いずれにせよ、文書管理、すなわち、企業の活動や状況を、ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化するという活動については、決して軽視されるべきではなく、中央官庁や銀行を範とし、企業規模に応じたしかるべき資源動員を行って、適切適正に遂行されるべき課題として捉えるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00008_企業法務活動を担う社内外の関係当事者

企業法務組織を構築にあたり、企業法務活動を担う社内外の当事者について整理しておきます。

「企業法務」
という企業における法務上の安全保障や有事対応といった活動を担当するのは、法務部や法規室等の企業内法務セクションと顧問弁護士だけと思われがちですが、企業法務を担うのはこれらの部門・人員だけに限りません。

企業法務は、企業の生死を決する重要な機能であり、経営トップが直接判断すべき事項も多く、 トップやトップを補佐すべき機関の役割も非常に重要です。

加えて、企業法務活動展開の上では、依頼部門(あるいは原局、ともいいます。例えば、法務相談を持ち込む事業部や製品部)や協働部門(例えば、契約の財務・税務に関わる部分について協働して解決にあたる財務部門や経理部門)との連携や、他の専門家(監査法人や税理士、弁理士等)との協議・調整も欠かせません。

企業法務を組織面から考察するにあたり、以上のように企業法務活動の担い手(企業法務活動を担うハードウェア)とその機能・役割を広い視点からみていく必要があります。

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00007_「企業法務」のオペレーション種別からの分析・整理の視点

企業法務に要求されるミッションをオペレーション(具体的活動)面から考察しますと、企業法務活動が、単に契約書のチェック、顧問弁護士(契約法律事務所)へ委任した訴訟案件の管理(争訟法務)だけにとどまらないことが理解認識されます。

次に、企業法務活動として行うべき多種多様の活動を、一定の合理的基準で、分析・整理していきます。

おおまかなフェーズ解析をしますと、法務活動は、
「日常ルーティンから、重要な事業上の意思決定や手法選択の段階を経て、紛争発生を意識した予防措置を講じる段階、さらに、予防措置を超えて紛争が発生し、これが発展・拡大する」
という法的危機の段階的発展推移に対応する形で、

1 アセスメント・環境整備フェーズ(フェーズ1)
2 経営政策・法務戦略構築フェーズ(フェーズ2)
3 予防対策フェーズ(フェーズ3)
4 有事対応フェーズ(フェーズ4)

の4段階に区分されます。

歴史的、沿革的には、企業法務の黎明期においては、企業法務の所掌範囲は、もっぱら
「4 有事対応フェーズ(フェーズ4)」
にのみフォーカスされていました。

そもそも、企業が法律に直面するのは、訴訟や紛議が発生し、紛争処理、事件処理というイレギュラーでアブノーマルな事態対処の場面であり、対処のほとんどは、顧問弁護士等社外の専門家によって担われます。

この事態対処の状況を把握し、対処上の態度決定(戦略上の選択肢が分岐する場合における意思決定)場面において、トップをサポートするため、弁護士の報告・連絡・相談の一次窓口として、あるいは、軍事監察のような形で、弁護士の法廷活動を傍聴席から臨戦監察する役割を担う部署として、企業法務部(あるいは法務室、法規室)という組織が独立して設置されるようになりました。

このように、原初的な企業法務組織は、
「紛争処理」
「事故処理」
が中心課題でした。

しかし、その後、企業活動が拡大し、これに併せて法務プラクティスが高度化され洗練されていくとともに、アドホック(対処療法的)な
「紛争処理」「事故処理」法務から「予防法務」へ、
さらに、
「予防法務から戦略法務へ」
という形で法務ニーズの発展的拡大が意識されるようになり、これに伴い、
「企業法務」
の具体的内容も、
「4 有事対応フェーズ(フェーズ4)」
から
「3 予防対策フェーズ(フェーズ3)」
へと拡大的発展を遂げました。

その後も、法務のテーマは予防法務から戦略法務へ、 危機管理や危機予防という消極的・受動的なリスク管理だけでなく、経営意思決定プロセスに法的観点や外部視点を加え、経営政策全体としての合法化・健全化の担保とすべき、
というスローガンとともに、企業法務の所掌範囲はさらなる拡大的発展を遂げ、
「3 予防対策フェーズ(フェーズ3)」
にとどまらず、経営意思決定プロセスや事業手法をも取り込む形で、
「2 経営政策・法務戦略構築フェーズ(フェーズ2)」
も含むべきもの、と拡張して理解認識されるようになりました。

また、企業活動を
「カタチ化、見える化、言語化、文書化、フォーマル化」
する、すなわち、秩序や記録を担う、一種の
「企業内“行政”活動(文書による統制活動)」
とも言うべき管理活動も、重要性の希薄なルーティンなどではなく、企業にとって
「法務安全保障」
の重要な前提を構成する、という点が意識されはじめ、企業法務の重要な活動の1つとして、法務オペレーションの内容として取り込まれていきました。

この種の
「企業の文書管理や記録管理」
は、かつて、総務部や庶務部のルーティンの一部として認識されていました。

上場企業の総務部にとって最重要任務は、最低年に一度行われる定時株主総会というイベント運営でした。

しかしながら、総務部の運営哲学に
「法務安全保障」
という点が強く意識されてこなかったこともあり、昭和末期・平成初期のいわゆる
「総会屋」
が跳梁跋扈した時期に、総務部が総会屋の言いなりになってしまい、刑事事件を含む、商法に違反(会社法施行後における会社法違反)する多数の事件やスキャンダルが発生しました。

このように、総務部の組織ミッションにおいて
「法務安全保障」
という観念が欠缺あるいは希薄であることが企業における致命的な弱点として露呈したことが契機となり、また、企業法務活動を十全化、充実化する動きも相俟って、かつては、総務や庶務のルーティンとして
「法務安全保障」
という側面を強く意識されることなく捉えられていた、
「企業内行政活動」
とも言うべき
「1 アセスメント・環境整備フェーズ(フェーズ1)」

「企業法務」活動
の1つとして意識され、法務部所掌業務として取り込まれるようになるトレンドが生じたものと推測されます。

複雑多岐にわたり、実体や射程範囲が把握しにくい
「企業法務」
ですが、このような
「日常ルーティンから、重要な事業上の意思決定や手法選択の段階を経て、紛争発生を意識した予防措置を講じる段階、さらに、予防措置を超えて紛争が発生し、これが発展・拡大する」
という法的危機の段階的発展推移に対応する 4段階のフェーズ区分にしたがって、整理・分析していくことで、機能的な活動区分や所掌デザインが可能になるものと考えられます。

運営管理コード:CLBP18TO18

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00006_「企業法務」の具体的内容>経営政策・法務戦略構築フェーズ(フェーズ2)> 経営サポート法務(あるいは提言法務・提案法務)(フェーズ2A)

経営サポート法務とは、一般に企業経営上の重要な意思決定における立案・審議(経営政策や経営意思決定及び重要な事業企画の立案・審議)に参加し、企業の意思形成過程に関わる法律業務、法的知見を提供し、各ビジネスジャッジメントに合法性・合理性を確保させるための法務活動を指します。

なお、企業法務セクションが遂行するこのような活動を
「戦略法務」
と呼称する論者もいるようです。

しかし、法務スタッフが経営意思決定にオブザーバーとして参画したり、事業企画を検討する場で提案したりする活動を「戦略法務」と定義づけるのは、
「戦略」
という言葉が有する
「徹底した競争優位を指向し、ときに相手を出し抜くことも辞さない」
とのニュアンスにそぐわないと考えられます。

そこで、著者の概念整理上の見解として、
「戦略法務」
については
「規制不備(法の不備や盲点、さらには行政機関による運用不備や特異な業界慣行により生じた事業機会)を見つけ出し、競争優位確立のためにこれを積極的に利用する法務活動」
として定義づけることとし、上記のような法務活動は
「経営サポート法務」
と定義します。

前世紀においては、企業にとっては、監督官庁こそが、法制定者であり、法執行者であり、紛争解決機関であり“神様”でした。監督官庁と緊密な関係さえ保っていれば、そもそも違反自体を逐一指摘されることはありませんでしたし、万が一違反が明るみになっても、監督官庁が
「何とかしてくれる」
という状況にあったのです。

この時代、
「企業の意思決定における合法性や合理性の確保」
という課題達成との関係では、法務スタッフや社内弁護士の知見を前提に経営意思決定をすることではなく、
「何でも監督官庁によく相談する」
ことこそが重要だったのです。

実際、昭和や平成初期において、金融機関が新しい金融商品を開発しその合法性に疑義が生じたときに相談に行く先は、法務部でも顧問弁護士でもなく、旧大蔵省銀行局(現金融庁)でした。

しかしながら、護送船団行政システムが終焉を迎え、徹底した規制緩和が行われ、監督官庁は
「法を制定し、解釈し、運用し、紛争を解決するオールマイティの神様」
から、法令を執行するという単純な役割(とはいえ、これが本来の役割ですが)に留まることになりました。

ここで、企業の法務上の負荷が増大しました。

「これまで気軽に経営意思決定の合法性に関する問題を相談できた“神様(=監督官庁)”」
が神殿の奥に引っ込んでしまい、自前で法務部(さらには社内弁護士)を増強し、自らのリスクとコストで法令を調べさせ、法務の知見を採取しながら、さらに心配であれば面倒な事前照会制度(ノーアクションレター)を活用するなどして、経営意思決定をしなければならなくなったのです。

このような時代の変化もあり、
「法務部の役割は、事件処理(臨床法務)や契約法務(予防法務)だけでは足りない。
法的知見を提供し、経営政策や経営意思決定や事業企画に際して、これら経営判断に合法性・合理性を確保させる法務活動こそが重要だ」
といわれるようになり、経営サポート法務(提言法務・提案法務。論者により「戦略法務」)というプラクティスが確立するようになったのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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