00133_企業法務ケーススタディ(No.0087):債権差押命令がやってきた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
FUJIMON商事株式会社 代表取締役社長 藤原 本史(ふじわら もとし、39歳)

相談内容: 
先生、裁判所から、債権差し押さえ命令なんていう、オドロオドロシイものが送られてきました!
ウチで去年から取締役として働いてもろてる西原というヤツがいるんですが、どうやら
「西原のウチの会社に対する取締役報酬債権を差し押さえる」
ちゅう内容らしんですわ。
よう話を聞くと、西原が、昔、会社やってる友達の保証人になって、その友達がトンズラこいたから5千万以上の借金背負ってしもて、それで西原が差押えられた、ゆうことですねん。
「西原の役員報酬を、西原やのうて、金貸しに払え」
ちゅうわけですわ。
西原はウチで1日も休まず一生懸命頑張って働いとりますし、西原の上の男の子が有名私立に合格したらしく、西原は、ウチからの報酬をあてに生活設計をしとります。
それに、自分がこさえた借金やのうて、保証人になっただけやないですか。
西原が役員報酬を召しあげられたら、一生懸命勉強してる西原の子どもも大変になりますし、第一、こんなん人道に反しますよ。
一緒に封筒に入っていた陳述書とか何とかゆう紙に、
「西原に対して払とる取締役報酬債権の額とかを書け」
とかってことが書いてありました。
こんなん適当でいいんでしょ。
ま、少なめに書いといて、あんじょうやりますわ。
現金で払ったら、バレませんし。
自分で使ったわけでもない保証人としての借金で、ここまで追い詰められるのはオカシイですよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債権差し押さえとは
債権差押えとは、債権者が、債務者のもっている債権を、裁判所の命令をもらって強制的に取り上げ、そこから未払分を払わせる手続のことをいいます。
例えば、金融業者が、債務者に対して公的に証明されている売掛債権(裁判所の判決や公正証書で存在が明らかになっている債権)を有してるにもかかわらず、債務者が四の五のいって支払わないときに、債務者の銀行預金(銀行に対する預金債権)を強制的に召し上げるのが、債権差し押さえ手続です。
ここで、金融業者が差し押さえをする銀行は、自分が借金を負っているわけではないのですが、債務者が有する預金債権の関係では債務者となりますので、法律上
「第三債務者」
といわれます。
なお、預金債権を差し押さえる場合には、通常、銀行の支店名まで調査、特定しなければならず、これを捜し当てるのが難しい場合があり、金融業者は、債務者が勤務先に対して有する給料や報酬などの債権を差し押さえる場合があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:陳述催告とは
債権差し押さえ命令を受領すると、第三債務者は、債務を弁済することが禁止されます。
差し押さえを無視して債務を支払ってしまっても、差し押さえ債権者から取り立てを受けた場合には、差し押さえ債権者に対してももう一度支払わなければなりません(二重弁済リスク)。
債権差し押さえは、目に見えない
「債権」
というものを相手にするために、債権者としては、本当に債権があるのか、あったとしても、誰のものなのか確信が持てません。
従って、差し押さえが成功したのであれば、さっさと次の手続を開始し、失敗したのであればさらに別の方法を検討するなどする必要があります。
そこで、法律は、
「差し押さえられた債権に関する情報を、差し押さえ命令受領後一定期間内に申し述べなさい」
と第三債務者に対して要求できる制度を定めました。
これが
「陳述催告」
と呼ばれるものです。
ところで、設例のように、第三債務者と債務者との間に親密な関係がある場合には、通謀して、第三債務者が虚偽の陳述を行う可能性があります。
そこで、民事執行法147条2項は、
「故意又は過失により、陳述をしなかったとき、又は不実の陳述をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」
と規定し、バレたら、差し押さえ債権者に損害賠償を請求されることになります。

モデル助言: 
藤原さんが西原さんに同情するのはわかるのですが、ウソはまずいですね。
差し押さえ債権者から損害賠償の訴えを起こされて、文書提出命令とかかけられたら、それまで払い続けていた役員報酬額なんてすぐバレます。
役員を解任するなり辞任させて、従業員として雇用しても一定額の差し押さえは避けられませんし、顧問とかコンサルティングとかの扱いにしても、ウソを突き通すのは難しいです。
西原さんについては、職場を変えたとしても、いつかは職場が債権者にバレて、また職場に債権差し押さえ命令が送られてくる可能性があります。
毎日不安な生活を続けるよりも、自己破産して債務をキレイに清算する方向で検討するべきでしょうね。
会社法が改正され、破産者でも取締役を続けられようになっていますし、生活に全く影響ありません。
大した額ではりませんし、保証債務による破産ですから、免責・復権も問題なくできます。
こういう正攻法で西原さんを助けてあげたらいかがですか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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